第13話
「い、いいかい、マルク君! こ、今回の依頼は、ゴブリンを何体狩れるかで各自の貢献度が決定される! た、確かにまぁ……まずまずの魔法だったが、今の一撃だけで君をE級冒険者に認めるわけにはいけない! 冒険者とは、そう、判断力だ!」
ギルベインさんが、大仰な身振りを交えて僕へとそう熱弁する。
『……今のマルクの一撃を見ても諦めんとは』
ネロが僕の傍らで、呆れたように溜め息を吐く。
「なんでもいいから因縁を付けないと気が収まらないんでしょうね」
ロゼッタさんが、冷たい目でギルベインさんを睨んでいた。
「な、なんだ、私が何か、間違ったことを言っているか! ぼ、冒険者とは、勇気と知識、そして判断力がだね……! マナさえ強ければ、貴族の箱入り娘のご令嬢でもいいのか? んん、違うだろ!」
ギルベインさんが、歯を剥き出してロゼッタさんを睨み返す。
「なるほど……ご教示ありがとうございます! ギルベインさん! 頑張ってみます!」
僕の言葉に、ギルベインさんは安堵したように表情を和らげ、咳払いを挟む。
「あ、ああ、やってみるといい。ま……ゴブリンなんて、下級の魔物……それも、先の一撃で恐慌状態にある。十体くらいは軽く狩ってもらわないと、まあ、話にならないかな、うん」
「ギルベイン、あなた……それだけ言って、マルクに負けたら赤っ恥だってわかってるの? 本当に逃げて散らばっていくゴブリンを、今から十体も狩れるんでしょうね」
ロゼッタさんの言葉に、ギルベインさんの表情が歪む。
「あ、当たり前に決まっているだろうが!」
ギルベインさんが腕を突き出す。
手の甲の召喚紋が輝き、彼の契約精霊である白銀狐が姿を現した。
「クォン」
「行くぞ、白銀狐ちゃん! 最低限……格好が付くくらいの結果は、どうにか見繕わないと……!」
ギルベインさんが砦へと走り出そうとした、そのときであった。
一陣の風が吹き荒れ……ギルベインさんの目前に、エメラルド色の髪をした男が現れた。
切れ長の細い目をした、優しげな美青年だった。
「な、なんだね、君は!」
「不躾ですみませんが、あなた方の中で一番強い御方は?」
男は、優しげの笑みのまま、ギルベインさんへとそう問いかけた。
ギルベインさんはちらりと尻目で僕の方を振り返ったが、すぐに前へと向き直った。
「それは……も、勿論、この私だよ。知らないのかい? この私……〈黄金剣のギルベイン〉を」
「あまりベインブルクには来ないもので、それはとんだ失礼を」
憤るギルベインさんに対して、男は慇懃に頭を下げる。
「フン、全くだよ。ところで今、我々はレイドクエストの途中なのだが、邪魔しないでもらえるかね? これ見よがしに前に現れて、何のつもりだい?」
「一番強いのがあなた、ということは……先の砦への攻撃も、あなたが行ったのですね」
「む……? い、いや、それはまぁ、半分くらい私と言えなくもないが……」
「私の名はダルク……〈静寂の風ダルク〉と、そう呼ばれています。主の命令で、この都市の冒険者を狩って回っていたんですが、多少はできる人間がいたようですね。ギルベイン……なるほど、ノーマークでしたよ」
エメラルド色の髪の男……ダルクは、そう口にすると目を見開き、ギルベインさんを睨みつける。
「ぼ、冒険者狩りだって!?」
ダルクが手許にルーン文字を浮かべて、腕を振るう。
風の刃が走り、地面に大きな亀裂が走った。
「ひぃっ!」
ギルベインさんが大きく仰け反る。
「どうですか、一騎打ちといきませんか? 邪魔な蠅虫が飛び回るのは興覚めだ。あなたも、どうせ戦力にならないお仲間を犬死させたくはないでしょう」
……何やら、剣呑な様子だった。
どうやらダルクは、主とやらの命令で、ベインブルクの冒険者を狙っているらしい。
「しかし、やれやれ……一冒険者相手に、本気を出さねばならないとは。小鬼狩りに、とんだイレギュラーが交ざっていたものです。だが、ここで洗い出せておけてよかったというべきか」
僕は唇を噛み、前へと出た。
ネロと契約している僕ならば、きっとギルベインさんの援護もできるはずだ。
まだ、まともにネロの力を制御できている自信はないけれど……それでも、ただ見ているだけなんて、できなかった。
「ギルベインさん、僕も手伝いま……!」
「助けてくれマルク君っ!」
ギルベインさんは、地面を滑るように僕の背後へと回り込んだ。
「ギルベインさん?」
「わ、私には無理だ! 無理なんだよう……マルク君。元々、パーティーメンバーだったロゼッタの力でB級になっただけで……C級冒険者の中でも、戦闘能力はせいぜい中の下くらいだったんだ! だから彼女が抜けてから、冒険者の補佐側に回らざるを得なかったんだ……」
ギルベインさんは涙まで零しながら、地面に伏してそう吐露した。
「なんとも不甲斐ない黄金剣があったものですね。茶番は結構……そろそろ、アレをやった人間に出てきてもらいましょうか」
ダルクが背後の、砦の方を指で示す。
「……砦には、僕が魔法を撃ちました」
僕がそう口にすると、ダルクは目を細め、好戦的な笑みを浮かべる。
「へえ……こんな子供が。いや、むしろ、ノーマークだったことに合点がいった。雑魚の相手も飽いていたところです。楽しませてもらいますよ、少年」
僕の横にネロが立った。
『……少々気を付けよ、マルク。この男……ベインブルクの冒険者とは、確かに格が違うようである』
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