第7話
連続殺人事件の現行犯として逮捕勾留されていた。勾留中に脱走を果たし、数ヶ月の間行方をくらましていた。一時は大騒動になったが、一か月足らずで熊谷早紀は島根県内で拘束された。
「なぜ、奴がここにいるんだ⁉」
和光が声を荒げる。
「拘束されたのはニセモノだろうな。DNA検査をすれば別人だって……、いやあの研究ならわからないか」
シャーロックになにか心当たりがあるようだ。
「和光、周防を連れてガレージの外に出ろ。ワットの邪魔になる。あと鑑識と処理班も」
「わかった。周防さん、逃げましょう。ここは危険です」
和光がパニック状態になっている周防の肩を掴み、捜査0課にのみ携帯を許されている睡眠薬を嗅がせ、昏睡状態にさせる。そのまま周防を担ぎ二人にふり返ることなくガレージから脱出する。
「さて、こいつは話せるような状態かな?」
シャーロックが熊谷に声をかけるが、返事はない。
「あ、ああ」
熊谷早紀は周囲を確認するようにあたりをぐるりと見回す。
彼女がワットソンとシャーロックを見定めると、そのまま二人に襲い掛かってきた。
「ワット。任せる」
「おう。任された」
シャーロックと熊谷の間に身体を滑り込ませ、熊谷の腹部に掌底を叩き込む。
サヴァン症候群因子の影響で強化された身体機能から、打ち込まれる衝撃は人間の体術の域を超えていた。その威力を証明するように、熊谷の身体はガレージの中心近くにいたはずだが、たった一発の掌底でガレージの壁に叩きつけられていた。
「おいおい、アイツバケモンか?」
凄まじい威力で壁に叩きつけられていたはずなのに、熊谷はピンピンしていた。
猫のように身体を伸ばし身を震わせると、真っ直ぐワットソンに向かって跳んできた。
「おおぅ。シャロこいつ殺していいんだよな?」
掌底で吹き飛ばした後すぐに、腰に差していた小太刀に手を掛けていたから、咄嗟の防御が間に合っていた。
熊谷の両手の爪は人間のそれと異なる猫のような爪に変異していた。
「生かしても何の価値もない。殺すつもりでやらないと、時間の無駄だ」
もう彼女は人間とカウントするには変質しすぎていた。人と猫を無理矢理混ぜ合わせたような怪物になるか、その前に殺し辛うじてヒトとして死ぬかの二択しかない。
「なら容赦しなくていいな」
ワットソンが怪我をさせないようにするために立てずにいた刃を立て、熊谷の両腕を切り落とす。
「油断するなよ?」
シャーロックが笑みを浮かべながら、ホルスターからシャーロメシアを抜く。
熊谷の切り落とされた両手首から、完全にネコ科のそれと化した腕が生える。再生というより存在の置き換えと言ったほうがいいような速度で生えてきていたが、その両腕が生えるとほぼ同時に、ワットソンの小太刀は熊谷の両足を切り飛ばし、熊谷に動く隙を与えなかった。
バランスを崩したところで、すぐに両足の代替としてネコ科の後ろ脚が生えてくる。
「遅すぎんだよ」
両足が置き換わるとほぼ同時に、ワットソンの小太刀は膝から下を切り落とし動く手段を奪う。
両腕だけでなんとか外に逃げようとした熊谷の心臓と脳天を銃弾が貫く。
「チェックメイトだ」
心臓と脳に打ち込んだ銃弾は、生体機能を完全停止させるために血液成分と結合することで超高温に変化する特殊弾だった。
その場で全身が反射反応のようにはねると、生物としての機能が完全に停止していた。
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