第35話 争乱 8

「くそ! なんでこうなった!」


王城の秘密通路を小走りに進むロドエル殿下。

その言葉に後ろについて走るブルタブル宰相は特に答えなかった。


「ブルタブル! お前に聞いているのだ!」

「分かっておりますがこの結果について原因が語れるだけの情報がございませんので、お答えのしようがございません」


特に悪びれる訳でもなくブルタブルはロドエルに対して平然と言いのける。


「は? お前が魔導人形を操れると言うから事を運んだのだろうが! それなのに一体も俺の命令に従わなかったではないか!」

「結界術式は正常に作動しておりましたので、魔導人形達は一時的には機能したはずです。しかし、その後に私共が予想をしていなかった力が加わった為、術式が強制排除されたのではないかと推測はできます」

「では、その力とはなんだ?」

「判りかねます」

「判らんではすまんぞ?!」


ブルタブルの言葉にロドエルは余計に気を荒くする。

しかしそれを宥めるでもなく、平然と見ているだけのブルタブル。


「一つだけ分かる事があります」

「なんだ!」

「このまま、簡単にこの王城を抜け出る事は難しい事です」

「は?! この通路は王族と極一部の官僚しか知らないのだぞ!」

「ですので、フィリア姫殿下ならば知っておられます」

「あいつが知っていたからどうだというのだ! 確かに身体能力は高いかもしれんが、魔導人形を一体も持っていないのだぞ? それでこの私を捕まえる事が出来るとでもいうのか? 見よ! この魔導人形を!!」


そう言って前を走る2体の魔導人形を指差すロドエル殿下。


「この額の三つのジュエルを! わがプラハロンド王国の秘匿兵器、ベルタとエルダだ」


その名を呼ぶと、2体の魔導人形は立ち止まり、その場でロドエル殿下へ向き直ると膝を付き頭を垂れる。


「この2体をあの方から授かった術式呪詛で完全に支配しているのだ。この2体だけで一国の戦力に等しいのだぞ? それなのに逃げる事さえ難しいとは、ブルタブルよ臆病風にでもふかれたのか?」


馬鹿にしたような笑みを浮かべるロドエル。

それを見たブルタブルが何かを言おうとした時だった。


ヒュン!


何の前触れもなく、1体の魔導人形ベルタがロドエルを押さえつけ地面に伏せだし、もう一方の魔導人形エルダが通路の天上方向を見つめ身構えた。


ドゥオォオオオ!!! ガラガラガン! ガシャ! ドガガガ!!!


突然の爆音と、地鳴りが響き煙が立ち込める。

それほど大きく無い通路の視界は一瞬でなくなった。


ガラン・・・・カタ・・・・


「ロドエル殿下ご無事ですか?」


ロドエルを地に伏せさせた魔導人形ベルタが、自分の下になり頭を抱えるロドエルに声を掛けた。


「くそ! 何が起きた!! ベルタ! 何をしている早くどけ!!」

「・・・・・はい」


土埃だらけの体をゆっくりと起こし、下になっていたロドエルに手を差し出しゆっくりと起こすベルタ。


「エルダ! エルダはどこだ!?」

「はい、ここに」


まだ土煙が舞う中から姿を現す魔導人形。


「これは一体なのだ! 説明しろ!」

「はい、秘密通路の天上が崩壊した模様です」

「そんな事は分かっている!!」

「なんで崩壊したかと聞いている!」

「襲撃です」

「はあ? 襲撃?」


ロドエルは意味が分からなかった。


種撃? 誰が? それにここは地下の秘密通路だぞ? なんで居場所が分かる? それに地下にある通路を破壊? そんな事ができるのか?


「ロドエル殿下、敵です」


ベルタの声にロドエルは反射的にそちらに顔を向けた。

まだかなりの土煙だが、それでも徐々に薄くなり視界がはっきりとし始めていた。

ロドエルは目を細めその先を見つめると、そこには薄暗くなった空が見え始めていた。


「?! 空? どうして空が見える?」


戸惑うロドエル。

しかし、2体の魔導人形はしっかりとその先にいる影に反応し身構えだしていた。


「見つけました! お姉様の言う通りでした!」


明るい声が響き渡る。


「あなた・・・シングルナンバー101515ではないですか」

「はい、ベルタ様。お久しぶりです。あ、エルダ様もお久しぶりです」


シングルナンバー101515と呼ばれた魔導人形が下から睨むようにしている2体の魔導人形にお辞儀をした。

ただ人の背丈の倍以上ある高低差が3体の魔導人形にはあり、上に居るシングルナンバー101515がいくら丁寧にお辞儀をしようと上からの威圧が出てしまうのは必然的なことだった。


「随分偉くなりましたね、101515 目上の者に挨拶する時はその人より目の位置が低い所に居なくてはいけません、と何度も言いましたわよね?」

「はい、でも今はベルタ様、エルダ様の部下ではなくなりましたので、その必要は無いかと思いましてこういう所業にいたりました」


悪びれもしない101515。


「そうですか。では反逆の意思有りと判断し排除します」


下にいる2体の魔導人形が身構えた。


「反逆などしていません! どちらかと言うとそこに居られるロドエル殿下の方がよっぽど反逆罪に捕らわれるべきだと思いますよ?」

「何を言っているシングル101515よ! お前は我が軍の魔導人形であるならば私ロドエルが主人であり、命令に背く事があってはならん事なのだぞ!?」

「勘違いしないでください。私の主人はロドエル殿下ではありません! 今は名を付けてもらったお姉様が私の主人です!」

「名前?」

「はい! 私の名前はイチゴ。ベルタ様もエルダ様、以後はイチゴとお呼びください」


「あなた、本当にシングルなの?」


ベルタが不思議そうに尋ねる。


「はい! シングルです・・・・けど、お姉様よりお力を頂き今ではセカンドジュエル程度では目じゃないですよ」


嬉しそうに話すイチゴ。

よっぽどノールに名前を付けて貰ったのが嬉しいのだろう。


「何をしている! ベルタにエルダ!! 早くそいつを始末してしまえ!」

「しかし・・・」

「この魔導人形は敵だ! 私がそう認めたのだ! 早急に対処せよ!」

「「!!? ・・・・く・・・・ご命令のままに、ロドエル殿下」」


ベルタとエルダは同時にロドエルに対して頭を下げてから、イチゴに向き直った。


「イチゴ、足止めありがとうね」


「「?!」」


イチゴはその声を聞いて頬を赤らめ、下の2体の魔導人形はその者を見て戦慄を走らせた。

ちなみにロドエル殿下は、未だに状況を飲み込めずにいるようだった。


3体の魔導人形が視線を集めるその先に、可愛らしいと言う言葉がまだ似合う美しい少女がそっと立っているのが見えていた。

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