第8話 目覚めと出会い5

青い瞳の女の子が通り過ぎる時一瞬僕を見た。

次の瞬間その女の子は急制動を掛けてその場に立ち止まった。


「姫様?!」


僕を通り過ぎたもう一人の女の子も合わせる様に急制動を掛け立ち止まり、驚いた表情でその女の子を呼んでいた。

姫様? あの青い瞳の女の子が姫様?


「どうしたのですか!! 早く逃げないと!」

「無理よ! だってこの子、人だよ?!」


もう一人の女の子は青い瞳の女の子の手を掴むと、なんとかその場から動かそうと力を入れていたけど、その女の子は僕の事をじっと見つめて動こうとしなかった。

そのせいでもう一人の女の子も僕の方を見て、また驚きの表情に変わっていた。

・・・・・・は、恥ずかしい!

多分この二人の女の子は僕の事を変態とか痴女とか思っているんだ。

そりゃそうだよね。

こんな物騒なところを一人全裸で歩いているんだもん。

絶対に変態だと思われたよ!!


「あなた! 大丈夫!?」


え?


「可哀想にゴブリンにでも連れ去られて酷い事をされたのね」


え?


「私達が助けてあげる!」


え?



「姫様! こんな女の子を連れて逃げるなんて無茶ですよ!!」

「レイ! じゃあこの子を見殺しにして私達が生き延びてそれで良いと思うの?!」

「それは・・・・」

「じゃあやる事は決まってるじゃない」

「・・・ああ! もう! どうなっても知りませんよ! ファイヤーボール!!」


レイと呼ばれたもう一人の女の子が、声を荒げたと思ったら急に後方へ掌を向け数個の火の玉を作り出し打ち出した!

その火の玉は、僕達に迫っていたムカデみたいなデカい生き物に直撃し爆発した。


「ま。魔法?!」

「あなた、魔法を見るのは初めて?」


僕はつい首を縦に振ってしまった。

存在はミネルヴァさんから聞いていたし、魔法操作も道中に聞いていたので僕も使えるみたいなのだけど、本物を直に見るのは初めてなのは間違いなかったからつい。


「姫様!! とにかく今のうちに逃げますよ!!」


レイさんがそう叫ぶと、姫様は小さく頷いて僕に急接近してきた。


「え?」

「大丈夫。私に任せて」


そう言うと姫様は僕を軽々と抱きかかえ、僕が来た道を駆け出した。

す、凄い!

僕より確かに背丈はあったけど、それほど変わらない体格で僕を抱えて走るなんて。

しかも物凄い速さでだ。


「姫様! このままでは追いつかれます!! 私が囮になりますのでその隙に逃げて下さい!」

「馬鹿言わないの! あなたが残るなら私もここで戦うわよ! この通路幅なら一気に襲っては来られないでしょうし!」

「でも虫型は姫様無理でしょう?」

「そ、そんな事無いわよ! やってやろうじゃないの!!」


姫様は虫が苦手なのか?

と、言うかあのでっかいムカデみたいな魔獣なら誰でも嫌だろうな。


『ゼロ様』


何? ミネルヴァさん

呼びかけに僕は頭の中で答え返した。


『この先の分かれ道を我々が辿った道とは反対の方から水流の音が聞こえます。予想するに川の様に流れが在ると思いますのでその川を越えれば逃げ切れる可能性があります』


本当?


『はい。音と地面から伝わる振動からの計算ですのでおおよそですが、まず間違いないかと』


分かった。

なんとか誘導してみるよ。


「姫様」

「な! 何!?」


姫様、余裕がないんだろうな。

話し方が強くなってる。


「僕が彷徨っている時、見つけたのだけど、次の突き当りを右に入って少し行くと川の様な水流があったの。そこをどうにか飛び越えればあの虫なら飛び越えられないかも」

「それ、本当!?」


お、食いついてきた。


「姫様! その様な子供の言う事が本当かどうかわかりません! それにもしその川の幅が広すぎて私達が飛び越えられなかったら逆に逃げ場がありませんよ?!」


あれ? こんな時にレイさん慎重だな。


「でも、このままじゃあのブラックピートが体中を這いずり回るわよ!」

「?!! ひッ! 姫様!! 変なこと想像させないで下さい!」

「それじゃあ、行くしかないわね!!」

「し、仕方ありません」

「それじゃあ君、案内よろしくね!」

「う、うん」


よし! 乗ってくれた!

姫様達はさらに加速し突き進む。


「あった! あの突き当りを右に!!」

「分ったわ!」


その一言を言い終わるが早いか、あまり減速しないで綺麗に右に進行方向を変える二人。

相当に訓練されている?


『ゼロ様、もう直ぐ狭い通路から大きく開けた場所に出ます。出たら直ぐに水流がありますから直ぐに跳躍の準備を』


分かった!


「姫様! 直ぐに開けた場所に出ます! 出た瞬間、跳躍をしてなるべく遠くに飛んでください!!」

「?! わ、分かったわ!!」


すると姫様は前で抱えていた僕を、ヒョイと軽く浮かすと綺麗に後ろに回して背中に僕を移して抱え直した。


「しっかり捕まってなさいよ!」

「う、うん!」

「レイ! 行くよ!!」

「ええい! 行きます!!」


さらに加速する二人。

しかし後方からは口から変な粘液をばら撒きながら僕達に向かってくるムカデモドキ。

き、気持ち悪い。

そう思った瞬間だった。

急に今まで閉塞感を感じていた周囲が急に開放された気持ちになった。


「魔力強化最大!」


バッ!!!


うお! 急激な浮遊感が体を襲った。

僕は最初に視線を下に向け勢い良く流れる川を見てから、後方に目を移した。

そこには狭い通路から雪崩出る様に黒光りする長い胴体のムカデモドキが飛び出し、そのまま勢いよく流れる川へと落ちて行くのが見えた。


「よし!」

「・・じゃない! 川幅が広すぎる!!」

「お、落ちる!!」

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