第12話
二チームに分かれた
ギルベイン達が正面からゴブリンの拠点を攻める手筈になっているため、同時に反対側から攻め込んで混乱しているところを一気に叩く、というのが計画である。
そのためガンド達は、南側へと回り込んでいるところであった。
「さて……この辺りじゃな。まずはギルベイン達に、魔法攻撃で狼煙を上げてもらうことになっておる。それが来るまでは待機じゃ」
ガンドは自身の顎髭を触りながら、他の冒険者達を振り返る。
「ゴブリン相手に、こんなチンタラする意味あるんですか。ギルベインさんはB級でしょ? それに俺らも、D級冒険者の中じゃそれなりにやるつもりですよ」
若い冒険者が、ガンドへと不平を漏らす。
「武装した集団を相手に、油断する阿呆がおるか。上位種がおるかもしれんという話じゃ。低級の魔物とはいえ、予想外のことが起きて隊が乱れれば……こちらが全滅することも有り得ん話ではないのだぞ」
ガンドがギロリと、他の冒険者を睨む。
「す、すみません……」
そのとき、森奥より足音が聞こえてきた。
ゴブリン達の拠点とは逆方向である。
冒険者達は顔を見合わせ、沈黙した。
狩りにでも出ていたゴブリンであれば、声を上げて存在を暴かれては厄介である。
正体を確認次第、すぐに仕留めなければいけない。
「数が少ないと思ったら、チーム分けしていたんですね。面倒ですね」
エメラルド色の髪をした、美青年であった。
頭には優雅な羽帽子を被っており、温和に目を細めている。
「魔物じゃない……人間か。その身なり、山賊というわけでもなさそうじゃな。我々は、依頼で街から来た冒険者じゃ。お前さん、ゴブリンの砦に何か……」
「見かけ通り、察しの悪い御仁です」
青年はくすりと微笑むと、ゆらりと両腕を上げた。
「私の名はダルク……。あなた方に恨みはありませんが、ベインブルクの冒険者を減らしておけとの主のご命令。すぐには騒ぎにならぬよう、こうして冒険者として僻地に出てきたところを叩くことにしたんですよ」
青年が目を見開く。
悪意の込められた眼光が、ガンド一行を貫いた。
ガンドは素早く大斧を構え、前に出た。
「儂らが冒険者じゃと知って、よう堂々と姿を晒したもんじゃ。どこの手の者かは知らんが、無事で済むと思うなよ!」
ガンドは声を張り上げる。
計画的に冒険者を襲撃するなんて真っ当な相手ではない。
どこぞの貴族や豪商が抱えている暗殺者だとすれば、とてもではないが自分達だけで敵う相手ではないと、ガンドはそう理解していた。
だが、仲間を鼓舞するためにも、怯えなどおくびにも出さなかった。
「健気ですねえ」
しかしダルクは、ガンドの心中を見透かして嘲笑う。
「あなたの勇気に敬意を称し、先手はお譲りしましょう。油断が不慮の死を招くというのなら、あなた方の攻撃も私に届くかもしれませんよ」
「な、なんだと……?」
ガンドはその言葉に動揺したが、しかし好機には違いない。
「横に広がり、矢と魔法を奴へ浴びせるのじゃ! 儂が正面から行く!」
「わかりました、ガンドさん!」
ガンドの指示通り、後ろに控えている冒険者達が横へ広がった。
真っ向から挑むガンド。
他の冒険者達は、矢や魔弾を放ってダルクを狙う。
「風魔法〈悪意の逆風〉」
ダルクが指を鳴らす。
彼の中心に魔法陣が光り、風の障壁が展開される。
風の障壁は一気に拡散し、砂埃を巻き上げた。
「ぐっ……!」
ガンドが斧で視界を庇ったその刹那、周囲から悲鳴が起こった。
「があっ!」
「ぐわああっ!」
慌ててガンドが振り返れば、後方に控えていた全ての冒険者達が、地面へと倒れている。
彼らは身体に魔弾や、矢を受けていた。
「いい魔法でしょう? 砂塵で視界を奪いつつ、飛び道具を同方向へお返しする魔法。もっとも、同じ威力ではありませんがね。私の契約精霊、〈風禍のパズズ〉の力です」
「き……貴様、卑怯なぁっ!」
ガンドがダルクへと飛び掛かる。
「卑怯……? おかしなことを言う」
ダルクは苦笑しながら、宙に魔法陣を刻む。
「〈風魔の鉤爪〉」
鋭い風の刃が十字に走り、ガンドを弾き飛ばした。
手にしていた斧が地面へと突き刺さる。
「ぐはっ!」
ガンドは地面に身体を打ち付け、呻き声を上げる。
ガンドは辛うじて顔を上げ、ダルクの顔を睨みつける。
まるで戦いにもなっていなかった。
実力は最低でもA級冒険者以上だ。
「卑怯……そういうことは、正々堂々とやっていれば、勝てた戦いで言うものですよ」
ダルクはわざとらしく肩を竦めた。
「片割れの方々はどちらへお向かわれに?」
「……どうじゃろうな?」
ガンドは鼻で笑う。
しかし、内心では焦りがあった。
(不味いの……)
表から攻め入るチームは、魔法で狼煙を上げるという手筈になっている。
ダルクも煙が上がれば、片割れの位置などすぐにわかってしまう。
ダルクの目的は皆殺しにある。
自分達はもう駄目だ。
だからせめて、彼らには助かって欲しい。
「参ったな……拷問は苦手なんです。だって、楽しくて、やり過ぎてしまうから」
ダルクは手の指をコキコキと鳴らし、悪意に満ちた笑みを浮かべる。
(頼む……狼煙よ、上がらんでくれ! 引き返すのじゃ、皆……! この男は、あまりに異様……!)
ガンドが強く念じた、そのときであった。
尋常でない爆音が鳴り響く。
その轟音と共に、ゴブリンの砦内にあった、一番高い塔が崩れ落ちていった。
「ゴオオオオオオッ!?」
あっという間に砦内に猛炎が広がっていき、ゴブリン達が大慌てで外へと散り散りになって逃げていく。
「な、何が起きたのじゃ!?」
ガンドはゴブリンの砦から上がる猛炎と、予定にあった狼煙を、上手く結びつけることができなかった。
いや、そんなことができるわけがない。
「……どうやらこれは、雑魚に構っている場合ではないようですね」
ダルクは阿鼻叫喚の悲鳴が上がる砦を眺めながら、そう呟いた。
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