第36話 争乱 9

ミネルヴァさん! 三つだよ! 額に三つの宝石があるよ!


『はい、サードです。しかも術式呪詛で縛られているようです』


え? サードで術式呪詛で縛られているの? それってまずくない?


『問題ありません』


そうなの?


『はい。前回の術式呪詛で縛られた魔導人形の解析が完了しております。あと1分ほどお待ちいただければ呪詛解除の術式を構築完了し発動可能です』


そうなの?


『はい。術式呪詛解除が可能となりましたら直ぐに発動いたしますか?』


じゃあ、1分程時間を稼げば良いんだね。


『はい、それと発動条件として相手の魔導人形に直接触る必要がございます。お願いできますか?』


え? そうなの? 

サードジュエルのお姉さん達に触れるの?


『それは問題ありません』


あ、そ。

なんだか、自分の能力の底なし感が半端ない気がして来た。


分かった。

なんとか頑張ってみる。

発動のタイミングはミネルヴァさんにお願いするから。


『了解いたしました』


「あなた、何者ですか?」


僕がミネルヴァさんと話をしていると、一体の魔導人形が話しかけてきた。


「僕は、ノール。フィリア姫様のところで御厄介になっています」

「ベルタ、この女の子、例のフィリア姫殿下が拾ってこられたという女の子ですよ」

「ああ、あの・・・それで何故あなたがここにいるのです? しかもナンバー101515と親しいようですが?」


この髪の長い方がベルタさんか。

じゃあもう一人のショートカットがエルダさんということか。

どちらも額に綺麗なジュエルが3つしっかりと見える。

強そうだな。


「どうしたのですか? 用がないならそこをどきなさい」


僕を気遣っている?

なるほど、呪詛で縛られているといっても、サードともなると理性はあるのか。


「何をしている!! ベルタ! エルダ! そのガキをさっさと排除しろ!!」


ベルタさんが僕に忠告している間もずっとイライラしていたロドエル殿下が、痺れを切らしたのか大声で怒鳴り上げた。


「ロドエル殿下、排除ですか?」

「そうだ!! 一刻も早くこの王城から出なくてはならないのにこんなガキに関わっている時間はない!!」

「しかし・・・・」

「これは命令だ!」

「クッ・・・・・りょ、了解いたしました」


ベルタさんの表情が歪む。

それを見ていたエルダさんも何かを言おうとしていたけど、それを止めた素振りをみせた。

やはり術式呪詛に縛られているせいで、命令には背けないみたいだ。


「お姉さん達、もう直ぐその忌まわしい縛りから開放してあげるね」

「・・・何を言っているのか分かりませんが、命令ですので・・・あなた・・を、排除・・・いたします」


苦悶の表情を浮かべながら、僕に向かって身構えるベルタさん。

その間にエルダさんはロドエル殿下の直ぐ前面に立ち、防御の体勢を取り始めた。

僕はその状況を見るだけ。

特に身構える事はしなかった。


「・・・・逃げてください・・」


ぼそっと周りには聞こえない程の小さな声でベルタさんが呟いた。

でもその言葉は僕にはちゃんと聞こえている。


「お姉さん、優しいね。今助けてあげるから。イチゴ周囲の警戒をお願い」

「分かりました! お姉様!」

「? ・・・・行きます!」


いきなりだった。

特に初動の動きがあったわけでもなかったのに、一瞬でその場から消えたベルタさん。

・・・・なんて、ロドエル殿下にはそう見えただろうな。


『思考加速、反応加速、身体物理強化、精神耐性強化、発動いたしました』


ミネルヴァさんの言葉が聞こえる。

相変わらず、これが僕の能力の一部らしいけど凄いね。


『思考、反応加速は先程よりも制御レベルが上昇しております』


なるほど、どうりでベルタさんの動きがイチゴの時よりも遅く感じるわけだ。


『解析ではベルタ機はイチゴ機の能力の10倍と推定できます』


それでこの状況? 

それって僕の能力がかなり上がったって事?


『はい。まだ完全制御とはいきませんが、それでもベルタ機と比べましたら雲泥の差が出ます』


そうなの・・・・僕ってどんだけの性能なの?


『サードジュエルでこの程度ですので、推測ですが世界最強魔導人形かと思われます。いえもう神の領域ではないかと』


それは言い過ぎでしょ?


『やはり世界征服をいたしますか?』


しないから!!


『残念です』


本当に残念がらないでね。

それより今はこの状況をどうにかしよう。


『はい』


先ずは突進してくるベルタさんに向かって僕は歩いて近づく。

たぶんこれ見えてないよね?

