第32話 争乱 5

「ノールちゃん! ガランの所に居て! 私が見てくる!」

「お、おい! フィー! 独断で先行するな!!」


ガラン殿下の言葉が届いていないのか、聞く気がないのか、そのままの勢いで悲鳴のあった方に飛び出して行ってしまった。


「ロイ!」

「は、ここに」

「フィーの護衛に付け!」

「はっ」


命令された魔導人形のロイは直ちに動き出す・・・ん?

チラッと僕の方を見て小さく会釈した様な? 挨拶してくれたのかな?


『当然です。ガラン殿下の魔導人形はノール様の支配下に置かれておりますので、礼を尽くすのは当たり前です』


そうなんだ・・・

でも、ミネルヴァさん。さっき魔導人形への結界と言ってなかった?


『はい。あくまで一般の魔導人形の話です。ノール様ご自身、もしくはノール様の影響下に置かれた魔導人形は無効化できます。ただし動作や思考制御に若干の制約は生じる可能性はあります』


ん・・・自分の体を動かしてみる。

僕には殆ど影響はないみたいだ。

これならイチゴやロイ、マイは問題なさそうだ。

なら姫様の方は問題ないか・・・・それよりこの状況一体何が起きるんだ?


「皆様! 私はプラハロンド王国の正統な王位継承者として王太子の命を頂いたロドエル・プラハロンドだ!」


会場中が騒めいている最中に、ロドエルがしゃしゃり出て前の方で演説ぶって話しだした。

あれ? ブルタブル宰相の姿もいつの間にか消えている。


「さて、お集りの皆様には私の晴れ舞台を祝っていただき誠に感謝いたします。そこで私から皆様に喜んでいただこうとイベントを開催させていただきます」


丁寧な言葉で集まっている人を見廻しながら喋り続けるロドエル殿下。

しかし、突然の事と異常な雰囲気に会場にいる人達にざわめきだっていた。


「これより、わがプラハロンド王国と志を同じくする数か国を南方連合とし、世界に対して宣戦布告をいたします。数千年続く種族間のいさかい、人同士の侵略行為、それら全てを無くすため、世界統一を私の名の下に宣言し、その実行の為の聖戦だとお考え下さい」


あまりの唐突な宣言に何も言い様がないのだろう。

皆が黙って聞いていた。


「馬鹿者!! 何を血迷った! ロドエルそんな事が出来ると思っているのか!」


ロドエル殿下だけの声しか聞こえなかった会場にドレイル様の声が響き渡った。

それをきっかけに、あちこちから怒声や罵声がロドエル殿下に向けて飛ばされ始めた。


「まったく、これだから血の気の多い御仁は迷惑なのだ」

「ドレイル爺様、もう引退した身なのですからしゃしゃり出ないでいただきたい。これからは私を中心とした若い世代による支配の時代なのですから」

「何が若い世代じゃ! 何が支配じゃ!」

「まあ、良いです。血の気の多いご老人はほっといて皆様方、ここのお集りの方々は私達の連合にはまだ加盟していただいていない国の要人ばかりです。どうですか? これを期に私と共に世界統一に向け連合に加盟いたしませんか?」


自信満々なロドエル殿下の態度にここにいる人々から怒りの声が再び上がる。


「何を馬鹿な事を! その様な戯言ざれごとに誰が加担するものか!」

「その様な事をここで決められるものか!」


その声を聞き、返って不敵な笑みを漏らすロドエル殿下。


「そうですか。では皆様には人質になっていただき、今後の国家間の交渉のカードにさせていただきます」


そう言うとロドエル殿下が右手をスーと掲げた。


「な、何をする!!」

「どう、どうしたのだ!?」

「きゃあああ!」

「ま、待て! 何故命令を聞かない!?」


あちこちから悲鳴や、怒声が飛び交い始めた。


「ジイさん! 何が起こっているんだ!?」

「わ、わしにも分からん!! 急に魔導人形達が主人を拘束し始めておる!」


あまりにも考えにくい光景にお二人はなす術もなくただ驚くばかりだった。


やっぱり、この為の制御抑制結界だったんだね。


『はい、ここにいる要人の殆どは魔導人形を護衛に連れていましたがその殆どがノージュエルかファーストジュエルのようです』


つまりここにいる全ての魔導人形は今、ロドエル殿下の支配下に置かれたという事だね?


『はい。どういたしますか?』


どうするといってもここにいる魔導人形だけで50体くらい居るよね?


『ロイ、マイを除き52体の魔導人形が存在しています』


そんな数の魔導人形から捕らわれている人を助けるのは、ロイとマイだけじゃ無理っぽいよね?


『はい。では提案ですがノール様が支配威圧を全包囲に発動すればロドエル殿下の支配下から全ての魔導人形を開放できます』


あ、なんだ、簡単じゃない・・・か?

・・・・・・・つまり、ここに居る52体の魔導人形が僕の支配下に置かれると?


『はい』


その場合、僕の命令の方が?


『はい、契約登録上の主人の命令より優先されます』


そんな各国の中枢の人間を主人といている魔導人形を僕が支配するって言うのはどうなの?


『それこそ世界征服も容易いかと。どうしますか? 計画を進めますか?』


そんな計画はいらないから!!


『そうですか・・・・しかしこのままではロドエル殿下の考え通りになりかねませんが?』


うっ・・・それは・・・・・


『警告、フィリア様に何処かの魔導人形が数体詰め寄っていますがどうしますか?』


え?! 

・・・・・・・・・・・・・・仕方ない! 支配威圧を発動して!


『了解。ノール様の名の下、範囲50メートル以内の魔導人形への威圧を開始します』


ミネルヴァさんの言葉が終わると、僕の体から何かが放射線状に広がるのを感じた。

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