第5話 目覚めと出会い2
『・・・仮死モード解除確認』
ん? 声?
女性の声の様な気がするけど・・・それにしても無機質な声だな。
どんな女性なんだ?
僕は、その女性を見ようと
『チェック・・・・・仮死モード解除直後で体組織の活動が78パーセントまで回復いたしましたが、まだ各器官が正常作動していない為です。聴覚器官は稼働し始めておりますので周囲100m程度までの声なら聞こえます』
僕の疑問に的確に回答が返って来た。
けどこの回答に僕は理解できていない。
だいたい何、この言い方だと僕が作り物のロボットか何かみたいじゃないか。
『はい、ゼロ様は大賢者エストラーダ様が作り出されました魔導人形でございます』
はい?
『魔導工学、機械工学、生物学、魔術学、遺伝学、自然科学、兵器工学、その他多くの技術の粋を集めた人型魔導生体、それがあなた、ナンバーゼロ様です』
・・・・・・何? 僕が魔導人形・・・・? ん? あれ、そう言えばあの時・・・どこかの施設で・・変な医者と・・・エストラーダ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あああああああ!! あの変態マッドサイエンティスト!!
『はい、そのマッドサイエンティストです』
そうだ! 確かあの変態が僕の目の前に現れて・・・そして・・・?
あれからどうなったんだ?
『エストラーダ様は施設ごと破壊されゼロ様と心中を図られました』
はあ? 心中?
『はい』
僕が?
『はい』
誰と?
『変態魔導士エストラーダ様です』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう言えば記憶の奥の片隅のそのまた奥にそんな事があった様な記憶が・・・・・
と、いう事は、ここはあの世なの?!
『いえ、あの世と言うのが天界や地獄界を指すのでしたら違います。ここは人や生物がすむ現世界です』
現実と言う言葉に現実感は全く無い。
そりゃそうでしょ?
僕は魔導人形でエストラーダって言うあの医者なのか変態なのか分からんオッサンに作られたなんて現実味を感じろと言う方がおかしいよ。
だいたい僕の名前はゼロなんかじゃなくて、僕は・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あれ?
思い浮かばない・・・・・・・あれ? あれ? 僕って・・・・・・・・誰だ?
『ですのでナンバーゼロ様です』
いやそれは分かったから、そうじゃなくて本当の名前は・・・・・・・やっぱり思い出せない。
待て、待て!!
僕ってゼロなの?
いや、いや! 確かに違う名前があったはず・・・なんだけど・・・・
『仮死モードから稼働モードに切り替わられて記憶が混乱されているのではありませんか?』
確かに色んな記憶が有るのはわかるし、それがグルグルと交錯してよく分からなくなっている気はするのだけど・・・・って、さっきから聞こえるこの声は誰?!
『申し遅れました。私はゼロ様のサポートさせていただいております独立管理システムです』
何? 管理システム?
『はい、元はエストラーダ魔導研究所の管理システムでしたが、崩壊に伴いゼロ様の脳核の一部を使わせていただき退避させていただきました。今後はゼロ様専用のサポートシステムとして活躍させていただきます。末永くお付き合いください』
あ、いえいえ、こちらこそよろしくお願いします・・・・って! 何? 脳核? それって僕の頭の中って事?
『はい、ご理解いただきありがとうございます』
いや、いや! ご理解していないって!
なんなのあなたは!?
『なんなのと言われましても先程説明させていただいた通りで・・もう一度説明しますか』
あぁ! ちょっと待って! 説明はもういいから!
『そうですか? それはありがとうございます』
はぁ~、たぶん何度聞いても同じだろう。
それにどうやら嘘とか夢とかじゃなさそうだというのが分かってしまう。
実際、僕の頭の中にそう言った存在が在るという認識は感じているし、実際に声が聞こえるわけだし・・・・
でもそうなると、僕は魔導人形という存在だという事になる。
そして、あのエストラーダという変態との記憶も実際にあった事で、エストラーダ研究所が崩壊し僕が仮死状態でいて、そして今、目覚めたという事は本当だと考えるしかないのか・・・・
はぁ~まずは分かった。
とにかく今の状況は受け入れよう。
『はい、御納得いただきありがとうございます』
いや全部を納得したわけじゃないけど、これ以上考えてもたぶん変わらないだろうからこれからの事を考えよう。
で、僕の現状を教えてくれないかな?
『はい。先ずゼロ様は地中深くに埋もれた研究所の一部施設と共に永きに渡り仮死状態で眠っておられました』
仮死状態ね、でどれくらい寝ていたの?
『おおよそ300年程です』
そうか、300年か・・・・・って! おい! 300年?!
『はい、私の独立思考機構が狂っていなければですが』
はは、狂っていて欲しいな・・・あれ? 彼女が狂っていたら僕の命も無かったかもしれないのか?
300年ね。それじゃあやっぱり僕って人間ではないの?
