第40話 追撃 4
ドオォオオオオオオ!!!
「お、マイが始めたみたいだな」
建物の向こう側から煙が立ち昇る。
すると廃墟のはずの建物から警報音が鳴り響き始めた。
『やはりこの施設は稼働しています。入りますか?』
もちろん。
「行くよ」
『はい』
周囲は森の様に樹々で覆われた中にその施設はあった。
かなり古い建物なのだろう。
施設内にも大きな木々が生えているし、壁には蔦が絡まり手入れがされていない様にみえるけど・・・
外周の塀に痛みは見られない・・・蔦や汚れで偽装はされているみたいだね
『はい。上手く偽装していますが、警備システムも稼働していました』
え? 大丈夫なの?
『はい、マイさんが暴れていますから今更気にしなくても大丈夫でしょう』
それもそうか。
その為の陽動だからね。
「さて、この門どうしようか?」
僕の目の前には3メートル程の高さがある壁が施設の周囲にあってその入り口として分厚そうな扉がある門が立ち塞がっていた。
『小突けばよろしいのでは?』
今、ミネルヴァさんが変な事を言ってなかった?
『ノール様が小突けば問題ないかと思うのですが』
はは、小突けばって・・・
ドゥッガァアアアアアアアアアアン!!
あれ? ちょっと右手で叩いただけで、3メートルの高さがある鋼製の扉が吹き飛び奥の施設にぶち当たってしまっていた。
「何、これ?」
『測定結果・・・まだ出力にムラがあります。30パーセントほど力の指向性が減衰しています。修正の必要があると判断。直ぐに修正を開始します』
えっと、ミネルヴァさ?
『お構いなく。ノール様は進撃を続けてください』
えっと・・・
「はい」
僕は言い返そうと思ったけど、止めて施設の中に向けて歩き出す事にした。
・・・・・・・・
施設の中に入ると、照明の様な灯りは付いていなかい。石造りの壁と床だけどこの石、加工されているのか表面が綺麗に整形されてほぼ平になっている。
天井は・・木かな? 何か塗っているようだけど・・・・ただ結構ひび割れている。
修復とかはしていないようだった。
「入り口近くは偽装の為に手を入れてないのか」
さらに進む。
何度か廊下を曲がり、さらに奥に進む。
『ノール様、魔力反応・・人がいます』
ミネルヴァさんが注意を促してきた。
薄暗い廊下の先を目を凝らして見ると、一人の人が立っているのが分かった。
「誰だ?」
するとその人影が僕より先に問いかけてきた。
僕は黙ったままもう少し近づいて行く。
その僕の動きに合わせて向こうも近づいてきた。
ロドエル殿下? じゃなさそう。
結構背が高い・・・・あ! もしかして
『はい、ブルタブル宰相です』
ミネルヴァさんの言葉に僕も確信した。
けど、ブルタブル宰相はロドエル殿下と一緒に姿を消したはずだけど、なんでこんな所に一人でいるのだ?
「ブルタブル宰相様ですね?」
僕は思い切って話しかけてみた。
「その声は・・・何故ここにいるのです」
予想にもしていなかったのだろう、冷静にいようと心がけているようだけど、その動揺は隠しきれないようだ。
僕達は自分の姿が見える程度の所まで近づくと、お互いがその場で止まった。
「ここは子供が来るような場所ではないのだぞ。早く城に戻りなさい」
あれ? 問答無用で攻撃でもして来るのかと思った。
だってこのブルタブル宰相、魔力循環が著しく強かった。
たぶん魔導士としても相当な腕のはずだ。
それなのに僕が子供に見えるからと言って、簡単にこの場所から出ろと言うのはおかしい。
「ブルタブル宰相様こそ何故このような場所に?」
僕は今までの出来事の事情を知らない様に装って訊ねてみた。
「お前の知るところではない。ここは危険なのだ。早くここから立ち去りなさい!」
やはりブルタブル宰相もここがただの廃屋でないと分かって言っている。
ロドエル殿下はここにいる。
「ロドエル殿下はどこですか?」
「?!」
ブルタブル宰相の顔が強張る。
「お前・・・フィリア姫殿下から何か言われて来たのか?」
「いいえ、姫様は知りません。僕の単独行動です」
いっそう不思議そうな表情になる。
「どういう事です? 何故お前みたいな子供が・・・それにあの爆発は何ですか?」
「そっちは気にならないのですか?」
「その口ぶりからすると、あの爆発音の事を知っているようですね」
「だとしたらどうなの?」
「・・・・・・・別にどうもしません。お好きにすればよろしい」
思った反応となんだか違う。
「僕を排除しようとかしないの?」
「あなた、姫様が秘密裏に保持されている魔導人形なのですね。それなら問題ありません。ロドエル殿下はこの奥です。なにやらエルダ機を使って何かまだ抵抗するようですのでお気を付けて」
なんだ? まるでロドエル殿下を捕まえてくれと言っているみたい・・・・いや、戦わせたいのか?
