第3話

 二人は和光から回収した武器を持って、鬼灯鮮花の遺体が発見された場所に調査に来ていた。

「ここが発見された場所か」

 比翼市の繁華街とオフィス街の間となる場所。オフィス街に近い位置ではあるが、そこまで人通りが多いというわけでもない。

「ここであんなふうに殺すとなると音がな」

 ワットソンは周囲を見渡し、犯行場所ここではないと判断する。

「そういう憶測は、視野を狭めるぞ。一撃で仕留めていたとしたら? 不意打ちで意識を失っていたら? そういうことも考えなければ、と戦えないぞ」

 シャーロックは冷静に当時の状況を考える。

 推定死亡時刻は18時前後。遺体の損傷が激しく、致命傷がわからない状態になっていた。

「ワット、上まで行けるか?」

「何でだ? 急に言われてもな」

 周囲にある一番高い建物はせいぜい10メートルあるかないか程度。しかし、シャーロックには何かが見えていた。

「いいから。あとどれくらいかかる」

「ん-、人目を気にするなら10秒以上かかるが、気にしないなら5秒くらいだな」

 建物の壁に触れると迷うことなくスルスルと壁を登って行く。

 10秒か。そう言って再びシャーロックは考えることを始めた。

 常人に建物の壁を登ることは出来ない。しかし、ワットソンのように身体能力が異常化している人間であればできる。

「シャロ、着いたぞ」

 平日の昼間であれば人目はほとんどない。それを示すようにワットソンは5秒ほどで屋上まで登り切っていた。しかし、シャーロックはまだ考えがまとまらないらしく、思考を巡らせることに集中していた。

「まー、見渡す限りビルだらけだな。景色がいいとか言うわけでもねぇし」

 多少低くとも見える範囲にビルがあり、屋上も死角になるというわけではなさそうだ。

「ワット、そこから何が見える?」

 シャーロットから質問が来る。

「見える範囲だけで言えば、ビルが立ち並んでる。俺くらいなら別に誰も気に止めなそうだな」

 夕闇に紛れて活動していたとすれば簡単だろうが、犯行時刻を考えるとその可能性は薄い。犯行当日は猫探しの依頼でこの辺りにもワットソンもいたはずだ。そのなかで犯行が起きたということになる。

「ワット。帰るぞ」

「おい、シャロどうした?」

 シャーロットはなにか気づいたのか踵を返す。それを見るとワットソンは迷うことなく屋上から飛び降りる。

 周りに比べて低く平日の昼間とはいえ、人通りのある公道に飛び降りてしまった。

 周囲から飛び降り自殺と勘違いされ、通行人から悲鳴が上がってしまった。

「あー、やべ」

 ワットソンは人混みの中に紛れるように逃げていく。

 昼休みの時間を過ぎたあたりだったとはいえ、かなりの人間にワットソンの奇行が目撃されていた。

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