第3話 悪夢その3

「さあ、もう直ぐだ。もうすぐ君は世界最高の魔導人形シリーズの頂点として誕生する。先に誕生した姉妹機の全てのデーターも使い、再構築した最強の魔導人形となったナンバーゼロ、君なら魔王だって倒せるだろう。やっぱり私は大天才だな!」


どういう理屈だよ! 

それに何だ? 僕が魔王を倒せる?

魔王ってなんだよ! 

そんなファンタージな話を真剣に言いやがって!!

こいつやっぱりおかしい!!

変態どころか狂ってやがる!!


「Biiiiiiiiiiiiiiiiiii!!!!!」


な、何だ?

不快な音が鳴り響く。

さっきの僕の異常を伝える警報音とは比較にならない程の音量で警報音が鳴った。


「警報音!?」


警報音?

急に変態医者の顔が変わった。


「強大な魔法術式を確認。大規模転移術式と確認。1万人転移規模と推定されます」


機械音の様に抑揚の無い女性の声が施設内に流れた。


「どこの国だ?!」

「不明ですが、エストラーダ様の魔導人形を持たない国である事は間違いありません」

「協定違反だぞ! 魔導人形は完成した後、1年を掛けて各国を回り、彼女達自身が主人として認める者を探す事になっているはずだ。それを力尽くで奪おうというのか?!」


何だ? 

さっきまでの変態顔から打って変わって真面目な表情になったぞ?

けど・・・真面目な顔で見るとこの変態、案外イケメン・・じゃない?


・・・・・・・・?!

な、何今? ちょっとドキっとした・・・・のか?


「ナンバーゼロを緊急開放! こちらも転移術で逃げ出すぞ!」

「不可能です。ナンバーゼロ様をポッドから開放するのに最低あと20分は必要です。敵は編成を完了。施設を完全に包囲し進軍を始めております。この地下施設に到達予測時間8分。しかも施設周辺に魔術妨害術式を展開されております。強制解除に12分掛かります」

「くそ! 用意周到なことだ。こちらの情報をかなり把握されている。しかしどうしてナンバーゼロの覚醒に合わせてこんなタイミングでしかけて来れたんだ?」

「推測・・・ナンバーゼロ様の稼働時、大量の魔素が取り込まれておりますので、探知術式に反応があったのかと。それにその時に稼働した施設の熱量が異常に上がっておりますので、それに合わせて進軍があったのだと思われます」

「なる程な。ナンバーゼロの作成は隠していたわけじゃないからな。初めからこの機を狙っていたのか・・・」


なんだか深刻な話になってないか?

それにそのナンバーゼロってやっぱり僕の事だよね?

ん~・・・つまり、僕は寝ている間に、このちょっとイケメンの変態で自称天才で大賢者のエストラーダだっけ? そのおじさんに美少女の姿をしている魔導人形ナンバーゼロという訳の分からない者にさせられて、その上僕を捕まえに一国の軍隊が押し寄せて来ていると・・・・・・

ツッコみどころが多すぎて、突っ込めない。

だいたい、なんだよその魔術だの軍隊だの転移だのって言うのは!

まったく別の世界みたいじゃないか。


まさか・・・本当に異世界?


「・・・・完全に詰んでいるみたいだな。フフ、確かにナンバーゼロは私の最高傑作だからな、奪ってでも欲しいと思わせてしまうのは仕方ないのかもしれん・・・・だが! そんな一方的な考えの奴にナンバーゼロを任せたら、何をさせられるか分かったもんじゃない!」


おお、なんだか恰好良いぞ!

変態だとばかり思っていたけど、結構見直したぞ。


「ナンバーゼロ!」


おじさんだけどイケメンが真顔で僕を真剣に見つめて来た。


ドキ、ドキ、ドキ、


わ、わ! な、なんだよ! この胸の高鳴りは!

まるで恋する乙女じゃないか!

こんな見も知らぬ、しかもおじさんだぞ!?

男の僕が、ときめくなんて・・・あ、今は少女なのか?


「なんだ? ナンバーゼロ。顔を赤くして?」


うう、真面にエストラーダの顔が見れない。


「本当に可愛らしいな・・・・そんなお前が乱暴にされるのを黙って見ている事など出来ない!」


・・エストラーダ・・・


「それならいっそ、私とここで心中しようじゃないか!」


・・・・?


「私のナンバーシリーズ最高傑作である魔導人形ゼロ、君と一緒に死ねるなら私は本望だよ」


おい。


「さあ、あの世で一緒になって幸せになろう」


こら。


「緊急施設破壊術式発動!」


おい、こら!


「緊急施設破壊術式、発動いたします。これより施設は破壊されます。緊急を要します。施設内の職員は直ちに退避してください」


はあ?! 馬鹿野郎!!

勝手に道連れにすんな!!

ちょっとでもときめいた僕の心を返しやがれ!

訳の分からない状態で目覚めて、さんざん恥ずかしい思いさせて、いきなり死ぬだ?!

何の冗談だよ!


「Biii! Biii! Biii! Biii!」


先程よりも警報音がいっそう強く鳴り響く。


僕は動きにくい溶液の中で手をいっぱいに動かし、入れられているガラスケースを幾度となく叩いてみせた。


「ナンバーゼロ・・そんなに私の事を心配してくれているのか?」


違あぁう!!


「大丈夫だ。私は常に君の傍にいるよ」


来るなボケ!!

ここを開けろって、言っているんだよ!

僕は死にたくなんかないぞ!!


ゴゴゴ・・・


音? 少し振動してないか?


ゴゴゴゴゴゴゴ ゴン!! ゴガァァガァガァ!! ガン! ドゥッゴ! グガガガア!! パリン!! ガシャン!! ガガガガガガ!!


!? じ、地震!? あ! うわぁあああああ! 


僕を入れている筒状のガラスが大きく揺れる。

それに合わせて目の前に居たはずのエストラーダが大きく後ろに飛ばされた。


「ぐっ! がああ! は、はぁ、はぁ、ナ、ナンバーゼロ! 愛しているぞ!」


最後の言葉がそれかよ! 

そんなの聞きたくないって!!


ガ! ガガガガ!! スドォオオオン!!


目の前の天井が突然落ちて来た。

さっきまで見えていたエストラーダの姿が完全に消えた。


「確認。エストラーダ様の心拍の停止を確認。エストラーダ魔導研究施設の全権が現時点での最高位であるゼロ様に移行。承認。ゼロ様、ご指示を」


揺れがどんどん酷くなっていく。

僕もいつ天井が砕けて下敷きになってもおかしくない。


「ゼロ様、ご指示を」


は?! 指示? くそ! なんだか分からんけど 指示しろって言うなら僕を助けて!!


「了解いたしました。緊急施設破壊術式停止を要請。承認。稼働可能設備は全てゼロ様の生命維持に注力。承認。設備破損甚大により施設の維持が不可能。制御管理システムのバックアップを要請。承認。バックアップ先検索・・・・・施設内該当無し。再検索・・・・ゼロ様の脳核内に空き容量を確認。実行可能。バックアップを要請。承認。完了。再計算、施設の崩壊率85パーセント。自動復旧システム停止。これよりゼロ様を仮死モードへ移行。長期回復計画へ変更。承認。それではゼロ様、暫くお休みください」


はい?

一体何が起きたんだ?

仮死モード?

暫くお休みって誰が・・・・・・僕の・・こと・・・・・・・・・・・・・・・あれ・

何だか眠く・・・・・・・あ、れ? 

瞼が・・・お・・・も・い・・・これ・・・・・・・・もう・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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