第5話
和光が乗ってきた警察車両に乗り数分。
「本当にここにいるんだろうな?」
和光は比翼市に住んでいる人物が犯人であるとは思えなかった。しかし、シャーロックには確信に近い根拠があるようだ。
「ああそうだ。まず被害者の周りにあった血痕に不審な足跡があった」
和光は自分の持ってきた資料に目を通す。しかし、そんな決定的な証拠を犯人が残すとは思えない。不審な足跡などはなかったと報告されている。
「そんな報告はないぞシャーロック。どういうことだ?」
「単純なことだ。普通に鑑識班が調べたところでそんなものは出ない」
鑑識班が見逃してしまうようなものがこの写真に写っているのかと、和光が写真に穴が開くほど真剣に見つめる。
普通の人間の目に見えないような極々小さい足跡とは考えられない。
「和光。もう少し血痕を見てみろ」
被害者の倒れている血だまりのまわりに動物のような足跡が写り込んでいる。大きさ的に猫の足程度の大きさだ。
「もしかしてこれが犯人の足跡だとでもいうのか?」
シャーロックは猫を犯人と考えているような言い分だ。
「惜しいな。ついでに言えば俺たちしか知らない情報を合わせよう。俺たちに依頼が一件あった。それが少し変な依頼だった」
変な依頼? 和光は眉をしかめる。
「依頼自体は猫探しで至って普通のはなしだ。ただ、件の猫の性別を依頼人が間違えていた」
「玉抜きの手術痕と雌を間違えるような愛猫家がいるとは思えねーんだよな」
たしかに去勢を終えた雄猫と雌猫を間違えはしないだろう。玉はなくとも竿は残る。
「だが、依頼人はそれを間違えていた。ありえるか?」
和光も違和感を覚えたようだ。
「確かにそれはおかしいな。だがそれだけじゃないだろ」
これを犯人と疑う理由としては薄すぎる。
探偵という職業柄飼い猫のICチップのコードを教えてもらうことがある。そう前置きをして続きを話しだす。
「基本的に飼われている動物には、野良と飼育との識別を兼ねてICチップを打つだろ? それの反応が同じだった。雌雄のデータは保管されていないが、雄と雌が入れ替わることはないだろ? 意図的に打ち換えない限りは」
和光もワットソンもそれにどういう意味があるのかわかっていなかった。
「……はぁ、結論から言えば、この猫は意図的に性別が変わる何かがあったということだ。行方不明になった日から逆算すると、5日間の中で何らかの事件に巻き込まれた……」
「つーことは、あの猫が
ワットソンが禁忌実験の名前を口に出す。
「まさか、そういうことか? シャーロック」
和光の顔から血の気が引ける。そんなことをやっている組織があることを知らないわけではない。本当に実験に着手しているとは考えていなかった。
「急がねえと、犠牲者が増えるかもしれないじゃねえか」
和光はアクセルにかける足に少し力を込め、目的地にいち早く着くために荒っぽい運転に切り替わった。
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