第13話 王侯貴族の思惑3

「姫様、お着替えが終りました」


紺色のワンピースと白いエプロンを付けたメイドさんが僕の少し後ろで腰を90度くらいまで曲げ、深々と頭を下げていた。

そして僕はというと、そのメイドさんの前に立たされていた。

うん、そう立たされている。

しかもフリフリの白いドレスを着せられ、背中に届くくらいあった髪を綺麗に纏められてだ。

なんだか服を着るのが物凄く久しぶりな気がして、返って裸の方が落ち着いていたかもしれないってほど、ソワソワしてしまう。


『そうですね。かれこれ300年間生体ポッドの中で裸でしたので無理もありません。今は姫様の前ですけど、お一人の時は全裸で過ごされてはいかがですか?』


ミネルヴァさん、それじゃあ変態か痴女じゃないですか。


『大丈夫です。誰にも見られなければよろしいかと』


見られたらどうするの?


『堂々としていれば問題ありません。現にダンジョンではずっと裸だったではありませんか?』


あれは仕方なかったから! 

好きで裸じゃなかったよ!


『人は本当の事を恥ずかしいと思う事があるそうです。さすがゼロ様は限りなく人に近い魔導人形でございます』


だから、裸でいるのは本当に好きじゃないからね!


「どうかしたの?」


いつの間にか僕の目の前に立っている姫様。

き、気付かなかった!

ミネルヴァさんとの話に集中しすぎた。


「い、いえ、何も・・・あ、そうだ、フィリア姫様、こんな高そうな服ありがとうございます。それにお風呂まで入らせてもらって生き返る思いでした」


僕は、とにかく姫様に会ったら感謝の言葉を伝えようと思っていたので、噛まずにちゃんと言えたのが嬉しかった。


「別に良いわよ。その服だって私じゃあもう着れないからね。使ってもらえたら嬉しいわ」


僕の手を、姫様は自分の両の手でしっかりと握りながら微笑んでくれる。


ちくしょう! 可愛いじゃないか!!


そんな姫様は僕の手を離すと、部屋の中央に置いてあったソファーを指し示し僕に座る様に促して来た。

特に断る理由もないし、ここで僕が座るのを躊躇うと、一悶着ありそうな雰囲気になりかねなさそうだし、ここは遠慮なく触らせてもうことにした。


「そこで少し待っててね。お茶の用意をさせるから」


そう言って姫様は部屋の扉前に立つ僕の世話をしてくれたメイドさんの方へと歩いて行かれた。


「・・・・・・どうだった?」

「・・・はい。特におかしな所はありませんでした。不自然な体の動きも無く、表情も柔らかいですし、何より体に異常な硬さや、異物は発見できませんでした。収納型武器も無い様ですし、魔導人形特有のジュエルの痕跡もありません。あれほどのスムーズな動き表情、感情がある魔導人形でしたら必ずジュエルは1以上、彼女ほどの表情を出せれるのは2以上でなければ考えにくいです」

「それは、間違いありませんね?」

「はい、隅々までこの手で直接洗いましたので、間違いありません」

「そう、良かった・・・・じゃあ彼女は生身の人間なのね?」

「はい。間違いありません」


メイドさんからの回答に、安どの表情を見せる姫様。

姫様、聞こえてますからね。


『集音機能精度75パーセント、問題無く聞こえます』


ミネルヴァさんのサポートのおかげで、普通なら聞こえないだろう姫様とメイドさんの小声もちゃんと聞こえていた。


やっぱり疑っていたのかな?


『そのようですね。一国の姫様ですから暗殺とかに注意されるのは仕方ありません』


ん~、でも暗殺者とか密偵とかより魔導人形かどうかを気にしていたみたいだけど?


『実際に魔導人形での暗殺とかもあるのでしょう』


それもそうか・・・・・けどあのメイドさん、本当に僕の体のあらゆる所を素手で洗ってきた。

逃れようとしたんだけど、何故か上手く逃げれなかったんだ。


『それはゼロ様がその感覚に目覚・・』


「わぁああああ! そんな事ない!!」

「ど、どうしたの!?」


しまった声に出てた! ミネルヴァさん! 変な事言わないで!


『いえ、ゼロ様の肌感知の数値に示された・・・』

「わぁああああ! もう良いって!」

「ほ、本当にどうしたの?!」


姫様が不安そうな顔で僕を覗き込んできた。


「な、何でもありません! ちょっと思い出した事があって・・・」


へ、変な女の子に見えたかな?

恥ずかしくて姫様の顔が真面に見れない!


「そう、ごめんね。そんなに項垂れて・・・怖い事を思い出したのね」


そう言ってソファーの僕の横に座ると、頭をギュウッと抱きしめだした。

あれ? またこのパターン?

勘違いに拍車がかかってきそうな?


「ひ、姫様、大丈夫です。僕大丈夫ですから」

「そんなに我慢しなくて良いのよ。泣きたい時は泣いて良いのよ? 私の胸くらい何時でも貸すから、ここで泣きなさい」


優しく言ってくれるけど、僕、泣けないですから。

と、心の中では言っているけど、現実には姫様の優しさにはもの凄く感謝してるんだよ。

でもね、泣けないものは、泣けないのだよ?


「泣かない?」

「泣きません」

「ちぇっ、まあ良いわ。それより今日の予定を言っておくね」


お、急に話が進みだしたけど、ちぇって・・・


「まず、あなたにはこの国の戸籍登録をしてもらいます。その後あなたを受け入れてくれる施設を探します」

「施設?」

「そう。身寄りのない子供達とかを保護する場所のことよ。そこであなたを養子にと思ってくれる人を探すの。当然私も審査するから大丈夫だからね」


え? 誰かの子供? 養子?


『それは魔導人形であるゼロ様には少し問題かと』

 

少しどころじゃないよ!


『いざとなれば逃げだせばよろしいかと』


良いの? それで?


『・・・・・大丈夫です』


自信なさげだね?

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