第27話 傀儡
「失敗だと?」
「は、フィリア様襲撃に失敗し2体の魔導人形もロストしております」
「どう言う事だ! フィリア側からは何も言ってきてないのだぞ? 失敗したのなら種撃された事を報告してくるのではないのか?」
「は・・・それがフィリア様からは何も報告が上がっておりません」
「一体、どう言う事だ!」
「は、メイドや側近の従者達から得た情報ですと、何かが起こった可能性はあったと認識されてはいるようだが、結局何も無かったと言う事で報告のしようがないと・・・」
「は? 何だ、それは!!」
城の一室、ここはロドエル殿下の私室であり、許された者以外は入る事を許されない場所。
そこにこの部屋の主であるロドエル殿下が部下からの報告に苛立っていた。
「これでは戦争を起こせないではないか!」
「声が大きいですよ。ロドエル」
今まで二人しか居ないと思われた部屋の奥から、女性の声が聞こえてきた。
声の主は、部屋の中で仕切られた衝立の向こう側にいる様で、声はするがその姿を確認する事はできなかった。
「これは・・・申し訳ありません」
今まで苛立ちを隠さなかったロドエルの声が、急に鎮まり怒りを押し殺して謝るその声から、衝立に隠れる女性に対して敬意をはらっている事がうかがえた。
「とはいえ、あの魔導人形は我が国の中でも暗部としてもっとも優秀な魔導人形なのですよ? それを何も起こせない程の力量の差で、事を未然に防げる存在が居るというのですか?」
「・・・・・お答えするだけの情報がありません。ただ実際に存在を確認出来ませんので、何かの力が働いたと考えるしかありません」
終始、顔を伏せ一礼したままの状態で報告をする高官の姿は小刻みに震え今の自分に掛かる圧力に必死に耐えながら、二人の言葉に答えるしかなかった。
「まったく理解できない・・そんな事が起こるのですか?」
ロドエルは、衝立の向こうの女性に向かってだろう、自分の想像力を超える出来事に何か答えを求める様に聞く。
その女性はロドエルより魔導人形に関して知識があるということなのだろうが・・・
「私にも想像できない出来事です。確かにプラハロンド王国の王都警備部隊から正体不明の魔導人形を2体確認した事は報告に上がっていますから、計画通りに動いていた事は間違いないはずです」
「では、何故急に姿を消したのですか?!」
なるべく冷静に話をしようとしているのだろうが、ロドエルにはどうしても我慢できずに感情がすぐ表に出てしまうようだ。
声がまた荒げ始めていた。
「一つは、魔導人形が自らの意思で逃亡した・・・これは難しいでしょう。あの術式呪詛が魔核に張り付いている以上、自分だけならともかく周囲への被害を考え命令には絶対服従するはずなのです。もしそれに背けば大爆発を起こし被害報告があるはず・・・」
「しかし、それも今回は発動していない! 意味が分からん!」
「・・・そしてもう一つ、外部からの何らかの力が働き、2体の魔導人形を捕獲し王都外へ秘密裏に搬送した・・・これが一番現実的に思えますがそんな芸当ができる力なんて、大賢者エストラーダ製の神話級魔導人形くらいしか思いつきません」
「伝説級ですか? そんな魔導人形が本当に存在していたら世の中大変な事になりますよ」
ロドエルの言葉に、報告に来た部下の男も小さく頷いていた。
「世の中、何が起こるか分かりませんよ。神話級と呼ばれる魔導人形、300年前に大賢者エストラーダ様が自らの手で作り出したオリジナルがどこかに現存していても・・」
含みのある言葉を衝立の向こうの女性が語るが、ロドエル殿下もその部下も冗談としか思っていなかった。
「今はそんな非現実的な話は置いておきましょう。それより今後の事だ。お前は戻ってブルタブル宰相にもっと強力な魔導人形を用意するよう伝えよ。とにかく友好国グリアノール帝国との関係を悪化させ国内情勢を戦争に向けさせるんだ。こんな平和ボケした世の中を昔の様に力ある者が世の中を支配する時代にするんだ。そしてその支配者に私はなる。フフ、ハァハハハハハハハ!!!」
完全防音の部屋とはいえ、その様な事を平気で言うロドエル殿下に部下の者は、不安を隠す事が出来なかった。
そしてもう一人その高笑いを静かに聞く衝立の向こうの女性。
「フフ、良い感じに育ってくれて嬉しいわ・・・・それとこの報告に来た男・・・情報を洩らしそうね・・・・・ナンバー90810いるかしら?」
「はい」
女性の呼びかけに直ぐに応える感情のない女性の声。
ただその姿は見えず声だけが衝立の向こうの女性だけに届く。
「そこの男、始末しておいて」
「はい」
「それと、フィリア襲撃の失敗の件、あなたで調べてみて。あの時第一魔導機動部隊の部隊指揮官であるシングルナンバー101515が先行していたはず。その辺りから探ると良いわ」
「了解いたしました」
「さて、何が出てくるかちょっと楽しみね」
衝立の向こうにいる女性の声には、不安は一切感じれず逆に期待感の様な楽しそうに感じている様だった。
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