第8話
「着きましたよ、お三方。ここが都市ベインブルクです」
御者のハインスさんが振り返り、僕達へとそう伝える。
「す、凄い、こんなに建物がいっぱい……!」
『見よ、マルク! あの巨大な建造物を! 我も新しい祭殿は、ああいう感じにしてもらいたい! おお、ニンゲンがいっぱいおる! かような場所が現界にはあるのか!』
僕はネロと抱き合って、大燥ぎしていた。
整備された石の通路が続き、たくさんの人達が行き交っている。
道の脇には露店が並び、なんとも賑やかな様子であった。
『ここが話に聞きたる『都市』というものか! 与太の類と思っておったが、まさか実在したとはな……!』
「はは、そんな大仰なものではないんですが……喜んでいただき、何よりです」
ハインスさんが苦笑交じりにそう口にする。
「……あんまり騒がないで欲しいわね、恥ずかしい」
ロゼッタさんが溜め息を吐く。
その後、ハインスさんと別れることになった。
「ではマルク少年、御達者で! 君の活躍を期待していますよ」
「ありがとうございました、ハインスさん」
「もしも行き場やお金に困ったら、いつでも呼んでくださいね! 君の目指す自由な旅とは少し変わってしまうでしょうが……護衛兼、運搬の手伝いとして、商人としては喉から手が出る程に欲しい人材ですから! しばらくはこの都市にいますから、商会で名前を出していただければ、また会えるはずです!」
ハインスさんが凄い早口で捲し立てる。
「け、検討させてもらいますね……」
僕は苦笑いしつつ、そう返した。
「マルク、あなた、冒険者ギルドに行きたいでしょう? 私が案内してあげるわ」
「冒険者ギルド……?」
「それも知らないのね……。魔物狩りの活動を支援する、各地の領主が取り仕切っている協会よ。ロック鳥の亡骸を引き取ってもらえるわ。当面の生活資金にはなるはずだし、冒険者として登録しておけば旅人としても生きやすくなるわ」
「なるほど……! でしたら是非、案内をお願いします、ロゼッタさん!」
「じゃあ案内するけれど、その前に……精霊は異界に帰しておいた方がいいわ」
『な、なんであると!? 何故であるか!』
ロゼッタさんに言われ、ネロが触手を威嚇するように持ち上げる。
「何故って……召喚を維持するのは、マナの無駄でしょう? それに契約者が精霊を召喚しているのは、剣を剥き出しで構えているようなものよ。精霊が人を襲うかもしれないし……」
『我はそのような粗暴な下級精霊とは違う!』
ネロがロゼッタを見上げ、唸り声を上げる。
「できれば連れて行ってあげたいです。ネロは現界に興味があって……それに、僕の友達なんです」
『よく言ってくれたぞ、マルクよ! そう、そうである、我とマルクは、友達であるからな!』
「う~ん……」
ロゼッタが、ひょいとネロを抱き上げた。
ネロはロゼッタの腕の中で、必死に身体を捩る。
『な、何をするか! 離せ、離せ、小娘!』
「まあ、対話できる時点で知性が高いのは間違いないし……見掛けも可愛らしいから、大丈夫かしら」
『小娘如きが、この大精霊ネロディアスを捕まえて、可愛らしいだと!』
ネロがカッと双眸を見開く。
『……ま、まぁ、悪い気はせんか』
その後、触手と尾を垂らし、大人しくなった。
ネロ的に、可愛らしいはセーフだったようだ。
言っていいものかどうか悩んでいたが、これからは心置きなく言ってあげることにしよう。
「ただ新参者ってだけで粗探しして騒ぎ立てる奴もいるし、登録が終わるまでは付き添ってあげるわ」
「何から何までありがとうございます、ロゼッタさん」
僕はロゼッタさんへと頭を下げた。
「いいのよ、命を助けてもらったのは私の方なんだから」
『おい、小娘、あまり馴れ馴れしく触ってくれるなよ! 我が友と認めたのは、マルクだけである!』
ネロがロゼッタを見上げて、そう憤る。
ロゼッタは無言でネロの首周りを撫でた。
『や、止めよっ、止めるのだ! うぐっ!』
ネロは喜びで持ち上がりそうになるになる尾を必死に抑え、抗っていた
ネロは首周りを撫でられるのが好きらしい。
覚えておこう。
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