「それにしても、先程のベルタ機とエルダ機を退けた戦力といい、プラハロンド王国は魔導戦力をもち過ぎです。これもロドエル殿下の暴走が原因。このままでは世界大戦に発展しかねない」
「ブルタブル宰相、それをあなたも望んでいたのではないのでは?」
「・・・・まさか、私はこの国を守る為ロドエル殿下には退いてもらいたかったのですよ。出来ればこの過大な魔導戦力も無くしたくてね。それはもう直ぐ、叶います。この施設にはプラハロンド王国が整備し買い取ってきた魔導人形の3割が待機しています。そしてエルダ機をロドエル殿下が持ち込まれた術式禁呪によって更に強大となっているはずです。それを止める為には残りの戦力を全て投入するしかない。どちらにしても戦力は半減するでしょう。だいたいに国家の未来を決めるのに魔導人形の様な過剰戦力は必要無いのです! こんな物があるから人は狂うのですよ。ロドエル殿下はそれの最たる者。ですから私がその危険性を突き付けてあげるのです。そしてこの世から魔導人形を無くすのですよ!!」
話していくうちにブルタブル宰相の顔が歪んでいく。
何かに憑りつかれているみたいに。
魔導人形を無くす? 排除しようとでも思っているの?
「ブルタブル宰相、あなた魔導人形が嫌いなの?」
「ああ、嫌いですよ。主人の命令にさかわらず、なんの躊躇いもなく命令に忠実で・・・危険な道具じゃないですか」
「それは命令する人が悪いのであって魔導人形に問題があるわけじゃない」
「あんな便利な道具があるから人は狂うのです。それでどれだけの人が死に苦しんだか知らないのですか? まあ魔導人形のあなたに言っても分からないでしょうけどね」
怒りにも悲しみにも見えるブルタブル宰相の表情。
今までプラハロンド王国に仕えてきて色々とあったのだろうけど、ここまで偏った考えになるのはおかしい気がする。
けど、どのみち今の状況を打開するためにはロドエル殿下を止める必要がある。
それにこの施設に本当にそれだけの魔導人形が待機していた一斉に動き出したのなら、いくら僕でも全てを直ぐに支配下には置けないだろうし。
『そうですね。推定でこの施設には60個体の魔導人形が居ると思われます。それらが全てあの術式呪詛に縛られていると考えられますので、その解除をする為にはノール様が一体一体に接触解呪をしなくてはなりません』
そうなると、支配下から逃れた魔導人形が城や拠点を襲って他の魔導人形と戦闘になるのか・・・相当の魔導人形が死んでしまう。
起動前になんとかしないと。
「どうしたのです? 早くあなたが連れてきた戦力を全て投入しなさい」
嬉しそうにそんな事を言ってくる。
けど・・・
「戦力は僕を含めて3人だけだよ」
「は? 何を馬鹿なことを」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「本当なのですか?」
「ええ」
「はあ、まったく国王や王妃様、フィリア姫様も危機感が足りませんね。それだけでなんとかなるとでも思っているのでしょうか・・・・・今からでも遅くはありません。国の全魔導戦力をここに向けて出動させなさい!」
もしかして?
「ブルタブル宰相の考えだと、魔導人形同士が戦わなくては意味が無いようですね。しかも戦力が均衡しないと思惑がはずれる・・・それにその300個体の魔導人形を稼働出来るのはロドエル殿下ではなくブルタブル宰相の命令が必要なようですね?」
「・・・・・・・・・・」
何も言い返さない。
図星か。
ま、確かに今のロドエル殿下なら自分の国が争乱に巻き込まれても魔導人形を稼働しかねないもの。
そんな状態の殿下に命令権を与える訳ないか。
ブルタブル宰相の根本は王国を守りたい、人を守りたいというのがあっての話だから。
「ならまだ勝機はこちらにあるね」
「・・・まさかお前一人でロドエル殿下を捕まえるとでもいうのか?」
「そうだよ?」
「は! 無理だ。ロドエル殿下にはサードのエルダ機が居る、しかも禁呪による戦闘力強制上昇となっているのだぞ? たぶん伝説魔導人形、神機エストラーダオリジナルに匹敵する力を得ているはず。だから王国の全ての魔導戦力を投入しなくては無理なのだよ」
「だったら僕が一人で行っても問題ないじゃない」
「は?」
「だってどうせ僕一人なら相手にもならないのでしょ? そして僕が駄目だったら今外で暴れてる子が応援を呼んでくるだろうから、ブルタブル宰相の思惑通りに結局はなるんだよ?」
「・・・・・・・・・」
「だから取り敢えず僕一人で行かせてよ」
なんとも無理矢理な理屈だけど。
「まあ、好きにするが良い。お前も魔導人形なら壊す事には変わりないのだからな」
「ありがとう。じゃあ少し時間を貰うよ」
「・・・・・しかし、おまえは本当に魔導人形か? ノージュエルだというのにここまで自然な表情をする者を見たことがないが」
「そうですか? 中には居るんですよノージュエルでもね」
僕はお道化てみせた。
少し不審がられたみたいだけど、どう見ても僕がそのエストラーダオリジナルだとは想像が及ばないだろう。
僕は横目でブルタブル宰相の見ながら奥へと進み始める。
それを視線で追うブルタブル宰相は特に動く訳でもなくその場で立ちつくしたままだった。
ただ、気になるのはエルダさんだ。
『はい、ブルタブル宰相の言葉が本当でしたらノール様の力に匹敵するのでしょうが』
そうだね。
でも、だとしたら僕以外に止める魔導人形はいないという事だよ。
『はい。気をつけて下さい』
うん。
じゃあ最初っから全開で行くよ。
『はい。私も全開でサポートします』
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