第18話

 シャーロックの過去に考えた理論のひとつにサヴァン因子という技術があった。それを活用することにより、擬似的なサヴァン症候群を発症させることができるようになる。しかし、サヴァン症候群自体が発症率が低く、それ自体も代償的な性質として知能障害を伴うことも多い。天才因子として実用的な活用ができるようなものではない。


 この因子に関して言えば、シャーロック自身が自分の身体で実験している。自分の身体能力強化や、感覚強化のように応用して扱えるようにはなってきているが、それを他の人間が同じように制御できるとは到底思えない。


「…………、随分と研究しているようだな」

 シャーロックは研究資料が置かれている部屋を見つけ、その中の資料を調べ始めていた。

 白雪みおんをワットソンに任せ、ここの資料を漁っていた。ワットソンの能力があれば、人の一人二人攫ってくるのは容易だろう。しかし、この資料を調べる人員としては戦力にはならない。

 ここに置かれている研究資料には、シャーロックが想定していた研究結果とは異なる進化を遂げたサヴァン因子の研究をしていた。

「人類の進化において、サヴァン因子の発見は革命を巻き起こす。か」

 あくまで自分のサヴァン症候群の抑制及び、治療を目的に研究していた課程で、偶然発見されたサヴァンの性質だけを持った因子。これを定着させる方法を確立しているわけではない。

 発見したシャーロックは自分のサヴァン症候群を完治させた後に、因子を打ち込んでいる。ワットソンも同じように因子を打ち込んでいるが、ワットソンは不意打ちのように拉致監禁され、その最中の事件で強制的に打ち込まれたものだ。その結果、ワットソンはサヴァン症候群のように副作用として、感情を抑制する能力が弱くなっていた。

「この辺の資料は破棄しないとマズいな」

 人類の進化と銘打っているがやっていることは、生命の禁忌に挑戦する研究だ。これを残しておくこと自体が危険である。予定外のやり方ではあるがトリニトロトルエンを使い爆破することを考える。爆破による焼却失敗の可能性を考慮し、発火材を用いて焼却処分する用意をする。

「ワットは白雪の回収が終わったか?」

 ワットソンからの連絡がまだないことに違和感を覚える。ワットソンがこの程度の任務を失敗するとは到底思えない。

「まさかな」

 公安0課が裏にいる可能性を仮定し、ワットソンの元へと急ぐ。

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