第23話

『後は触手で捕縛するだけであるな。単純なパワータイプの分、ダルクよりもむしろ楽であったか』


 ネロが安堵したようにそう口にする。


「我が、ダルクより弱いだと……? そうか、貴様が奴の口にしていた『謎の少年』だったか。確かにこれだけのマナ……奴が尻尾を巻いて逃げ出したわけだ」


 ゼータの巨躯を光が纏う。

 四肢のバラバラになっていた身体が即座に再生していく。


「確かに貴様は強い……だが、我は敗れん! 我は、もう弱者の側には回らんと誓ったのだ! あの御方より授けられた、不滅の精霊アドニスの力……この程度で破れるとは思うなよ!」


 ゼータが起き上がり、僕を睨みつけた。


「我は〈不滅の土塊ゼータ〉! 不滅……故に不死、故に不敗! 我らの理想の国のため……マルク

貴様を排除する!」


「まだ戦えるのか!」


 身体が吹き飛んだ際に、素早く追撃を放つべきだった。

 全力の〈炎球〉は、そう何発も撃つことはできない。

 三発も撃てば、僕のマナは空っぽになってしまう。


「土魔法〈神魔巨像〉!」


 大きな魔法陣が展開される。

 周囲の土がゼータを覆い尽くしていき、あっという間に十メートル以上はある巨体へと変化した。


「よもやこんなところで全力を出すことになるとはな……。しかし、これで先程の〈炎球〉程度……何発でも受け止めてやれるぞ!」


「な、なんだこの大きさ……」


「これだけのマナを使わされれば、この先の使命に支障が出るだろう……。しかし、我は〈真理の番人〉のため、貴様の排除を優先すべきだと判断した! 光栄に思うがよい!」


 巨大な土塊の手が僕へと迫ってくる。

 僕は触手で地面を叩き、その反動で跳んで巨人の手から脱した。


 僕の着地点へと、素早く逆の手の拳が飛んでくる。

 触手で受け止め、その衝撃で背後へと跳んだ。


「辛うじてやり過ごせているけど、どうしよう……。あれだけ大きかったら、僕の〈炎球〉じゃ削りきれない!」


 僕の横へとネロが着地した。


『あの巨躯はただのハリボテである! 重量が増した分、破壊力こそ上がっているように見えるが……その実、力が大きく増したわけではないはずだ! ……だが、こちらの力で仕留めきれんのは厄介であるな。癪ではあるが、誘拐された令嬢の確保を優先するべきか』


 そうだ……元々ギルド長は、戦闘は行うべきではない、避けられるなら避けた方がいいと言っていた。

 重量が上がった分、ゼータは遅くなっている。

 逃げながら侯爵令嬢を捜した方がいいのかもしれない。


 迫ってくる巨腕。

 僕は触手を横薙ぎにしてぶつける。

 だが、相手の膂力を受けきれず、吹き飛ばされた……。


「ぐっ……!」


 家屋に叩きつけられそうになったのを、触手を丸めて身体を庇う。

 そのまま受け身を取り、上手く一連の動作で起き上がることができた。


『す、少し危なかったぞ、マルクよ! 触手で受け身を取ったのはよかったが……危うく叩きつけられるところであった。ここまで頑丈な相手に、長々と戦うのは危険である』


 僕はゼータへと顔を上げる。

 奴の巨腕は触手鞭を受けて指が削げ落ちていたが、光が灯ると一瞬の内に再生していった。


「思ったより、柔らかい……?」


 そうだ……ネロも重量が増して破壊力が上がったが、根本的な力はさほど変わっていないと変化していた。

 頑丈さも同じだ。

 鎧が分厚くこそなったものの、全体的な硬度は落ちているようだ。

 ネロの口にしていた通り、あの巨体はハリボテの盾でしかないのだ。


「だったら、やりようがあるはず……!」


「逃げ回ろうと無駄なことだ! アドニスの精霊鎧を破ることなど、絶対にできはせん!」


 ゼータがまた巨腕を向けてくる。

 僕は触手で地面を叩いて、自身の身体を高く跳ね上げた。


 ゼータは僕を捕らえようとしたが、手の動きは間に合わなかった。

 やはりあの大きすぎる身体を自在に動かすだけの膂力が根本的にないらしい。


「チィッ!」


 一瞬、ゼータは僕を見失った。

 僕はその間に、空中で炎のルーン文字を浮かべていた。

 マナを注ぎ、〈炎球〉を膨らませていく。


『いかん……無闇に大技を放てば、マナが底を尽きるぞ!』


 ネロが僕へと忠告を出す。


 〈炎球〉は一発でいい。

 僕が狙うのは、ゼータの片足だった。


「くらえっ!」


 宙からの一撃。

 爆炎がゼータの左足を吹き飛ばした。


「ぐっ、無駄なことを……!」


 体勢を崩したゼータが、その場に転倒する。

 派手に身体を打ち付け、身体が傷だらけになっていた。


 僕は触手で受け身を取り、体勢を整えた。


『なるほど、奴は重量が増したが、脆くなっている。転倒に弱いと踏んだのだな』


 ネロが感心したように口にした。


「小癪な……だがこの程度、すぐに再生してくれるわ!」


 僕はゼータの残った右足を、触手で絡め取ってがっしりと掴んだ。


「貴様、何を……!」


「持ち上がれぇっ!」


 僕は触手で引っ張り上げて、ゼータの身体を地面へと叩き付けた。

 かなり重たかったが、どうにか成功してよかった。


「ごぼぉっ!」


 激しく身体を打ち付けたゼータは、身体がボロボロと崩れ、削れていく。

 自身の重量の生み出す落下衝撃に、まるで身体が耐えられていない。

 特に、巨体の下敷きになった右腕は粉々になっていた。


「これでは、再生が追いつかなっ……!」


「もう一撃っ!」


 身体が削れた分、容易に持ち上がった。

 逆側へ叩きつけ、より身軽になったゼータを更に逆側へと叩き付ける。


 だが、四撃目は、左手で受け身を取られた。

 左腕が輝いており……どうやら、衝撃を受ける前から再生を始めていたようだ。


「舐めてくれるなよ……我に、敗北は許されておらんのだ!」


 ゼータが僕を睨みつける。

 しかし、そのとき僕は、右手に炎のルーン文字を浮かべていた。


「しまっ……!」


「〈炎球〉!」


 ゼータの胸部を、僕の〈炎球〉が抉る。

 爆炎が、半壊していたゼータの巨体を完全に粉砕した。




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【作者からのお願い】

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