比翼連理の探偵は狂気を追う
みない
第1話
『ワット、9時の方角200』
インカム越しに相棒の声を聞き走りだす。
ワットと呼ばれた青年は9時の方角を見据え走る。
華金の会社帰りの人たちの多い繁華街。その中を人にまったくぶつかることもなく駆け抜ける。
「シャロ。標的の動きは?」
インカムの向こうにいる相棒に目標の場所を確認する。
『動きなし。捕獲ネットの用意』
「了解」
繁華街の路地裏。そこに目標を発見する。
「いた。確保する」
ゴミ箱や室外機の上を身軽に跳び越え、時には踏み台にし、目標の迷い猫と距離を詰める。
にゃああああ!
人間離れした速度で距離を詰めてくるワットに驚き、鳴き声と共に逃げ出そうとする。
「逃がすかぁ!」
ポケットから小動物捕獲用のネットを引っ張り出し、捕獲対象の迷い猫に向かって投げる。
一投目は猫を捉えることなく壁に張り付く。
『2時の方向、2コンマ3秒後』
シャロの言う通り、2,3秒後に2時の方角に向けて、予備の捕獲ネットを投げる。
んにゃあああ!
捕獲ネットは猫を心中に捉えられる。抜け出そうとじたばた藻掻くが、捕獲するためのネットをそうやすやすと突破されては困る。
「こいつでいいんだよな?」
インカムの向こうにいるシャロに聞く。
『
退屈そうにワットの疑問に答える。
「いや、な」
探偵業の基本となる失せ物探しで、そんな初歩的なミスをシャロが起こすとは思えない。しかし、捕獲ネットから猫を剥がしケージに入れたところで違和感に気づく。
「こいつ、雌だぞ?」
『は?』
金○が無かった。去勢手術をしていたとしても手術痕が残る。その手術痕すらなかった。
『いや、ICチップの反応はその猫から出ている。一応明日依頼人に確認するとしよう。今日は撤収だ』
シャロが今日の仕事は終わり。と言い放ち通信を切る。
連理探偵事務所
「こいつが保護対象の猫なんだよな?」
繁華街の路地裏で捕まえた猫のケージを机の上に置く。
「確かにこの猫だな」
ケージの中にいる猫の特徴を依頼人から貰った情報と照らし合わせる。ICチップの反応もしっかりとこの猫から出ている。
唯一の違いは雌雄の違いだけであった。
「あら、そうだったんですか」
翌日の昼間に依頼人の女性がやって来た。土曜日であるが、探偵業に決まった休みはない。仕事があるなら消化しきらなければ休むに休めない。
「譲渡された犬猫ではたまにありますから気にしないでください」
依頼人曰く自分の旦那が貰って来た猫で、雄猫だと思っていたらしい。三毛猫は99%雌になるからそうそう間違えないと思うが、譲った人間が取り違えたのだろうか。
シャロも本当はそう言いたいだろうが、依頼人の過失をつつくような行為はしない。探偵事務所としての悪評を立てる必要性はない。
「では、こちら報酬の方になります」
シャロは躊躇うことなく、依頼人から机に置かれた封筒の中身を確認する。
「確かに受け取りました。またのご利用、いえ今後とも御贔屓によろしくお願いします」
ソファに座ったまま丁寧に頭を下げる。
依頼人が帰ったことを知らせるベルの音と共にシャロはさっさと頭を上げる。
「次の仕事はいまのところ来ていない。今日は待機だな」
そう言ってシャロは奥まった場所に設置された特等席に座る。
比翼市連理探偵事務所。
知勇をそろえた二人の探偵が運営する探偵事務所は今日も活動する。
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