第19話 襲撃 1

「待たせたな! フィー!!」


待ち合わせ場所の噴水のある広場に姫様と一緒にベンチに座っていると、噴水の反対方向から大声で駆け寄ってくる大男の姿が目に入った。

うっわー、見るからに軽薄そうな姿で来られたぞ。


「大声出すな! ガラン!!」

「フィーこそ大声だぞ?」

「あなたが目立つから注意してやってんでしょ!!」

「そうか? お忍びの王都観光だからなるべく目立たない様にと思って来たんだが?」

「それのどこが目立たないと思えるのよ!」


姫様の言う通り、広場に居る人の視線がかなり集まっている気がする。


『いえ気のせいではなく実際に68人の人間がノール様達に向けられています』


ミネルヴァさん、冷静に検知されていたのね。

でも確かにガラン殿下の姿は目立っていた。

へそが出ている体にピッチリと張り付くアンダーシャツに、薄手のやたらと色鮮やかなシャツを上から羽織って、白いひざ丈のパンツに・・・これ草履ぞうり? だよね。

ある意味庶民的と言えばいえなくもないが、どちらかと言うと軟派な庶民、しかもやたらと腹筋の割れが目立って・・・変態に見える。


「大丈夫だろう? 誰も俺がグリアノール帝国の皇子だとは分かってないみたいだしな」


そりゃこんな軽薄そうな男が帝国の皇子だとは誰も思わないでしょうね。


「俺の事より、どちらかと言うとフィーの方が目立っているんじゃないか?」


ガラン殿下の言葉に僕も頷いてしまっていた。

だって、姫様とっても綺麗なんだもん。

最初は、凛々しい軽装の戦闘服姿だったし、王宮では一国の姫として、一騎士としての正装だったから、こんなフワッとした白いワンピースで大きな帽子を被った姿を見ると余計に女の子らしさが増して美しく見えてしまうんだもん。

これは反則級のギャップだ。

ただ、いつもの鮮やかな金色の長い髪を赤みがかった髪に染め後ろで束ねて、変装しているのは減点。

これで金色の髪が靡いているなら、もうそれは地上に舞い降りた天使そのものと言っても過言じゃないだろうか?


「何? ノール私の顔に何か付いてる?」


僕がボーっと姫様の顔に見とれていたのを勘違いして聞いて来る姫様。

その天然っぷりも可愛いです。


「いえ、姫様、美しいです」

「?! ば、ばか! 何を言っているのよ!」

「率直な感想です。ねぇガラン殿下」

「お、おお! そうだな! フィーの美しさは知っていたが服装を変えるとこれだけ変わるのだな」

「何ですか!? 二人して私をからかうのは止めなさい!」

「からかってなどいません! 僕は姫様が本当に天使の様に見えたんです!」

「も、もう! ノールお世辞は・・」

「お世辞じゃありません!!」

「!? え、その・・・・」


僕のあまりの真剣な言葉にたじろいでいる姫様。


「ノ、ノールが言うなら・・・ありがとう」

「そうだぞ。フィーは美しい! 面食いの俺が言っているのだから間違いない!」

「あんたは黙ってなさい!」

「扱いが違い過ぎないか?」

「当たり前です。変態と天使ですよ? 違って当然です」

「ひ、酷い・・・だいたい何でこの娘がここに居るのだ?」

「私が一緒にと誘ったのです」

「今日はデートじゃなかったのか?」

「違います! ただの王都案内です」


きっぱりと言い切る姫様にガラン殿下の肩がガクッと落ちた。


「せっかく楽しみにして来たのに・・・」

「嫌なら中止にしましょうか?」

「いや! 行く! この子もOKだ!!」


ガラン殿下、完全に姫様の下僕状態だな。

よっぽど好いておられるのが分かる。

ただ、姫様が毛嫌いする気持ちも、この服装を見れば分かるのだけどね。


「じゃあ、娘よ! よろしくな!」

「は、はい。よろしくお願いします」


ガラン殿下、僕に対して大きな右手を差し出して握手を求めてきたので、僕もそれに応えた。

考えてみたら、一国の皇太子殿下なんだよね。

そんな人が貴族でも何でもないただの孤児の僕にこうして何の隔ても無く接してくれるんだから度量は大きな人だし、良い人なんだろうな。


「それで、最初はどこを見たいの?」


姫様が僕とガラン殿下の握手を見たせいか、少し顔つきが和らいだ気がした。


「そうだな。先ずはフィーの寝室に・・うお!」


姫様の冒険者Aランク相当の拳がガラン殿下の鍛えられた腹筋に減り込んでいた。


「中止にするわよ?」

「じょ、冗談だよ」

「ふん!」


懲りない人でもあるみたい。


「姫様、ぼく商業街に行ってみたいです」

「良いわよ! 王都の人達が良く利用するマーケットに行ってみようか?」

「はい! お願いします。ガラン殿下も行きましょう」

「お、おお」


僕の提案でようやく進むことができるよ。


『お疲れ様です。それと索敵の結果、周囲に殿下の魔導人形2個体が一定の間隔で配置しています』


パッと見は見えないけど、さすがだね。


『ただ、それ以外に数体の魔導人形も確認できます』


ん? それって街の警護とか何かの魔導人形なの?


『いえ、殿下の魔導人形と同様、こちらとの一定の距離を保っています』


どう言う事? 


『推測。フィリア姫様の為に王国が派遣した魔導人形と思われます』


え? 姫様はいらないって言ってたけど?


『一国に姫様です。そんな簡単にはいかないかと。ただ護衛にしては数が多すぎるとは思われますが』


ミネルヴァさんの言葉に僕は一抹の不安を感じた。

まさかあのロドエル殿下がまた何かしようと思ってるんじゃないのか?


ミネルヴァさん、一応ガラン殿下の魔導人形以外の動向を監視しておいてください。

少しでも変な動きがあったら教えて。


『了解いたしました』


「ノール、行くわよ」

「あ、はい! 姫様」


少し気になるけど、今は注意するだけにしておこう。


「おい、娘」

「え?」


姫様が先頭に立ち街中に向かい始めたので僕もその後をついて行こうと歩き出したら、その直ぐ横にガラン殿下が来て、僕の耳元近くまで顔を近づけていた。


「ありがとうな。お前のおかげでフィーとデートができる」

「い、いえ。せっかくの王都散策ですし楽しい方が良いと思って」

「ふむ・・・それでだな、どうしたらフィーが喜んでくれるか色々教えてくれないだろうか?」

「え?」

「いやな、俺って恰好良いだろう?」

「はい?」

「だから周りの女共は勝手の俺に惚れてしまうので、こうして自分から女性に何かしてあげなきゃいけないと思った事がないのだ」


はは、自分の事を恰好良いって、見た目通りのナルシストだったか。

でも、本当に姫様の事を好きなんだな。


「わかりました。僕で役にたつか分かりませんが、出来る限りの助力はいたします」

「本当か?!」

「はい。なので、少し自重気味に行動願いますね?」

「お、おお! わかった! 感謝するぞ! え・・と名前・・」

「ノールです」

「ノール! わかった! これからはノールの姉御と呼ぶ事にする、します!」

「それは止めて」

「どうしてですか? 教えを乞う者としてのケジメですから」

「絶対に駄目!」

「では、ノール様?」

「ノールで良いですから」

「本当にいいのですか?」

「その敬語も止めて!」

「・・・・・・姉御がそう言うのでしたら・・・わかった! そうしよう!」


切り替えの早いのは良いけど、やっぱりこの殿下扱いが難しい。

姫様の苦労が何となく分かった気がした。

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