第24話

 旧真島研究所の前までシャーロックたちは着いた。門は閉ざされているが、鍵がかかっている様子はない。

「突っ込むぞ」

 シャーロックは迷うことなく、アクセル全開で門を突き破る。派手に門を吹き飛ばしながら敷地に侵入するが、誰かが動くような気配はない。

「シャロ、あの部屋だ!」

 ワットソンが人の動く気配をいち早く察知する。

 1階の中央付近にある部屋であり、その窓に先日依頼を寄越した少女のような人影もあった。

「ワット! 壁ごとブチヌクぞ!」

 シャーロックはバイクのエンジンとは別のエンジンを起動させる。強襲用バイクの正面に積まれた強襲兵器が姿を現す。壁を破壊し強行突入する為の破城鎚が蒸気を噴き上げながら始動の瞬間を待つ。

「オリヤァァァァァ!」

 最高速度で壁にぶつかる瞬間、破城鎚を駆動させ、壁を壊しながら室内へと突入する。


 ギシャァァァァァァ!


 車体の側面を床を滑らせるようにし、無理矢理減速させたことで車体から悲鳴のような音が室内に響く。

「連理探偵事務所だ。特務権限により紫水真水を誘拐及び、未成年略取の現行犯で捕縛する」

 紫水みこの前に立ち塞がるようにバイクを止め、シャーロックが真水の足元に向け発砲する。

「おやおや、もうここを突き止められてしまいましたか。実験の邪魔をされるのは困りますよ」

 シャーロックとワットソンが臨戦態勢を取っているにもかかわらず、真水は余裕があるように手を振る。

「蒼月、みこを例の場所に連れて行きなさい」

「了解」

 シャーロックが振り返ると、蒼月と呼ばれた男性が椅子に拘束されたままのみこを軽々と持ち上げ、どこかに連れ去ろうとしていた。

「クソ。ワット、真水は任せた。オレはあっちを追う」

 蒼月を追うようにシャーロックが部屋を出ていく。

「くくく。やはりシャーロックは蒼月が気になるようだな。さて、ワットソン。君はどこまで知っているんだい?」

 真水はワットソンが記憶喪失なのを知っていた。

「なにが言いてーんだ? 最悪お前をぶち殺してもいいんだぜ?」

 ワットソンが真水に向けて走りだす。

 真水に肉薄し右手に握った刀を振る。しかしその刃は真水の白衣を斬り裂き、脇腹の皮膚に当たった辺りから全く動かない。

「ああ、その程度か」

 反応することができなかったから動けなかったのではない。回避する必要が無いと判断し、その場に立ち止まっていた。

「クソ。全然動かねぇ。なら、もう一発!」

 左の小太刀を同じように叩きつける。ただの人間の皮膚であれば、一瞬で引き裂けるような切れ味のある小太刀である。そのワットソンの小太刀が1㎜たりとも刃が通らないことがおかしい。

「熊谷早紀の骨を加工したものだろう。…………ふむ、捜査0課の奴等かあそこの技術班ならこのくらいは出来るだろうな」

 紫水真水は自分の脇腹に叩きつけられた刃を眺めながら、小太刀の製作者について考えていた。

「舐めんなぁ!」

 小太刀を引くと、回し蹴りを小太刀が止められたのとは逆の脇腹に入れる。


 メシッ。


 骨の軋むような音が、ワットソンの足から聞こえてきた。

「くだらん。直線的で直情的なのはサヴァン因子の影響か? それとも本質的なものか?」

 紫水真水はワットソンの顔を覗き込み、挑発するように笑みを浮かべる。

「クソがァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 真水の鼻先に向けてヘッドバットを決めるが、脳を震わせるのはワットソン自身の方だった。

「硬ッテェんだよ! ボケェ!」

 脳震盪で身体が後ろの方に倒れ込みそうになったが、2,3歩下がった程度で立ち直る。

「当たり前だ。お前たちとは違う。これはサヴァン因子の進化に依るものだ。これは身体能力強化の延長線上のものだが、お前の持つ因子の上位体だ。お前たちがどれだけ足搔いても届かない。残念だ」

 ワットソンの鳩尾に膝蹴りを入れる。

「ッツゥ……」

 たった一撃でワットソンの意識が奪われた。

 それほどまでに紫水真水とワットソンの身体能力の差が大きすぎた。

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