第38話 追撃 2

「現在ロドエル殿下、ブルタブル宰相とそれぞれの配下、私有兵が王都から姿を消しております。今回の混乱に乗じて私有兵を王城に乗り込ませる算段だったようですが、失敗に終わり直ぐに撤退をした模様です。ロドエル殿下の行方については現在捜索中であります」


レイさんが淡々と現状をフィリア姫様やガラン殿下、ドレイル様他数人の要人に対して説明を続けている。

それに、激怒する者もいればドレイル様のように淡々と聞き続ける人もいた。

ただ、概ね今回の騒動の責任を王国に追及すると言ってくる国々が多かった。


「以上が現在報告できます全てございます」


レイさんが一礼をして話を終わらせた。


「では、今後の王国の対応についてプラハロンド国王陛下から各国への賠償等の返答があると考えてよろしいか?」


どこかの国の人だろう。

白い大きめの布を体のまとう異国感漂う民族衣装を着た男性がレイさんに向け問い質していた。


「はい、その様に仰せつかっております」

「ふん、しかし王国の代表が王妃と姫君とは・・・国王はどうしたのだ?」

「それは先程説明しました通りでございますのでご容赦願います。ルフエド殿」

「は! それで通るとでも思っておるのか!」


ルフエドと言われた男性は物凄い剣幕で怒鳴り散らす。


「ルフエド殿、国王不在の場合私がこの国の全権を任される様、国法にも載っておりますので何ら問題はございません」


王妃様が毅然とした態度で言い返すと、ルフエドさんは言葉に詰まった。


「それでしたらロドエル殿下の愚行に関してレリフェエール王妃様が謝罪するのですな?」

「それはもちろんでございます。此度のロドエルの犯した罪は万死に値すると考えております」

「では、どの様なご処置をお考えか?」

「まず、ロドエルには無期限の謹慎処分とし王太子を返上、王族からの除名処分といたします」


王妃様の回答にプラハロンド王国側の官僚や重臣からは何も意見は出されず、他の国からも特に意見は出なかった。

ただ一人を除いて。


「それでは我らの苦痛に対して些か軽い処罰ですな」

「ルフエド殿はそれ以上をお望みなのですか?」

「左様、私どもは命の危険を感じたのですぞ? であればロドエル殿下も同じ様に命での謝罪をする必要があるのでは? それにプラハロンド王国としての謝罪がないのも納得できませんな」


まあ、このルフエドという人の言う事ももっともだとは思うけど・・・


「・・・・・・そうですか。これは他の方々も同じ意見でしょうか?」


王妃殿下が列席する人々の顔を見ながら聞くと、半分くらいの人が首を縦に振った。


「国としての謝罪は必要じゃが、ロドエル殿下の処罰はレリフェエール王妃殿の言われる辺が妥当ではないか?」


そう言ってくれたのは、グリアノール帝国前皇帝のドレイル様だった。


「ドレイル殿は、プラハロンド王国とはご親密の様ですからそう言われるのでしょうが、我等はその程度では納得できませんのですぞ」


あくまでもロドエル殿下の処分を重くしたいルフエドさん。

でも、これって何か裏がある様な気がするけど・・・


「そうとなると、ルフエド殿はロドエル殿下を処刑しろとでもいうのですかな?」


ドレイル様が確認するように言い返す。


「まあ、その様な処分も考えますが・・・・さすがに私もそこまで非情ではありません。ただそれに見合う国としての謝罪をしっかりとした形としてとって貰いたいのですがどうですかな?」

「それは、どのような形でしょうか?」


王妃様が聞き返す。


「そうですな・・・・貴国の魔導人形を各国に2体を無償譲渡すると言うのはどうでしょうな?」

「おお! それは良い考えだ!」

「私も賛同いたしますぞ!」


今まで黙っていた他の要人も相次いでルフエドさんの言葉に合わせてきた。


「そんな! 今ここには23ヵ国の方々が居られるのですよ! その国に2体ずつとは50体近くをわが国は失うというのですか?」


フィリア姫様が流石にと思われたのか話に割り込まれた。


「なんですかな? フィリア殿下。ご不満でもございますか?」

「当たり前です! それだけの魔導人形を無償で譲渡などできません!」

「ルフエド殿、さすがにそれは言い過ぎでは? せめて1体ではどうじゃ?」


ドレイル様もフィリア姫様に助け舟を出されたが・・・


「ロドエル殿下の処分もプラハロンド王国側の内容で良いですし、それ以上の補償金も要求も無しで良いという事でどうですかな?」


「しかし・・・」


フィリア姫様は納得されてないようだ。


「・・・・分かりました。ルフエド殿の意見に私共も承諾いたしましょう」

「おお! さすがはレリフェエール王妃様、プラハロンド王族の直系であられだけの事はありますな、潔い決断でございます」

「お母様!?」

「ただし、魔導人形の選定はプラハロンド王国にお任せいただけますか?」

「ええ、ちゃんと稼働し主権が完全に移行された事が証明されれば問題ございません」

「お母様、しかし!」

「これは決定事項です!」


王妃様が言いきった事で決定してしまった。


「では、今回の件について各国との調印作業に入らせていただきます。準備が整うまでしばしご休憩ください」


レイさんが進行し一旦終了させたようだ。


「良いのか? レリフェエール王妃殿」


ドレイル様が王妃様の所にきて尋ねられた。


「かまいません。これで此度の愚行にけりがつくのでしたら安いものです」

「そうか。其方がそう言うのであればグリアノールとしてもこれ以上は言わんでおこう」

「はい。お願いいたしますドレイル様。フィリアもよろしいですね?」

「・・・・・・はい」


姫様としては納得出来ないのだろう。


「それでは私は調印に向けて書類内容等を協議しなければなりませんので、ここで一旦失礼いたします」


すくっ、と立ち上がり王妃様は奥の扉から退出された。


ミネルヴァさん、盗聴ありがとう


『いえ、今の内容はノール様の記憶媒体に完全収録しております』


うん、ありがとう。

しかし、これでプラハロンド王国の戦力はガタ落ちだろう。

けど、あの王妃様の雰囲気は何か引っ掛かる。


『しかしこれは好都合ですね』


ミネルヴァさん? 何が好都合なの?


『はい。プラハロンド王国の魔導人形が諸国へ2体譲渡されるのですよ?』


うん。


『つまりノール様を崇拝する魔導人形が各国になんの疑いも無く配置されるのです。いざとなった時、ノール様の野望達成が容易に運ぶと言うものです』


・・・・ちなみに聞くけどその野望って・・・


『はい、世界征・・・・』


わぁ! もういいから! 心配しなくてもそれはないから!


『そうですか?』


どうしても僕を独裁者にしたいのだろうか?


『それは冗談としても』


冗談だったのか?


『これで、多くの情報が手に入り易くなるのは間違いないです』


それは・・・まあ良いか。

情報は有って困るもんじゃないし。

それより・・・・

ミネルヴァさん。


『はい』


あの王妃様の事、少し気にならない?


『・・・・そうですか? でもノール様がそう仰るのであれば注意しておきます』


うん、お願い。


『ノール様!』

『ん? イチゴ?』

『はい、ロドエル殿下の潜伏が高い施設が幾つかしぼれましたのでご報告いたします』

『わかった。じゃあ今なら姫様の寝室が開いているだろうからそこで聞こうか?』

『はい! 寝室ですね! それなりの恰好で向かいます!』

『うん、お願い・・・・・・・ん? それなりの恰好?』


イチゴのその言葉の意味が分かったのは寝室で待っていた僕に飛び込んで来たイチゴの姿に驚いてからだった。

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