第20話

 シャーロックとワットソンは別々に行動していた。それが危険な状況を更に混沌とさせることになっていた。

 捜査0課の戦闘部隊が突入し、シャーロックが資料室の資料を焼却、そしてワットソンが保護対象を担いで合流地点に走っていた。


「くそ。どうなってんだ、工業建設の事務所にこんなもんつくってあったのかよ」

 和光が悪態を吐きながら、シャーロックが開けっ放しにした隠し扉を通り地下に辿り着く。

 シャーロックから送られたメールの場所に連理探偵事務所のバイクが停めてあり、その内部に潜入した後なのを確認した。その内部には申請されていない違法な地下建築をしてあった。

「和光さん! 機動隊到着しました」

 花奏が機動隊を引き連れて、地下に降りてくる。

「機動隊はここの制圧。及び資料の回収。作戦開始」

 和光は目的を簡潔に述べ、地下の研究員と警備員の制圧を指示する。

 捜査0課の機動隊は対人制圧を主としているわけではないが、民間人の制圧程度であれば問題なく行える。しかし、それが民間人と同等程度の実力であることが条件である。強化人間のようなものを相手にすることは難しい。

「例の研究資料を持っている可能性が高い。必ず複数人で行動しろ」

 和光は唇を噛み、唯一の出入口に最終防衛ラインを敷きながら、2人が攫われた少女を連れて帰って来るのを待つ。

 先行した2人が心配だが、ここにあるものが処分するべきシャーロックの書いた論文であることがわかっている以上、書類の処分をするだろう。

「あいつらなら大丈夫だと思うが、クソ。何か嫌な予感がするな」

 和光は現場の指揮をとらなければならない立場ではあるが、過去に起きた事件に似通った雰囲気を感じた。あのときはシャーロックとワットソンではなく、その2人を拾って来た連理探偵事務所の所長だった。あの一件以降、探偵事務所の実質的運営をしているのがシャーロックたちになっていた。あのときと違い、2人で中に突入している。

 和光は懐から携帯を取り出すと、ある人物に電話を掛ける。

「あー、比奈ひな。俺だ。最終防衛ラインを下げる。そっちを最終ラインにして俺も中に入ってくる」

『りょ。花奏下げんの?』

「一応連れてく。殉職しない程度に頑張ってもらう」

 建物の外にいる捜査0課の同僚刑事、小森比奈こもりひなに現場の指揮権を委譲して、突入用のB装備を着こんでいく。総重量10kgの重装備だが、対特殊装備の機動部隊に比べれば軽装である。花奏が着終わるのを確認すると、お互いの拳銃の9mm弾の入ったマガジンの数を確認する。

「花奏。実戦は初めてだろ?」

 無言で頷く。

「最初に言っておく。死ぬな。要救助対象を保護した現時点で即時撤退。だがその間に、ここの奥にいる奴等はあの2人を除いてほぼ全員敵だ。銃の使用解禁されているとはいえ、せいぜい10数人を無力化させるのがいいとこだ」

 自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

「だから、要救助者の保護までは弾の温存を意識しておけ」

「……了解」

 花奏も和光の声から死地に赴く戦士のような雰囲気を感じていた。

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