第7話 目覚めと出会い4
『ゼロ様、問題ありませんか?』
「え? ああ、大丈夫・・・だと思う」
僕は今、ダンジョン化した元エストラーダ研究施設だった通路を歩いていた。
ただその足取りが今一つ不安定だったせいか、ミネルヴァさんが心配して聞いてきていた。
『完全回復までには多少時間が掛かるようです。平衡感覚機能が不安定ですし、各関節の稼働範囲がまだ狭いようです』
まあそれは仕方ないよ。
自分でもびっくりしたけど、僕はこの300年間、いわゆる培養ポッドというか生体維持カプセルというか、そういう円筒形の機械の中に何らかの溶液に浸され眠っていたみたい。
そして稼働可能となってそのカプセルから外へと出たわけだけど、これがなかなか、今まで真面に動くことをしていなかったせいか、各関節の動きがぎこちない事、ぎこちない事。
自分の体じゃないみたいだった。
・・・・・ん?
そう言えばこの体になる前の記憶が微かにだけどあるんだよね。
その記憶もあるから自分の体と認識が薄いのかも・・・・
とは言っても今はこの体が僕の体なのは覆す事が出来ない事実なのは受け止めよう。
「で、だけど」
『どうかされましたか?』
「どうかじゃないよ。この格好なんとかならない!?」
僕はそう言って歩くのを止めて体を大の字の伸ばして見せた。
誰にかって?
別に誰かに見せたいわけじゃなくて、僕の頭の中に居るサポート役のミネルヴァさんに判ってもらいたいんだ。
『とてもお美しいと思います』
「いや、そうじゃなくて」
『はい?』
「この、格好だよ! 姿! おかしくない?」
『・・・・・・・・・・・・・・・ああ』
「ああ、じゃないよ」
『これは失念しておりました。着る物でございますね?』
「そうだよ!」
『人の形態ですと裸を隠すものが必要という概念が私にはございませんので、失礼いたしました』
あまり抑揚の無い喋り方で謝られても今一つピンとこないけどここは我慢しよう。
『探すしかありません』
「はい?」
『ですから、着る物を探すしかありません』
「・・・・・・・・・つまり何も無いと?」
『そうです。300年間放置された場所にそんな都合よく着る物がある訳ありません』
至極ごもっともな回答に僕は二の句がつげなかった。
「う・・・・ま、まあそう・・だよね。じゃあどこかありそうな場所とか覚えてないの?」
『私がエストラーダ研究所を管理していた頃の施設の面影は現存しておりません。施設崩壊が完璧だったのでしょう。それにこの300年の間のダンジョン化や木々の根の浸食などもあり私のとっても未知の場所となっておりますので』
うん完璧な回答をいただきありがとう・・・・・とほほだよ。
当分素っ裸で歩き回らないといけないのかな?
『ただ大丈夫だと思います』
「え? 何か見つける方法があるの?!」
『いえ、このままダンジョンの入り口まで向かえば必然と魔獣か魔物と遭遇しますので、倒して毛皮を剥げば天然の毛皮のコートが手に入るかと』
ミネルヴァさん本気で言っているのだろうか?
『もしくはこのダンジョンを出れば酸素濃度や日光の投射率を考えると森になっているようですので大きな葉を手に入れれば問題ないかと』
僕の頭の中に葉っぱで大事なところを隠している姿が浮かんだ。
な、何かの本で見たことがある様な・・・・
「そんな恥ずかし恰好できないよ!!」
『素っ裸よりは良いのでは?』
何も言い返せない。
確かに全裸で歩き回るよりは恥ずかしくない・・・かも。
「し、仕方ない。毛皮の方は生臭そうだし葉っぱで我慢するか」
『それでは先を急ぎましょう』
何だろう?
先を急がせているように聞こえるのは気のせいだろうか?
それから僕はミネルヴァさんが魔力感知で魔獣や魔物の居場所を確認してもらい、それを避けながらダンジョン出口へ向かって歩き続けた。
それで気付いたんだけど、僕の体って全然疲れないんだよ。
計ってないから分からないけど、かなりの時間歩き続けているのだけど、一向に疲労というものを感じない。
それどころか体を動かすたびにかえって軽く感じ、力強く歩いているのが自分でも分った。
それに視界も薄暗かった通路がだんだんと見える様になったり、ミネルヴァさんの指示が無くても魔獣などの生き物の居場所が分かる様になってきていた。
『ゼロ様は魔力感知を使用できるようになっております』
ミネルヴァさんそう言ってくれた。
何だかワクワクしてきた。
たぶん前世の記憶だと思うものを微かだけど僕は持っている。
その記憶ではこんな魔力だの体の強さだのは絶対に無かった。
それが今の僕には有る。
その事実が僕の気持ちを高揚させていた。
だけどそれは、次にミネルヴァさんが発した言葉で一気に変わった。
『前方! 中型の虫型魔獣の群れを感知! こちらに向けて突進してきます!』
突然のミネルヴァさんの大声に僕は肩を強張らせてしまった。
今までこんなお声を出せれるとは思っていなかったから特にびっくりしてしまった。
「何? こっちに来るの?」
『はい、このままではあと2分で遭遇します』
「大変だ! どこかに隠れなきゃ!」
『・・・申し訳ありません。ここは通路が一つしかなく、今のゼロ様の稼働状況では先程の曲がり角まで戻る前に追いつかれます』
「じゃあ、どうするんだよ!」
『戦闘モードに移行しましょう』
「え? でも僕一度もやったことないよ?」
『問題ありません。私がサポートいたします。それにゼロさまの体を中型程度の魔獣では傷一つ付ける事はできませんので安心してください』
「いやいや、それって魔獣の攻撃を受けるって事だよね?」
『はい、力押しで問題ありません』
「問題大ありだよ! 僕のメンタルが持たないって!」
『大丈夫です。こういう場合は全痛覚を無効にいたしますので問題ありません』
「いや、いや、でもね・・・」
『後20秒で遭遇します。前歩の道の先の向こうからもうじき姿を確認できます』
ああ! もう! こうなったら覚悟を決めるしかない!!
僕は足を少し開き身構え、拳を前方に向け突き出す。
お、自然とサマになってない?
『はい、私が格闘術のサポートをいたします』
なるほど、何だかいけそうな気がして来た。
「さあ、来い!」
『来ます!』
次の瞬間、僕は自分の目を疑った。
どんな魔獣が現れるかと身構えていたのに、最初に目に映ったのは、鮮やかな白い衣装にみを包み、引き込まれそうな深いブルーの瞳を持つとても、とても綺麗な女の子だったからだ。
「!?」
「え? 魔物じゃない・・・人?!」
横を過ぎる彼女の凛とした声が僕の耳に確かに届いた。
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