もともと、僕とベルタさんの間は30メートルくらいしか無かった。

直ぐに僕は懐に潜り込み、片腕を襟元をしっかりと掴むと背負い投げの要領でゆっくりと投げ飛ばした。


ヒュ!!


「???!!! ひっ!!」


この時点で思考加速を解除、僕の周りの時間が平常に戻った。


ドゥォオォオオオオオオ!! ガラガラガシャ・・ガ


あれ? あんなに飛んでいったよ?


『当然です』


ここは演習場なのか平たい広い場所にあって、建物や兵は100メートルくらい先にあるのだけどその建物の壁が破壊され、その瓦礫に埋まる様にベルタさんが倒れている姿が見えた。


「え? な、何?」


エルダさんの驚いた声が聞こえた。

うん、僕も驚いている。

ほんの少しの力でと思って投げたつもりだったんだけど。


「さすがお姉様です!!」


イチゴは喜んでいるみたいだけど、僕としてはちょっと引いてるんだけど。


「な、な、な、何をした!! おい! ベルタ!! 手を抜いたのか?!」


そんな訳はない。

呪詛で縛られているのに、手加減なんか出来ないにきまっているじゃないか。


「殿下! ここは私が盾になりますので早くお逃げ下さい!!」


エルダさんが咄嗟に判断しロドエル殿下に逃げる様に指示をした。

流石に状況判断が早い。


「ば、馬鹿者!! こんなガキ一人始末出来なくて何がサードジュエルだ!!」


あ、この殿下は馬鹿だな。

状況判断が出来なさすぎるよ。

と言っても逃がすつもりはないけどね。


『呪詛解除術式の構成が完了。発動可能となりました』


その時ミネルヴァさんからの言葉あった。


よし、まずは目の前のエルダさんに、

と、思った瞬間だった。

エルダさんの額のジュエルが急に光出した。


「ま、眩しい!!」


流石に僕もその発行に対処できず目を瞑ってしまった。


『緊急! エルダ機内部から魔力循環の異常を発見。術式呪詛を付与した魔導士による強制発動によるものだと推測。術式転移が発動されました』


ミネルヴァさんの解析が僕の頭に響く。

その間に僕の視力は光の発行に慣れ、直ぐに視界が戻ったのだけど、目の前にはすでにエルダさんとロドエル殿下の姿は無くなっていた。


ミネルヴァさん、二人は転移したの?


『はい。起動時間が瞬間的でしたのでそう遠くでは無いと思われますが、どこか別指定された場所に転移したものと思われます』


そうか。

ロドエル殿下はともかくエルダさんを救えなかった。

くそ! 慢心していたかな。


『いえ、私がもっと注意すべきでした』


そんな事ないよ。

それより二人の転移先は分からない?


『探知・・・・・・10キロメートル四方には存在を感知できません』


そう。

それにしても誰が発動させたのだろうか?


『推測、この場所に来る前までもう一人ブルタブル宰相の魔力を感知しておりましたが、その姿を見ておりません』


あ、あのおじさんか。

あの人が僕達が来ることを察知して隠れた?

で、タイミングを見計らって転移を?


『分かりませんがその可能性は高いと思われます』


分かった。

ブルタブル宰相ね。

ちょっと気になるな。

とにかくロドエル殿下を探そう。


「イチゴ!」

「はい、お姉様!」

「ロドエル殿下が消えた。身を隠せそうな場所の検討はつく?」

「・・・・お任せ下さい! 軍の情報から国内の潜伏可能な施設を検索いたします! お姉様、期待してください!!」


嬉しそうしながら飛んで行ってしまった。

見つけたら後でご褒美を考えなきゃ。


『ノール様、マイです』

『マイ? 今何処にいるの?』

『はい、エルダ様の魔力跡を追跡して王都を郊外に向かっております』

『え? エルダさんの?』

『はい。ですがロドエル殿下は見当たりません』

『そう、そっちはイチゴに任せるから、マイはそのままエルダさんを追ってみて』

『はい。了解いたしましたお姉様』

『でも無理はしちゃだめだよ?』

『・・・・・私にそんなお優しく・・・感激です! 全力で頑張ります!』

『だから無茶しちゃ・・あ、切れた・・・もう無理しちゃだめだよ』


さてミネルヴァさん、取り敢えずベルタさんの呪詛解除をしてしまおう。


『はい、了解です』


僕はロドエル殿下の行き先を気にしながら、瓦礫に埋まるベルタさんの所に向かった。

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