第9話 目覚めと出会い6

「レイ! 捕まって!!」


咄嗟の姫様の言葉に躊躇なくレイさんが姫様の足首を掴まれた。


「ウィンドプレス!」


レイさんが足を掴んだ瞬間、姫様は後方に向かって両手をかざし魔法を唱えた。

すると手の先から激しい風が後ろに向かって噴き出す。

その風圧で僕達の体が押され上に向かって加速した。


ベタ!! ベタ!!!


「くっ!!」

「痛っ!!」


・・・・・・・・・・・・・・いったいどうなった?

誰も声を発しない。

僕も突然の突風からの強い衝撃があってつい目をつむってしまったから状況を把握出来ていなかった。

恐る恐る目蓋開ける。

ギギギイ! ギギャ!! 

鳴き声?

あれか! あのムカデモドキがさっき僕たちが出てきた穴から次々と勢い良く飛び出し、次から次へと大きく口を開けた谷底に落ちていくのが見えた。

その底には激しく流れる川があり、その虫共を飲み込んでいた。

一歩間違えば僕達もああなっていたかもしれない・・・・そう思うとちょっと背筋が・・・・・あれ? なんともないぞ?


『ゼロ様には恐怖耐性が備わっていますのでこの程度の恐怖は感じることはございません』


あ、そう。


「だ、大丈夫レイ?」

「は、はい、姫様。なんとかしがみついています」


二人の声がした。

良かった二人とも無事だったんだ。


「姫様、大丈夫?」


僕は自分がしがみついている姫様に話しかけた。


「だ、大丈夫よ、な、なんともない・・・わ!」


おっと、今ガクッと体が沈んだよ?

僕はしがみ付いている姫様の周りを見渡した。

あれ? 岩かな? 目の前に・・・え?! 姫様岩肌にくっついている?!

僕の腕が岩にあたっている。

つまり首に腕を回して僕は姫様にくっついているのだからその腕が岩肌に触っているってことは・・・・姫様があの有名なアニメ映画の名シーン、泥棒さんが忍び込む為に城の壁にへばりついたあのシーン・・・・

今、まさに姫様はそれを体現していた!

・・・・・・・・アニメ? えっと・・ああ! 

やっぱり記憶が断片的だな。

どうも前世の記憶なんだろうけど今一つぼやけててはっきりしないけど、こうして時々不意に思い出すみたいだ。

まあ、それはさて置いて、この状況あまり良くない状況には変わりなかった。

しかもレイさんも手足を広げてしなんとかしがみ付いているのだから、姫様を助ける余裕はないみたいだし・・・


「ねぇ君、姫様の頭の上に乗って良いから上に手を伸ばして!」


レイさんが振り絞った声で僕に話しかけてきた。

上?

視線を上に変えると・・・


「あ、平らなところ?」

「そう! たぶん通路だと思うの。なんとか君が登れれば後は何とかなると思うから! 私達は固定魔法で何とか岩肌に張り付いているけど、下手に手足を動かすと岩肌との接地面が減って落ちそうだから君が代わって登ってほしいの!」


なるほど。


「分かった! やってみる」


僕は直ぐに返事をして姫様の耳元に口を近づけた。


「姫様、頭の上、登らせてもらって良い?」

「!・・・・・良いよ」


何だ? 今の間は?

でも姫様が良いと言ってくれたんだ。

とにかく今は登る事が先決だ。

そして僕は姫様の肩に片足を掛け、少しづつ上体を上に伸ばしていく。

さらにもう片方の足、よし! 行けそうだ。

完全に肩に乗った状態で手を伸ばしてみた。


「ん、んん! ん~!!! だ、駄目か」

「君、良いから私の頭に足を乗せなさい!」

「え、本当に良いのですか?」

「私が良いって言っているんだから良いのよ!」

「わ、分かりました! じゃ、じゃあ踏みますよ?」

「来い!」

「ん!」


完全に頭の上に登った・・・手を伸ばして・・・よし! 両手が引っ掛かった!

僕は岩の方にも片足を掛けると、良い気に姫様の頭に乗せていた足を踏ん張って跳躍して見せた。


「あ! い!!」


姫様の呻き声が聞こえた。

でもそのおかげで僕は崖の途中にある通路になんとか身を乗せる事ができた。


「よし! よくやった! 今からロープを投げるから、何処か岩とかに括りつけて!」

「うん!」


僕は大きく頷く。

すると下から結構な長さのロープがバサっと投げ込まれてきた。

え? どこからこんな長いロープを出したんだ?


『ゼロ様、多分レイ様が空間収納からロープを出されたのでしょう』


空間収納?


『文字通り、空間に魔法で収納庫を作ったものです。作った本人しか出し入れ出来ない便利魔法の一つですね』


へぇ、今度僕も作ってみるか。

そして僕はロープを近場の大きい岩にそのロープを括りつけ、片方側を姫様達の方に投げおろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る