第6話 目覚めと出会い3

「「はぁ、はぁ、はぁ」」


荒い息継ぎが二つ、時折なにかの獣の遠吠えや、鳥などの鳴き声聞こえる森の奥深くで聞こえた。

時刻はまだ昼頃のはずなのに、日差しが幾重にも重なる木々の葉に遮られ、地まで殆ど届かない薄暗い世界。

そんな森の最奥に幾つかの大岩が重なった場所が存在していた。

その大岩と大岩の間、人の3倍くらいの高さがある大きな穴が奥深くに向けて開いていた。

そしてその荒い息継ぎはその穴深く、暗闇の奥から微かに聞こえて来ていた。


「はぁ、はぁ・・・ん、はぁ、何とか・・・逃げ切れた・・みたいね」


微かに見える大岩の間の穴、自分達が入って来たところに向かって細身の剣を構えながら視線を外さず注視するフィリアとレイがそこに居た。


「まさかビックタロンの複数体に出くわすとは思いませんでした」

「でも、おかげで追手を上手くまけたけどね」

「・・・命が幾つ有っても足りませんよ」


身構えていた剣を下ろし腰に携えている鞘に収めると二人から緊張感が和らいでいくのが分かる。


「それにしてもかなりの大型魔獣だったわね。あんな熊型魔獣見たことなかったわ」

「そうですね。それにいくら森の深部とは言っても一個体ならともかく、複数体で行動しているとは・・・この森というかこの付近は何か他の場所とは違う雰囲気がないですか?」


レイの問い掛けにフィリアは何かを探すようにゆっくりと辺りを見廻した。


「この洞窟、そんなに古くなさそうだけど・・・魔素が凄く濃い・・・それに気温がかなり低くない?」

「やはりフィリア様も感じますか?」

「まぁね。でも今外に出る訳にもいかないし、少しの間はここに隠れていたいのだけど」


二人は周囲を再度見廻す。

壁も天井も大小色々な大きさの岩の様なものが重なり合っているのが分かる。

しかもほんのりだがその岩自体が発光している様だ。


「やはり洞窟にしては視界が通ると思いましたが、この壁と天井の岩、人工物のようです」


レイが近くの壁を構成している岩に軽く触りその感触を確かめながら話し出す。


「フィリア様、この辺りに遺跡が在ったと聞いた事が私はないのですが?」

「私もよ。だいたい王国がこの森についてはかなり前から調査をしていたはずだからこんな遺跡が在れば発見していたはずなの・・・それなのに・・・」


二人の眉間にしわがより難しい表情に変わる。


「つまり、この遺跡は発見されないように隠蔽の結界が張られていたと?」

「フィリア様、そうだと思います。そして何らかの変化が有ってその結界が解除されたと・・・考えるのが自然でしょうね」


レイの言葉が終わり静けさに包み込まれる二人。

何かが起こったわけでもない。

けどその何も起こらない事がかえって二人に変な圧力を感じさせていた。


カサ・・・


「「?!」」

「レイ・・」

「はい・・」


二人は同時に自分達が入って来た方を振り向いた。


「・・・・・・・何か居る?」


フィリアがぽつりと呟いた。

その言葉にレイは反応し、視線の先に全神経を集中させた。


カサ・・カサ、カサ・・


「姫様、ゆっくりと後退してください」

「・・わかったわ」


二人は視線を固定したまま、音を極力抑え足だけをゆっくりと後ろへと滑らせて行く。

上半身は上下しないよう、大きな動きとならない様に細心の注意をはらいながらゆっくりと後退し始める。


カサ、ガサ、ガサガサ・・ガサガサガサ!!


「走ります!!」

「!!」


音が急に大きくなり、それが幾つも重なり合う様に聞こえだした。

その瞬間、二人は躊躇なく踵を返して遺跡の奥へと走り出した。


ガサガサガサ! カサカサ、ガサガサガサガサガサカサカサガサガサ!! ガサ! カサカサガサ! ガサカサカサ、ガサガサガサガサ!! ガサカサカサガサ! ガサガサガサ!


二人が走り出したと同時に、先程まで二人が視線を向けていた床の辺りに黒く蠢く物体が幾つも現れた。

それは、体長が2メートル以上は有る、黒く硬質な輝きのある物体。

その平たく長い体には幾つもの小さな足が蠢き体を前身させ、大きく横に広がる口には大きく突き出した牙が見え、緑色の粘液が滴り落ちる。


「ムカデが魔獣化した・・ブラックピード・・・」


レイが脚を止めることなくチラッと後方を確認し、ボソッと呟いた。


「しかも通常の2倍くらい大きくない?」


フィリアもレイと並走しながら確認するように呟いた。

ブラックピードと呼ばれる昆虫型の魔獣はどこから湧くのか次々を現れ、その全てが二人の後を追い始めていった。


「ちょ、ちょっと! 何あの数!! まだ出てくるわよ!」

「姫様! 愚痴言って無いで早く奥へ逃げてください! あいつら図体の割に動きが素早いですよ!」


二人はさらに加速する。

その二人のスピードに負けない程の素早さで突き進む魔獣ブラックピードだったが、細い通路であるこの場所にあまりにも多くのブラックピードが一変に現れた為、互いが邪魔し合って上手く動けないでいる様だ。

そのおかげで、徐々に二人とブラックピードの間は広がっていった。


「なんとか振り切れそうね?」

「そうです・・・・ん? 姫様! 前方! 何か居ます!!!」


レイが急に大きな声を張り上げフィリアに注意を促した。

フィリアもすぐさま後方に集中していた意識を前方に戻す。


「・・・・確かに・・何? 魔獣、魔物・・・人型・・・ゴブリン? オーガ?」


フィリアの目にはまだ暗がりの中で大まかなシルエットしか確認できず判断しかねていた。


「姫様! とにかくこんな場所に居るモノなのですから真面なモノじゃないです!!」


レイの言葉にフィリアは考えるのを止めた。


「そうね! レイこのまま前方の物体を左右から突破するわ! それでもってそいつに後ろのムカデモドキを押し付けるわよ!」

「了解です姫様!」


間髪入れずに答えがレイからかえってくる。


「同時に・・・合わせて!!!」

「はい!!!」


レイが加速し少し前を走るフィリアの横へと並ぶ。

二人はほぼ同時に息を吸い込む。


「行くわよ!!」

「はい! 姫様!!」


前歩の物体の距離が一気に縮まる。

速度は落ちない。

さらに加速していく二人はその物体に体当たりする軌道に乗せさらに突き進む。

そしてもう手を伸ばせばその物体に触れそうな距離になった瞬間、二人で話し合って決めたわけでもないのに、二人の影が物体の目前で交差した。

二人はそれぞれが物体の真横を抜けた時、その姿を確認しようとフィリアが視線を止めた。


「え? 魔物じゃない・・・人?!」


その瞬間二人はその物体の後方に抜けさらに奥へと向かう・・・はずだった。


「姫様?!」


それは変更された。

フィリアがその場に留まってしまったからだ。

レイも直ぐに止まり、フィリアの元に駆け寄った。


「どうしたのですか!! 早く逃げないと!」

「無理よ! だってこの子、人だよ?!」


フィリアの言葉に一瞬信じられなかったレイだったが直ぐにそれが正しいと分かった。

そこには、銀色の長い髪の目鼻立ちがはっきりとした美少女が驚いた顔で二人を見つめ返して立っていたからだ。

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