第24話 襲撃 6

辺り一面の荒野。

草木も少なく、遠くには切立った山が見える程度でそれ以外は岩肌と渓谷が続くだけの荒れ果てた場所。

僕は今、対象の魔導人形とイチゴと共に王都から何千キロと離れた人の手が入っていない未開の地へミネルヴァさんの空間転送で飛ばしてもらっていた。


「ここなら誰も見ていないから何をしても大丈夫そうだな。ねえ君達、色々教えてくれるかな?」


僕は今、右手で1体の魔導人形の首を掴みながら立たせ、微笑みかけながら質問を始めた。


「? ここは・・・正面に魔導人形反応・・・2体確認・・・規模・・1体はシングルジュエル、もう1体・・・・ふ、ふふふふ、ふめい・・・き、ききき・・危険・・・・即時・・た、たたたたた退避・・・」


僕は目の前で体を小刻みに震えだす魔導人形の首を片手で掴みながら、もう1体の魔導人形の方を確認した。


「ノールお姉様、拘束完了しました!」


嬉しそうに僕に報告してくるイチゴ。

ここまで懐いてくれると僕より年上に見える容姿でも可愛く思えてくる。


「うん、うん、ありがとうイチゴ」

「はい! で、どうします? このまま息の根を止めますか?」


そんな可愛い顔で怖いこと言わないの。


「そっちは暫くそのままで待機していて。僕の方で捕獲した魔導人形に事情を聴いてみるから」

「はい! かしこまりです!」


僕から数メートル離れた場所でイチゴが魔導人形を羽交い絞めにして地面に押さえつける。

完全に各関節をロックしているあれでは動きようがないだろう。

でもそのせいでイチゴも地面に座り込んだ形になって、スカートの中が良く見える体勢になってしまっていた。

イチゴも黒い隠密用だろう丈の長い外套を羽織っていたから分からなかったけど、中はスカートで結構短かったんだね。

真っ白なパンツが良く見えています。


「あ、あのう、ノールお姉様・・・」

「ん? なあに?」

「あまり、その、私のパンツを見ないでください」

「あ、ごめん、ごめん! 嫌だったね」

「いえ! 見てもらうのは嬉しいのですが・・・出来れば人目の無いところで・・・」


そう言ってイチゴったら頬を赤く染め始めた。

ん? これは・・・・


『今晩、いただいてしまったらいかがですか?』


ミネルヴァさんの予想もしない言葉に僕は一瞬何を言っているのか分からなかった。


あ、あのうミネルヴァさん? いただくって、その・・あれの事かな?


『はい、多分正解です』


なんで?!

女の子同士だよ! ・・・・ん? 昔の記憶には男性の時の記憶もあるか・・・・でも! 今は女の子だし!


『いえ、知っておられると思いますが、ノール様には種保存機能がございます。これはエストラーダ様の研究課題の一つでございましたが、多種との結合で最強の体を持つ魔導人形の遺伝情報がどのような形で身を結ぶのかという壮大なる研究なのです。その実験の為には、そう言った行為の練習が必要かと思われますので』


いらんわ!! そんな研究!!

そう言えば、そんな話をしていた様な・・・確か、種別、種族関係なしに子供を作れるとか・・・・・・嫌な事を思い出してしまった。


とにかく僕は当分子供を作る気なんかないからね!


「ノールお姉様?」


そこへ、瞳を潤ませたイチゴが僕を見つめている事に気付いた。

いや気付いてしまった。


「あ、あのう、もしかして私が変な事を言ったせいでお困りですか?」

「え?! いや、あのうそんな事ないよ?」

「やっぱり私が変な事を言ってしまったから・・・嫌になられたのですね」


潤んだ瞳から今にも雫が落ちそうになってる!


「いや、違うよ! 嫌とかじゃないからね!」

「では、嫌われてはいないと?」

「そう! 僕、イチゴの事好きだよ!」

「本当ですか?」

「本当! 本当!」

「・・・・・嬉しいです・・・でしたら今晩お待ちしております・・・きゃ」


なんでそうなるの?


『ノール様、対象の魔導人形の挙動が異常値を示しています。ノール様の威圧に耐えかねかけているようです』


え? ああ! ごめん! 

