第12話 王公貴族の思惑2

「フィリアが戻っただと?」

「はい、ロドエル王太子殿下」

「ふん、まだ王太子の即位は終わってないぞ?」

「もう、時間の問題でございますればよろしいかと」


プラハロンド王国の王都プラハ。

大陸の西に位置する1000年以上の歴史のある古い王国の一番古い都市。

人工は30万人を超え、近隣諸国の中でも上位の大きさを誇る王都プラハ。

その街を一望する事ができる小高い丘にあった天然の岩を刳り貫き、増築を繰り返して造られた王城プラハ城の一室で、人気を避ける様に小さな一室で二人の男性が、話し合っていた。

いや、話し合いというより、一人の線の細身で高身長の男性が扉近くに姿勢よく立ち、もう一人は部屋の中心に置かれたソファーに腰掛け、その細身の男性を見上げているとろからどちらが上位者かは直ぐに分かった。


「噂に聞いたのだが、フィリアが何やら子供を拾って来たと聞いたのだが?」

「はい。私めも実際に見ました」

「で、何か企んでいるのか?」

「いえ、11か12くらいの女の子供でございます。特に変わった様子はありませんでしたが、たぶん裸の状態で拾って来たようで、姫様の外套を羽織らせておりました」

「はっ、本当に犬、猫でも拾った様なものか。私は魔導人形でも拾って来たのかと思ったかが、取り越し苦労か」

「はい、あの自然な動きはセカンドジュエル以上の魔導人形でない限りありえません」

「そうか。ならまだ問題ないなブルダブルよ」

「はい。特に問題は無いかと」


ブルタブルは胸に手を当て頭を下げ、事の成り行きは問題無いと肯定する。


「ならば私は、4日後の王太子即位の儀式に向けて準備を進めよう」

「その事ですが、トゥーアレンフィスの皇太子様が、予定よりも2日早く到着されるとの報告が上がってきております」

「はっ、それほどあの阿婆擦れがお気に入りなのか?」

「殿下、そうは仰いますが姫様は素行を除けば、見目麗しい女性ではありますぞ?」

「そうか? どうにも妹だという事もあるのだろうが、気にくわない顔をしているのでな」


ロドエル殿下の美的センスを疑うブルタブル宰相だったが、阿婆擦れと言う点では納得できた。


こう何度も城を抜け出し、好き勝手されるのは確かに困った姫様ではあるが・・・ただ、それが国民には近しい存在として人気があるのも事実だ。

それ故に危険な存在に成りえる。


「はぁ、国の内政を預かる身としては気が重い・・・」

「ん? 何か言ったかブルタブル宰相」

「いえ、何も。それでは私は即位の儀式の最終準備を指揮いたしますので失礼いたします」

「ああ、よろしく頼むぞ」

「はい」


ブルタブル宰相はロドエル殿下に向かって大きく一礼をしてから扉へと向かった。


「ああ、そうだブルタブル宰相」


今まさに扉の把手に手を掛けようとした瞬間、ロドエル殿下からブルタブル宰相を呼び止める声がしたので、その場に立ち止まり振り返った。


「はい。何かございましたでしょうか?」

「いや、何、例の魔導人形はみつかりそうか?」


先程までの気の乗らない顔つきから一変、急にニヤついた顔に変わったロドエル殿下だった。


「やれやれ、またか・・・」

「ん?どうした?」

「いえ・・・・さすがに伝説級の魔導人形ですので実在するかも判明しておりませんので、そう簡単には見つからないかと」

「なんだ、まだ見つかってないのか。どれだけ費用をだしていると思っているのだ?」

「そうは申しましても、受胎出来る魔導人形とは・・・」


確かに250年前に一度確認されているという記録は残ってはいたが、それが本当かどうかも今となっては確認のしようがないほどの幻の魔導人形。

噂では、魔導人形開発の祖とも呼ばれる大賢者エストラーダが自らのオーダーメイドで生み出した数体の魔導人形だけが持つ受胎能力。

しかも、種族、種別、性別さえも関係無しで子を宿す事ができるという魔導人形。

一部の熱狂的愛好家や収集家、大貴族が血眼になって探していると言う。

それを、このプラハロンド王国の次期国王筆頭のロドエル第一王子殿下が欲しがってやまないのだ。

その話が出た途端、ブルタブル宰相の目付きがほんの少しきつくなった。

ただそれはほんの僅かな事で、ロドエル殿下には気付かせなかった。


「3ヶ月前に新型の魔導人形を1個体配備させていただいたはずですが?」

「いや、あれはあれで良かった。新型でどこも弄られてなかったからな、それなりに遊べたんだが、やはり表情や動きが固くてな虐めがいがないのがつまらん。やはり子供を産めるほどの人と変わらない魔導人形を虐め抜いてみたいと思うのは男の性だろう?」


そんな男の性なんか聞いた事が無い、とブルタブル宰相は心の中で呟いていた。


「魔導人形をその様な目的でと言っても誰も許可は出されませんぞ?」

「そんな事は分かっておる。だがなやはり表情が鈍いのは見ていて面白味にかけるのだ」


何を想像しているのかわからないがロドエルの顔はだらしなさが増していた。


「殿下ほどになれば生身の女性を選ぶのも簡単でございましょう?」

「そこよ! 生身の女も良いが人工的に造られ完成された美貌の女が絶対に服従する様は、また格別なのだよ」


ブルタブル宰相は、今度は冷めた視線を隠すこと無くロドエルに向けるが、そんな事は一切気にしていないのか、それとも分からないのか、ますます情けない笑みを浮かび続けていた。


「・・・・・殿下、王太子に即位されれば国からシングルジュエルの個体を2騎専属としてお付けすることが出来ますのでしばらくお待ちくだされば」

「そうなのか? しかし4日後か・・・・ま、まぁ良い。取り敢えずその2個体で我慢しておくか。ブルタブル宰相、なるべく早く見つけてくるんだ。分かったな?」

「・・・・・はい」


ロドエルの言葉に軽い会釈程度に一礼すると、さっさと扉を開け廊下へと出ていくブルタブル宰相。

独り長い廊下を歩く姿は多少重たそうに見えた。


「・・・そんな伝説級の魔導人形がいる訳がない・・・」


ブルタブルの表情は冴えないものだった。

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