第14話 王侯貴族の思惑4


「えっと、君・・・そう言えば名前も覚えてなかったのよね?」


あ、そう言えば言わなかったような?

けど、僕はいつの間にか頭を縦に振ってしまっていた。

だってゼロだもん。

おかしいよね?


「そうかあぁ・・・じゃあ名前から考えようか。戸籍に登録するにしても名前はいるからね」


そう言い出してから姫様は目を瞑り黙ってしまわれた。

本気で考え始めてしまった。


『私はゼロ様が恰好良いとは思いますが、普通に考えれば数字ですから一般的ではないかもしれません』


そうなんだよね。

だから言い出しにくいんだよね。


「う~ん、私、こういうの苦手なんだよね。名前つけるセンスがないのよ。前もレイの犬の名前をつける時に、タマって付けようとしたら馬鹿にされたからね」


うわ~、もの凄く不安になってきた。

犬にタマはないいでしょ・・・・でもなんでかな?


「ちょっと、待っていてよね・・・今考えて・・・・えっと、レイは駄目だからロイ? あ、男か。じゃあイチゴ、あ、食べたくなってきた。じゃあモモ、カキ、ウメ、ザクロ、マンゴー、スイカ・・・何だか食べ物ばかりじゃない」


うん、分かった。

姫様に任せていたら駄目な事が分かったよ。

と、言っても真剣に考えている姫様に止めてほしいとも言いにくいし・・・・


コン、コン


姫様が名付けの迷宮に入られた時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「姫様、近衛師団の騎士様が火急のご用件があるとの事でおみえになられました」


ノックの相手を確認してきたのだろう。

メイドさんの一人が姫様の耳元で訪問者の名を告げた。


「今、忙しいから後にしてちょうだい」

「それが、国王様からの言伝てのようです」

「お父様から? もうこんな時に・・後で伺いますからと言っておいて」


姫様は面倒くさそうに適当な返事をし、それをメイドさんが扉の外で待っている近衛師団の騎士に伝えに行かれた。

ん? メイドさん、また戻ってきたぞ?


「申し上げます。国王様から拾って来た子供が居るそうだが、我は何も報告を聞いておらん! 早く見せに来い! とのことです」

「げ、もう嗅ぎ付けたの? ブルタブル宰相から聞いたのね・・・・ごめん名前の方は後で決めよう」


いえ、助かりました。

とは、言えないな。


「わかりました。今から向かいますと伝えて」

「畏まりました」


メイドさんは深く一礼すると、慌てた様子もなく振り返り扉の向こうで待つ伝令者に姫様からの返答を伝えに再度向かった。

そうか、僕も一緒に行くのか・・・・ん? 今、どこに行くって言っていた?


「じゃあ、準備して行こうか」


どこへ? まさか国王様のところに?!


「どうかした?」

「あ、あのう国王様ですよね?」

「そうよ?」

「姫様のお父さんですよね?」

「そうよ?」

「僕が会って良いようなお方じゃないですよね?」

「あら、もう私と会ってこうして話しているのだから大して変わらないわよ」


それもそうか・・・いや、でもね・・・


「身元も素性も記憶も分からない僕ですよ? そんな者を国王様の前に連れて行って良いのですか?」


自分で言っていておかしいけどね。


「私が見つけてここまで連れて来たのだから今更よ。それとも本当に君は国王の命を狙う者なの?」

「そ、そんな事はないです!」

「じゃあ、それで良いじゃない」


ハア~、なんとも人を信じやすいのか、自分の眼力に自信があるのか・・・変わったお姫様だ。


「じゃあ、行こうか?」


そう言って姫様は優しい笑顔を僕に向け、手を差し出してくれた。

自然と頷いている僕がいた。


『ゼロ様、心の核の鼓動が少し早まっています。体温も少し上昇いたしました。どうかなさいましたか?』


ミネルヴァさんが僕の体の変化を伝えて来た。

? 何だろう?


う、うん、別に何かあった訳じゃ・・・・ない?


僕はちょっと不思議な感覚に少し戸惑っていた。

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