第4話 目覚めと出会い1

「フィリア様! このままでは追いつかれてしまいます!」

「分かっているわよ! レイ!」


ブラハロンド王国の都、ロッテンフェルブを守る城壁の外、街道から外れたフォーゲットの森の中を頭からすっぽりと外套で身を隠した二つの影が走り抜ける。

道と言う道ではない獣道の様なところを生い茂る木々の間を上手くかわしながら結構な速度で走り抜けていた。

かなり訓練をしているのはその動作だけでも分かる。


「とにかく走るのよ!」

「しかし、気付かれてしまった以上、逃げ切るのは不可能ですよ」

「・・・・・・・・」


前を走る、名前はフィリアと呼ばれた女の子は、後ろを付いて走るレイと言う女性の言葉に沈黙してしまった。

つまりレイという女性の言葉をフィリアという少女も承知しているからだ。


「・・・・追って来ているのは、シングルジュエルかしら?」


沈黙を止め、レイに向けて質問するフィリアに対して、レイは少し考える仕草をしてみせた。


「そうですね・・・私達に追いつけるのですから、ノージュエルではないでしょう」

「・・・・・はぁ、国家戦力まで使って私達を捕まえたいのかしら」


レイの答えに溜息をいて愚痴をこぼすフィリア。


「捕まえたいのはフィリア様であって私は関係ないと思いますよ?」

「う、つ、冷たいわね、レイ?」

「そうですか? こうして逃げるのに付き合ってあげてますでしょ?」


前を走るフィリアにはレイの顔を伺う事は出来ないが、その言葉から想像できる表情はいつもの様に冷静な顔なのだろうとフィリアには分かった。


「はぁ~まあ良いわよ・・・・それよりどうにかして逃げ切れる方法は無いの?」

「え? 何も考え無しにお城を抜けだしたのですか?」

「・・・・・そうよ」

「はぁ~そうですか」

「な、何よ。その溜息は?」

「何だと思います?」

「・・・わ、分かってるわよ! で、何か方法は無いの!?」

「はぁ~」

「う・・・・・・・・・・・」


後ろを振り向く必要がないほど、レイの表情が分かるフィリアだった。


「はっきり言って無いです。シングルジュエルの魔導人形、しかも探知魔法から見て3体は追って来ています。この状況では覚悟を決めて下さい、と言うしかないですね」

「う、それを何とかできないの?」

「・・・・せめて姫様の専属魔導人形、出来ればシングルジュエル一体でもお持ちなら数的な不利は解消できたでしょうけど」


そのレイの言葉にフィリアに眉が吊り上がる。


「嫌よ! 何で私があんな物を持たなきゃいけないのよ!」

「どうしても嫌なのですか?」

「どうしてもよ! あんな作り物を四六時中、私の傍に置くなんて考えたくもないわ!」

「・・・・・・・」

「何よ。その、やれやれって感じは?」

「顔、見てませんよね?」

「そんなの見なくても分かるわよ」

「でしたら、考えて下さい。王族であるフィリア姫様に護衛の魔導人形が一体も無いのは護衛としても心許ないですし、王家の者としての威厳にも関わりますのでお考え下さい」

「嫌なものは嫌なの! 私にはレイが居るもの。それで十分よ!」


フィリアの言葉にレイは嬉しかったが、それを表に出す事はしなかった。


「でも、私も侯爵家の者としての公務もありますし、四六時中姫様のお側にいる訳ではないのですから、御自身の身の安全を考えれば魔導人形をお側に置いて欲しいと願うのですが?」

「嫌よ!」


間髪入れない答えに、レイはまた溜息をするしかなかった。


「やはり、幼少の頃に起こった事をまだ気にされているのですか?」

「・・・・そんな事・・・関係ないわよ・・・」


レイはやはりそうなのだと改めて確信した。

とは言え、今の状況を考えるとフィリアには専属の護衛人形が必要だと考えてしまう。


「しかし、姫様。この様にお城から抜け出すとなると、余計に魔導人形の護衛が必要ですからお考え直し下さい」

「だから嫌なのよ。もし魔導人形を傍に置くと言ったら、お父様かお兄様達が贈って来るもの。そしたら私の監視役となって自由に動けなくなる可能性が出るもの!」


確かにそれはレイも考えれない事ではないと思ってしまう。


ブラハロンド王国、フィリアの国は次期王位継承問題で大きく揺れていた。

王家直系の継承権を持つ者に各派閥の貴族達が付き、見た目は安定した内政を保っているものの、その水面下では調略や暗殺などの陰謀が多く発生している現状があった。

そんな王位継承争いからフィリアは先んじて降りる事を宣言されていた。

ところが、民を思う心根の優しいフィリアに民衆の中にはフィリアに王位を継いでほしいと思う者も少なくなかった。

そして、王位継承争いが表立って見え始めた事で余計に潔く退く事を宣言しているフィリアに民衆はより好意を示し始めていた。

けど、その民衆の人気を嫉んだり、自分が王位に就いた時のまつりごとにフィリアの存在が邪魔になると考える王位継承権を持つ者も居ることは仕方ないのかもしれなかった。


「だから護衛は必要なのだけど、姫様の言う事も一理あるものね。まあ、あからさまに魔導人形を使って姫様を亡き者にしようとは思わないのだろうけど・・・」


そんな事をしたら贈った人間が一番い疑われるだろうし、それが第三者の陰謀であったとしても、王位継承者達全員にフィリアを慕う民衆の心に不信を植え付けかねないだろうけど・・・・


「今、何か言った?」

「い、いえ・・・・それより探知魔法で感じる魔導人形と思われる個体数3体がもう間近に迫っています」

「もう! どうするレイ?」


どうすると言われてもと言いそうになるレイだったがそれを飲み込み考える。


「森の深部へ向かいましょう。魔獣と遭遇するかもしれませんから危険ではありますが、かえって魔導人形達を撹乱することも出来ますでしょうし、フィリア様と私なら相当な危険魔獣でなければ問題無いと思いますので」

「まあ・・・・そうね。それしかないか・・・さすがに街道に出てしまうと民に迷惑が掛かるかもしれないしね」

「はい。それでは私が先行しますので付いて来ていて来てください」

「うん、分かった・・・ありがとうねレイ」

「? 何を今更ですか。行きますよ?」

「うん!」


そしてレイが先行し進行方向を大きく右に変え、さらに加速し木々の間から差し込む日差しが少なくなる方へと突き進む二人。

その後を同じ様な速度で3体の影も右へと大きく方向を変えて行った。

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