イチゴの事でちょっと感情を制御し損ねてたかも。


僕は、気持ちを落ち着かせて、イチゴの事は後で考えるとして今は目の前の厄介ごとを片付ける事に気持ちを切り替える事にした。


先ずは感情を落ち着かせて・・・・ふう・・・・どう?


『はい、威圧が薄れました。魔導人形の各数値が安定し始めました。ただしノール様への恐怖心は倍増していると思います』


イチゴ達の時もそうだったけど、僕ってそんなに怖い存在なの?


『魔導人形。しかもセカンドジュエル以下程度の者から見たら魔王に思える程の性能差を感じているでしょう』


魔王って・・・なんだか複雑だけど・・・まあ今は深く考えない様にしよう。


僕は、首を掴んで立たせている魔導人形の瞳に自分を映しなるべく優しい笑顔で聞いてみる事にした。


「まずは君、名前はある?」

「わ、わ、わわわ私は・・・・シングル・・ジュ、ジュエルナンバー180・・266・・・・です」


相当、震えている。

やっぱり僕が怖いんだ・・・ちょっと落ち込むな。


「まあ、いいや。で君の所属はどこ? グリアノール帝国?」

「・・・・は・・・い・・・・・いえ! ち・・・ちが・・・ちが・・・・ううう・た・・たす・・・たすけ・・て・・てててててて」


突然僕の手に伝わる魔導人形の震えが強くなった。


どうしたって言うの、これは?!


『ノール様、緊急事態です。対象の魔導人形の原動力の源、魔核に異常なスピードで魔素が取り込まれ暴走しかけています。それに追随して体組織が崩壊し始めています。このままでは魔導人形の体の制御が効かなくなり、放射状に力が開放されてしまいます』


つまり・・それって爆発するって言うこと?


『はい。大爆発です。幸いこの魔導人形をフィリア姫様に気付かれない様に捕獲する為に、知覚介入と空間転送で大陸の未開地エリアまで私達ごと飛ばしていましたので、被害は最小限に限定されますが・・・ノール様は中心地にいますので無傷とはいきません』


それでも傷程度で済むんだね?


『はい、手足の1本くらいは無くなる程度です』


ダメじゃん!!

死なないと分かっていてもさすがに手足が無くなるのは勘弁してほしいよ。


『大丈夫です。一月もすれば今のノール様なら自動再生されますので』

そんなの他の人に見られたら一発で魔導人形と分かってしまうじゃないか!


『では提案です。もう一度空間転送でこの魔導人形を大気圏外に飛ばせば問題ありません』


いや、そうじゃなくて!!

この魔導人形を助けれないのかって事。


「無理です。ノールお姉様」


ここでイチゴが僕とミネルヴァさんとの思念会話に入ってきた。


「申し訳ありません。勝手にノール様の思念に割り込みました」

「いや、それは良いんだけど、無理ってどういうこと?」

「はい、多分その魔導人形は魔核に呪詛を施されていると思います。国への主人への忠誠を強制的に誓わせる為の術式呪詛で、強制力の大、小はありますが大抵の魔導人形に施されています」

「え? イチゴも?」

「はい。でも私場合はそれほど強力なものではなかったのか、ノール様の力が私に干渉した時に完全消滅していました」


つまり僕が関わる魔導人形の中には、仕える国や主人の命令を無視する者が出るという事?


『そのようです。世界征服をいたしますか?』


それはもう良いから。

今はこの子を助ける方法を・・そうだ!


「それじゃあ、この子も僕の力をもっと掛ければ・・」


『それは難しいと思われます』


どうして?


『先程イチゴさんが言っていましたように、術式呪詛には段階があるようで、イチゴさんの術式呪詛がレベル1とすれば、この魔導人形に掛けられているのはレベル5と想定されます。先程から外部からの干渉を試みていますが、返ってそれに反応して術式の稼働速度が増しています。申し訳ありませんが今の段階ではこの術式の解除はできません』


じゃあどうすれば・・

暴走を始めた魔導人形を僕は地面に座り膝の上で抱きしめながら、何かないかと思案を続ける。

けどその間にも、彼女の顔には赤黒い筋が走り出し、体の痙攣が大きくなりそれに合わせるかのように僕を見る瞳も大きく見開かれて行く。


『ノール様、もう限界が近いです。決断を』


もうどうする事も出来ないの?

何か手は・・・

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