『正確には、限りなく人種族に近い体組織で作られた強化生命体と言うべきでしょうか。人形と言う呼称ではありますが、基本は人となんら変わるところはございませんので、人工的に生み出された人と言えます。ちなみに相手の性別、種族関係無しに受胎も可能です』
そう、なんだかちょっとホッとした。
ただの機械仕掛けの無機物な存在だとしたら、ちょっと悲しいかなって思っていたから。
けど、最後の言葉が気になるな。
『最後でございますか?』
うん、受胎、性別種族関係ないって・・・つまり、お腹に授かる子供の相手は男性でも女性でも、人以外でも子供を作れるという事?
『エストラーダ様の設計思想ではそうでございます』
アホか!! エストラーダの馬鹿やろう!
どんな思考をしているんだよ!!
『大賢者としての探求心と言っておられました。強化された魔導人形と、この世界で最強の竜種と結合させたらどんな種族が産まれるのだろうか? とか、相手が女性の場合の性行為の記録収集とか』
馬鹿やろう!!
女性相手の記録って、ただの変態じゃないか!
それに竜種って爬虫類じゃないの? 卵だよね? 僕が卵を産むって事?
『可能だと言っておられました』
う、うう・・・・想像してしまった・・・・・どこが基本は人だよ。
とにかく変な種族に襲われないようにしよう。
『それは大丈夫でございます。ゼロ様より強い種族は竜種以外そうそうおりません』
竜は強いんだ。
『はい』
取り敢えず竜には気をつけることにしよう。
それから僕は、この管理システムさんに色々と聞き、僕の事、現状の事を少しづつ理解していった。
まずあの変態は世間からは魔導人形の基礎を作り出した大魔導士であり大賢者であること。
魔導人形とは、人の生活を補助する為に生み出され、メイドの仕事から戦争の兵器まで多種多様な能力を身に着けた人工生命体らしいという事。
そしてエストラーダが生み出したこの僕は結構高性能な魔導人形だということ。
・・・はぁ~、こうして聞いただけでは実感が湧かないけど受け入れるしかなさそうだ。
『ご理解いただきありがとうございます』
まあ無理矢理だけどね。
それより一つ聞いていいかな?
『なんでございますか?』
あなたには名前は無いの?
『名前でございますか?』
そう。
『あります』
あるんだ。
管理システムさんって言いずらいから教えてくれる?
『管理システムです』
いや、だからそうじゃなくて呼称だよ。
『ですから管理システムと言います』
・・・・・・・聞いた僕が悪かった。
分かったじゃあ僕が名前を付けてあげる。
流石に管理システムさんって言いにくいもの。
『ありがとうござます』
相変わらず抑揚がない喋り方だから本当に喜んでいるのだろうか?
ま、僕が呼びにくいから付けるんだから問題無いか。
・・・さて、どうしようか・・・・ポチとかタマっていう訳にはいかないだろうし・・・かと言って管理者さんとか安直だしね・・・・そうだ!
えっとね・・・ミネルヴァ、なんてどうかな?
『・・・・・・・・』
あれ?
駄目だったかな? 気に入らない?
『良い・・』
え?
『とっても素晴らしい名前です』
気に入ってもらえたのかな?
『はい、これから私の事はミネルヴァとお呼び下さい。力のかぎりゼロ様の補佐を務めさせていただきます』
うん、こちらこそよろしく。
ミネルヴァさんには色々聞きたい事もあるし助けてもらわないと困ると思うから。
『はい』
じゃあさっそくだけど、僕はこれからどうしたら良いと思う?
『はい。今の状態ですと後数分で90パーセントの回復が完了いたしますので、この場からの地上へ脱出する事を提案します』
なるほど。
つまり今の僕は地上ではない場所に居るって言う事だね?
『はい。魔力探査を元に計算したところ地上より500メートル地下だと判断いたします』
そっか。
地下500メートルか・・・・・・はい?
『地上より垂直深度で500メートルです』
・・・・・何それ?
『いえ、地上への脱出経路も確認済みですのでご心配いりません』
ミネルヴァさん! それを早く言ってよ!!
『申し訳ございません』
ま、まあ良いや。
それじゃあ稼働可能になったら脱出の準備を始めよう。
『はい。ではそれまでの間にゼロ様の戦闘能力を確認いたしましょう』
ん? 何で?
『いえ、地上まで出る間、ダンジョン化しているこの地下空洞に多種多様で凶暴な魔獣が数多く存在しておりますので、戦闘は避けられない為です』
そうか、そりゃ仕方ないね・・・・・ん? 戦闘?
『はい』
誰が?
『ゼロ様です』
何と?
『大型の凶悪魔獣です』
何それ?
『人々に厄災を振り撒く魔力で大きな力を使う凶悪な存在です』
それと僕が戦うの?
『魔導人形の役割の一つですし、倒さないと地上に到達出来ません』
うう、何だか泣きたくなってきた。
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