第6話

「ここだな」

 比翼市の一軒の私宅に辿り着く。

 三人が車を降りると、和光が急いでインターホンを鳴らす。

『はーい。どちら様でしょうか?』

 インターホンの向こう側から先日の依頼人の声が聞こえてくる。

 和光は安堵したように息を吐いてから刑事としての顔になる。

「警察です。捜査でこちらに来ました鍵を開けてもらえますか?」

 インターホンの向こうで驚いたような雰囲気があったが、すんなりと鍵を開け、家の中へと入れてくれた。




「どうぞ」

 家主の周防飾利すおうかざりがお茶を出す。

「ありがとうございます。こちらの二人はご存じですね?」

 確認するようにシャーロックとワットソンを指す。

「はい。そちらの探偵事務所のほうに依頼を出させていただきました。それでどうして警察の方が探偵と一緒に来ているのですか?」

 向こうとしても理由を知りたいだろう。和光ではなく、シャーロックが口を開く。

「それはあなたの飼っている猫のことで来ています。わたしたちとこちらの刑事は同じ目的で行動しているに過ぎません」

 猫? と周防は聞き返す。

「結論からいえば、あなたから受けた依頼が失敗していた。ということです」

 周防から渡された封筒を中身をそのままに机の上に置く。

「どういう、ことですか?」

 和光も周防もどういうことなのか、シャーロックの意図が全く読めない。

「さっき申した通りです。依頼に失敗していた。それを証明するために飼い猫をガレージの方にケージに入れて連れて来て下さい」

 シャーロックは何かをしようしているようだ。

「そうですね。彼の言っていることがどういうことなのか興味があります。わたしの質疑を後にさせてもらって結構ですよ」

 和光も何かを察し、シャーロックの後押しするようにことを言う。

「はぁ、わかりました。ミケをガレージに連れていけばいいんですね」

 周防はよくわかっていないようだが、シャーロックたちからすれば目的のほとんど達成したと言ってもいいようなものだった。




「連れてきました」

 周防が『わたしが何をしたんだ』と言いたいような不満そうな顔をしている猫をケージに入れたままガレージに連れてくる。

 シャーロックはここなら被害を最小限に抑えられると踏んで、ガレージにターゲットを連れて来させた。

「危険が及ぶ可能性があるので、和光、刑事の後ろにいてもらえますか?」

 周防が猫の入ったケージをガレージの中央に置くと、和光の後ろに隠れ、背後から何をするのか見られるように和光が立ち位置を調整する。

「和光。市民を守る義務くらいは果たしてくれよ?」

 周防に被害が及ばないとは言えないというように確認する。

「当然だ。それで一体何をするつもりだシャーロック」

「いまからこいつにこの一週間で体内に取り入れたものを吐かせるんだろ?」

 和光の問いにワットソンが答える。シャーロックが何をしようとしているのかわかったようだ。

「そうだ。ワットの言う通りのことをする。なにが出てくるかわからないので壁際まで下がっといた方がいいぞ」

 もう何かおかしいものが出てくることを確信しているような物言いに、和光は周防を守るように壁際まで下がる。

「ミケに実害はないんですよね?」

 不安そうにシャーロットを見る周防を安心させるように、

「もうその猫は生きてないと思いますよ? これから何が起きるか見ればわかると思いますが」

 シャーロックにそんなつもりは毛頭なかった。

 周防が何か言いたそうに和光の前に出ようとするのを、和光は前に出られないように止める。

「ワット、一応戦闘用意はしておけ」

 シャーロックは懐からティッシュを取り出すと、それに何か薬品を吹きかけるとそれを猫に嗅がせる。

 薬品の匂いを嗅ぐと猫がむせはじめる。


「シャーロック。何が始まってるんだ?」

 和光にはただ猫がむせているようにしか見えていない。

 和光の問いを無視してケージの扉を開け、猫を外に引きずり出す。

 猫がえづきながら、ガレージの床に今朝から昨晩あたりにかけて食べたのであろうキャットフードがカラカラと音を立てながら吐き出される。

「な、なにをしているんですか?」

 周防も驚いたようにカラカラと音を立てながら吐かれる猫を見る。

 猫がえずきながらも、頑なになにかを吐き出そうとしない。

「これからもっと面白いものが見れるぞ」

 そのが口元から漏れ出ると、限界を迎えたように吐き出す。

「ひっ」

「おいおい。マジかよ」

 猫の口から人間の内臓のようなものが吐き出される。

 形状から推測するに肝臓のようなもの。先日殺害された湖南はじめが腹を引き裂かれ、肝臓を抜き盗られていた。

 まだまだ、取り込んだものを吐き出しきれていないものが吐かれる。

 ベシャっと音を立て、人間の心臓が吐き出される。

 周防は息を呑み、和光は驚愕の表情を浮かべていた。シャーロックが推理したように、この猫が先日起きた二件の殺人事件の容疑者である動かぬ証拠であった。

「周防さんこれらのものに覚えはありますか?」

 和光が後ろに隠れている周防に確認する。

「そんなわけないだろ。犯人はこいつだって言ってるだろ」

 シャーロックは猫の腹を蹴り飛ばし、を吐き出させる。

 蹴られた衝撃でバラバラに分割されたの遺体を吐き出す。


 バラバラにされたミケだったものを吐き出すと、猫だったものの全身から煙を噴き上げながら人間女性に変化する。

「あれは、そんなことが、あるのか」

 和光が驚くのも無理のない話だ。猫に擬態していたのは連続殺人犯の熊谷早紀くまがやさきだった。

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