第17話
ブーッ、ブーッ。
和光のスマホにメールが届く。
「先輩、何か来てますよ」
花奏の言葉で渋々スマホを確認する。
「……っつ、そういうことか」
和光はスマホに届いたメールを花奏に見せる。
「? どういうことですか?」
『紫水真水が居るか不明。比翼大橋の向こう側に拠点を置いている。』
最初から連理の探偵を対策していた。
少なくとも、連理の探偵がどういう立場なのかを知っている人物が内通している。紫水真水は最初から罠を張られていたということになる。
「あいつ、紫水真水には、捜査0課か公安0課に内通者がいたってことだ」
捜査4課も0課も完全に真水の手の上で踊らされていた。比翼市内にある真島研究所を張っていた4課は、紫水真水によって意図的につま弾きにされていたようなものだ。
「! そんなことが、あるんですか?」
花奏が驚く。
「わからん。いまは向こうの身柄を押さえることを優先する」
和光はスマホを操作し、本部に電話を掛ける。
「俺だ。紫水真水のいる可能性がある場所がわかった。場所は旧龍ヶ崎工建事務所。繰り返す旧龍ヶ崎工建事務所だ」
和光が捜査0課の戦力を集め、旧龍ヶ崎工業建設の事務所に急ぐ。
ハイエースが停まり、誘拐犯たちが内部に入って行くことを確認すると、その後を追うように内部に入る。
「……、こいつはすごいな」
シャーロックたちは和光たちより先に内部に潜入し、そこでとんでもないものを見つけてしまった。
「なにが凄いんだ?」
ワットソンにはすごさが全く分かっていない。
「これは現代建築じゃ、再現不可能だと思っていた技術だ。ここまで再現できるとは思ってなかった」
移転が決まり、閉鎖しているはずの龍ヶ崎工建の事務所ではあるが、龍ヶ崎工建の作業員が新人の練習などをさせるために、まだ残しているということらしい。
一見すると行き止まりようだが、壁をよく見るとうっすらと筋が入っている。
「これは忍者屋敷にあった隠し扉みたいなものだ」
シャーロックが筋をなぞるように指を動かすと、壁がゆっくりと回転し通路が現れる。
「おおー! こんなもんがあったのか」
ワットソンは忍者屋敷の仕掛けを見れたことに驚いているようだが、シャーロックは別の理由で驚いていた。
和風の屋敷であれば、木目の隙間があるのは普通だったからこそ、使える仕掛けであったが、コンクリートの壁で同じような仕掛けを作れる建築家がいるということになる。そのことにシャーロックは驚いていた。
この先にいるのは紫水真水がいなくとも、それに準ずる技術の研究者がいることは確かである。
「ここを開いていく。ワット、先に行くからついてこい」
「おう!」
シャーロックが先行するかたちで龍ヶ崎工建の事務所の奥へと走りだす。
敵地のど真ん中ということもあり、慎重さを忘れるわけにはいかない。そのためワットソンを先行させるよりも、シャーロック自身が先行することにした。
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