第43話 追撃 7

「ま、待ってくれ!」


ロドエルの予想もしない突然の待ったに体が反応してしまった。


「何? 今更命乞い?」


気持ちが一旦止まったせいで、相手の話を聞く態勢になってしまっていた。


「これを見てもらえないだろうか?」


そう言ってロドエルが懐から拳大の真っ赤な石を取り出してみせた。


「それが何?」

『ノール様、危険です。あれは術式禁呪です!』

「え?」


その時だった。

僕の足に違和感を感じたのは。


「手?」

『申し訳ありません! エルダ機が仮死状態で動いています!』


その手はエルダさんの手だった。

確かに動きを止め、ミネルヴァさんも仮死状態に入ったと言っていたはず。

なのに動きだし地面を這うような恰好で僕の足を掴んでいた。


「え? あ、あ・・れ?」

『危険・・です・・・はや・・く・は・・・なれ・・・・防御体勢・・きん・きゅう!』


ミネルヴァさん? ミネルヴァさん?!!


返事が無い・・・・こんな・・こと・・・あ、あれ?

僕も・・何だか・・・おか・・しい?

目眩がする。

目の前が霞む。

何? 体が重い・・・


「やはり、直接接触ならこの術式禁呪も効くようだな」

「?」

「お前が現れた時からこの禁呪石に魔力を注いで術式禁呪を発動していたのだが、まったく効果が現れん。サードのエルダでさえ5分と経たずに支配できたというのにだ。お前は一体何者だ? ただの魔導人形では無い事は分かるが、まさか伝説のエストラーダオリジナルというわけでもなかろう?」


こいつ・・


「まあ、良かろう。こうして私の物になるのだから問題はないか。ただエルダを失うのは少し勿体なかったがな」


え?


「なんだ? その怖い顔は? まだ術式が魔核を完全に支配していないのだろうな・・・なら教えてやろう。どうやったか知らんがお前がエルダを機能停止させたのだろう? それが動いた。これは術式禁呪によるものだ。この術式は機能停止した魔導人形でも強制的に魔力を循環させ体を動かす事が出来るが、その代わり停止している魔核に魔力が流れ込む為に過大な負荷が掛かり核が破損してしまうという事だ」


なに・・にやにや・・・しながら・・・くそ! じゃあ・・・エルダさん・・・・・・は


「魔核が破損した魔導人形は自動修復も出来ずに動かなくなる。人でいう死だ。どうだ?面白いだろう?」


「な、な・・・何言ってやがる!!」

「はは、魔導人形のくせに良い顔をする。そんなお前がもうじき私に跪き、忠誠を誓うと思うとゾクゾクするぞ」

「へ・・へんたい!」

「何とでも言えばいい。その嫌悪に満ちた顔が私を敬愛するようになるのだからな」


だ、駄目だ。

体が・・いう事をきかない。

意識も・・・・くそ! このままじゃあ・・・・・・


「ドン!!!」


「な!? 何だ!!?」

「・・・・お・・・・ねぇ・・・ええ・・えぇえ・えぇええええさまあああああああ!!」

「ドガ! ガガ!! ガン! ガラガラ!! ガン! ドン! ガシャシャダン!」

「う、うわぁあああ! て、天井が崩れて!!」


「ダン!!」

「お姉様! ご無事ですかぁああ!!」

「・・イチ・ゴ? が降って・・来た?」

「な!? お姉様!! どうされたのですか!? 顔が蒼白ですよ! 何があった・・」

「・・イチ・ゴ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お姉様・・・お命ちょうだいします」

「いきなり現れて、なに禁呪に支配されているの!!」

「フハハハハハ! お、驚かせやがって! まさかシングルナンバー101515が仲間だったとはな! だがこの禁呪石を私が持っている限り魔導人形は全て私の意のままだ! さあ! お前も私の物になれ!!」


イチゴ、せめてロドエルの真上にでも落ちなさいよ。


「馬鹿、イチゴ」

「え?」

「ノール姉様、これ、奪いましたのでもう大丈夫です」


真っ赤な石を僕に見せながら、淡々と話すのはマイだった。


「え? あれ? そういえば言葉も体も自由に動ける。マイそれって禁呪石?」

「はい。イチゴを囮にして変態をぶん殴って奪取しました」


マイが指さす方向には、気絶し泡を噴いて倒れているロドエルの姿があった。


「た、助かったぁ~、ありがとうマイ」

「いえ、ノールお姉様を支配しようなどと考える人間など、消し炭にでもしてやりたかったところですが、今回の騒動の件を償わせるためには、やむなく生かしておきました」


そ、そう・・・


「ま、まあそれはそうとして、マイには感謝するよ」

「い、いえ、あ、ありがとうございます」


マイの頬が見る見るうちに真っ赤になった。

可愛らしい・・・いやそれより!


「マイ! 早くエルダさんを施設に! 治療しないと!」

「分かりました。ではイチゴさん」

「・・・・・・・・・・・はい?」

「呆けてる場合じゃありません。お姉様の役にたつときですよ」

「お姉様? ・・・・・・・・お姉様! ご無事でしたか?!!」


飛び付いて抱き着こうとするイチゴ。

ちょっと可愛いと思いつつも今はそれどころじゃないので右手で止めました。


「そんな・・・お姉様、私をお嫌いになったのですか?」

「そんな事あるわけないでしょ。イチゴは可愛いから好きだよ」

「本当ですか?!」

「うん、本当。だからお願いを聞いてくれる?」

「はい! 命の続くかぎり!」

「イチゴさん、馬鹿はそれくらいにして機能停止しているエルダ様を魔導施設にお願いします」

「エルダ様? はっ!? お姉様これは?!」

「エルダさんを早く治療しないと危ないんだ、お願いできるかな?」

「これは酷い・・・分かりました!! このイチゴ、お姉様のお願いなら命をもかけますよ!!」


そう言うが早いか、イチゴはエルダを抱えながら地上に向かって飛び上がっていった。

イチゴってあんなにけたたましい子だったの?

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