第19話
ワットソンはシャーロックと分かれ、一人白雪みおんの救出に向かっていた。
警備員が巡回しているが、ワットソン相手では機能していない。研究資料流出を恐れて監視カメラを設置しなかったことが、ワットソンの行動範囲を阻害するものを減らしていた。
(ここだな)
ひとつの研究室前で立ち止まる。この中に白雪のいることは事前に確認している。正面から入るのはリスクが大きい。シャーロックの作戦通り、天井にある換気用のダクトを経由して研究室の中に入ろうとする。
「この娘に本当に適性があるのか?」
「わからん。サヴァン因子の性質自体よくわかっていないんだ。被験体が暴れたりしなければいい」
3人の研究員の間にあるベッドの上に白雪がいた。
「麻酔の量が増えるだけだろ?」
右側に立っているのは新人研究員なのか、左に立っている研究員に聞いている。
「いや、麻酔の成分の何かが因子に影響を与えているらしい。そのせいで、大量投与した場合、ある程度時間を置く必要があるらしい」
麻酔を構成するなんらかの成分が因子に影響を与えるということを、この研究員は把握しているようだ。
「こんばんわ―――――! ドミナリアピザで―――――――す!」
ダクトを蹴破り、研究室の中に突入する。
中にいた研究員たちは突然の出来事に、目を白黒させながら状況を飲み込もうとする。
「
一番近くにいる研究員に一瞬で跳び、膝蹴りを顔面に叩き込む。倒れ込もうとするその研究員の肩を掴み、そこを軸に回し蹴りで他の研究員たちを蹴り飛ばす。
ワットソンの身体能力で蹴り飛ばされた研究員たちは壁に激突すると、そのまま意識を失い床に倒れ込む。
床に倒れ込んだ研究員たちを壁の近くに縛って放置する。
「あとはこいつを回収して、あとはシャーロックのところに戻るだけだな」
白雪を背負い、研究室から出ていく。
ワットソン単独なら警備員の認識から外れることは容易であるが、少女を背負っている状態ではワットソンの気配を殺す認識阻害ができない。
慎重に帰路を選定しながら歩いていると、けたたましい警報が鳴り響く。ワットソンは自分か被験者の脱走を発見され、すぐに緊急事態が発令されたかと思った。しかし警報は別の物であった。
『緊急事態発生! 資料室にて、火災発生! 繰り返す、資料室にて火災発生!』
資料室はシャーロックが調べていたはずの場所である。そこで火災があったということは、シャーロックが放火したということになる。場合によっては、警察のスパイが潜入に合わせて放火を行ったとも考えられる。
「さっさと合流ポイントに急ぐか」
研究員や警備員が火災の対応で慌てているうちに逃げるべきだと判断し、ワットソンは合流予定の場所に急ぐ。
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