第29話
抵抗するだけ時間の無駄だと分かっていたから、さっさと投降したほうがいいなと判断し、武装をすべてその場に置き両手を上げ拘束された当たりで和光が現場に到着する。
「現時刻を持って本件の全権を捜査0課が掌握した。彼らの保護は捜査0課で行う」
現場を取り仕切っていたリーダーにそう告げ、機動隊たちが下がっていく。
「遅い。と言いたいが、正直ちょうどいいくらいだな」
解放されたシャーロックが和光と共に旧真島研究所内に戻る。
警視庁の捜査1課の案件として、深夜にもかかわらず機動隊まで用意して包囲してくれていたらしい。みこ曰く気づいたら囲まれていてどうすればいいのかわからなかったとのこと。
ワットソンとみこを外で待たせておき実況見分してから、和光と後から合流する0課が事後処理をすることになった。
「……なるほどな。今回の件は根が深そうだな」
研究所の地下に作られていた機械は、サヴァン因子の量産工場として機能させるつもりだったようだ。基本的な機構はシャーロックが高校生だったころに考えたものであるが、それを更にブラッシュアップし安定供給できるようにしてあった。
「それと紫水真水の方だが、司法取引の形跡があった」
和光が小森比奈に調べさせていたものであり、なにかしらの裏があると和光も感じていた。
「真水の両親は赤軍、日本赤軍の構成員として活動していた。しかも、特科。特別科学部隊だ」
和光の口から危険な組織の名前が出てきた。
「そいつらが作っていたのが強化人間薬。ある意味サヴァン因子の先駆けともいえるものだな。それの情報と引き換えに紫水真水、いや、この場合旧名である清水真水と言う方がいいな。一人息子であった清水真水を守る為に紫水真水へと改名させた。それがどういう因果か今回の事件に繋がってしまった」
このことを当事者である紫水真水が、知っていたかどうかを知るすべはもう無い。
「紫水の名字は存在しないからな。その辺は過去に何かあってそうなったと考えていたが、司法取引か」
日本で司法取引をしていることは
「そこで紫水真水として再登録されていた。それを知っているのは現状捜査0課と公安0課の面々くらいだな」
「ならその情報を真水に蒼月が流していたのか」
「どういうことだ? なんで公安の蒼月の名前が出てくる?」
和光はまだ知らなかったようだ。
「蒼月総司が公安の情報統制とそこで手に入れた情報を真水に流していた。だから捜査の及ぶ前に身を隠すことができていた」
蒼月が行ったことは被疑者に情報漏洩した程度では済まない。被疑者に加担し犯罪行為に手を染めていた。警察機関の信用、威信にかかわることであり、公安0課としても蒼月の口封じとして殺害することを厭わないだろう。もっともすでにシャーロックの手で殺害されていて、しかも遺体すら残っていない。
「そうだったのか。蒼月は?」
和光の前に、原形をとどめていない蒼月だったものを入れてあるビンを掲げる。
「これが蒼月だったものだ」
和光に投げ渡す。
「そんだけあればDNA解析できるだろ。後のことは捜査0課でなんとかしてくれ」
現場の実況見分は終わったというように、和光を残してワットソンたちの元へと戻る。
ワットソンとみこのところに戻ったところで、公安0課の面々に囲まれた。公安0課は自分達の人相を隠すために組織の敷地外では仮面をつけることになっている。その仮面のせいで普通の人に囲まれた時よりも圧を感じる。
その中の1人が3人の前まで来て仮面を外す。
「実況見分ご苦労であった。本来であれば我々が手を下すべき蒼月総司の始末まで背負わせたようだな。礼を言う」
仮面を外したのは公安0課の課長、
「今回の件で蒼月総司の行動は許されざること、いやあってはならないような事件だ。本件の重大性を鑑みた結果、褒賞金を支払うだけでは君達に対する報酬としては不十分だ」
そう言って2枚の書状を懐からだし、2人の前に見せる。
「そこで天谷連理、
志島大地。ワットソンがワットソンを名乗る前に使っていた実名。つまりワットソンとシャーロックが公安に信頼された。これは連理探偵事務所が本当の意味で警察の業務委託先として信頼のおける組織となった。
「これからは対等な関係として、捜査0課に協力してくれ。さて我々は帰るぞ」
神原が仮面を着け直し手を上げると、公安0課の面々が夜の闇へと消えていった。
今回の件でシャーロックたち連理探偵事務所は、日本で最も強大な組織の後ろ盾を手に入れることができた。
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