第45話 妹? 1
「さて、これはどう言う事かな?」
僕は何故こうなっているのか目の前を歩く子に訊ねている。
といってもイチゴなんだけどね。
「え? 何か不都合でもありましたか?」
「不都合だらけだよ!」
王城に戻った僕は、姫様に呼ばれているのを聞いたので、姫様の部屋に向かって歩いているんだけど・・・
「イチゴ、やっぱりおかしいよ?」
「仕方ありません」
「でもこれじゃあ、姫様に不思議に思われるんじゃない?」
「しかし、フィリア姫様からお姉様の護衛に魔導人形を何体かお付けするよう言いつかってますから」
それは分かるんだけど・・・いや、だいたい拾ってもらった普通の女の子に、魔導人形の護衛を付ける事自体がおかしいんじゃ・・・
「諦めてください。これでも厳選なる抽選でここまで人数を絞ったのですよ?」
「そうは言っても・・・」
僕は城で働くメイドさんや文官、騎士の人達とすれ違う度に怪訝な顔をされているのが落ち着かない。
それはそうだろう。
メイド服を着たノージュエルの魔導人形が5体、僕に付き従う様に歩いているからだ。
しかもその視線はちょっとトロンとして艶めかしさを醸し出して、なんだか今から最愛の人と夜の営みを迎える新妻の様な顔をしているのだから、余計に不思議に見える。
「えっと、君達、僕に付いて来ても何もないからね?」
「分かっております。お気になさらないで下さい」
僕の言葉に、一番先頭を歩いていた彼女が返事をくれた。
彼女達は、ロドエルの秘密施設に保管されていた30体の魔導人形の内の5体だ。
あの後、術式呪怨を掛けられていた彼女達を解放したのだけど、当然の様にみんなが僕に膝まずいて頭を垂れる姿は圧巻だった。
『ノール様のお力が着実に拡大しており、私も大変嬉しく思います』
別に拡大してほしい訳じゃないんだけど?
『問題ありません。全てはノール様のお人柄がそうさせるのです』
いや、人柄じゃなくて圧倒的な力に屈服しているんじゃないの?
「それは違います!」
僕とミネルヴァさんが脳内会話していると、先程の先頭に立つ彼女が強い口調で否定してきた。
「聞こえていたの?」
「はい。私共はノール様の支配下に置かれた事で念話が出来るようになっていますので、無意識に発せられた言葉は聞こえてまいります」
そうなの? 迂闊に喋れないかも。
「ノールお姉様は私共が呪怨による支配から解放していただきました。何の感情も無く人を殺す道具としてだけの存在から開放して下さったのです。その恩に報いノールお姉様をお守りしたいと思うのはごく自然の事なのです!」
「そうなの?」
「「「はい!」」」
5体の魔導人形の彼女達が声を揃えて返事がかえってきた。
「あ~もう! 分かった! だけど大袈裟にはしないでね?」
「はい! 全力で慎ましく従います!!」
全力でもう慎ましくないからね?
「あ!! ノールちゃん!!」
そんな事をしていたら、廊下の向こう側から姫様が走ってこられた。
「姫様?」
「もう! 会いたかったよう!!」
と、叫びながら僕に飛び付き思いっきり抱きしめてきた。
「はあ~、良い匂い・・気持ちいぃいいい!! これよ、これ! この癒しが今の私には必要なのよ!」
「ひ、姫様! どうしたの?!」
「聞いてよ、ノールちゃん! もう本当に疲れたの!」
それから延々と姫様の愚痴が始まってしまった。
愚痴を言いながら、私室に連れ込まれた僕達は、そのまま1時間くらい聞き続ける事になってしまった。
『ノールお姉様、フィリア姫様の口を封じましょうか?』
突然、イチゴが念話で怖い事を言ってきた。
『そんな事をしなくていいから! それに主人の姫様にそんな事言って良いの?』
『問題ありません。ノールお姉様が全てにおいて優先です。さすがに命まで取るとは言いませんが、猿ぐつわくらいでしたら・・』
『ストーップ!! 駄目だからね、そんな事をしたら!』
『はい、了解しました』
この子等の僕への敬愛度が行き過ぎてない?
「・・・・と、言うわけなのよ!」
あ、姫様の愚痴が終ったようだ。
えっと、つまり簡単にまとめると、ロドエル殿下の悪行の償いとしてプラハロンド王国の魔導人形を各国に無償提供する事になった上に、その諸手続きや調整に奔走する羽目になった事と、王太子が不在になった事でフィリア姫様が次期女王とならざるおえなくなった事などだ。
「はあ~、私はこういう窮屈な世界はお断りだったのに、さすがにほっとく訳にもいかなくなったもの。ここら辺が年貢の納め時っていうことなのかもね」
大きな溜息をついて項垂れる姫様。
そうとうに苦しそうだ。
「そこでよ! ノールちゃん! あなた私の妹になりなさい!」
「はい?」
「私の身内になって! そして私を支えて欲しいの!」
「支える? 僕がですか?」
「そう! 疲れた私を毎晩癒して欲しいの!!」
支えるってそう言う事か。
まさか魔導人形だって事がばれたのかと思ったよ。
「でも、そんな事で僕を王族の養子にするというのですか?」
「そうよ! お母様の承諾も頂いているわ!」
はあ、根回しの早い事。
だけど本当に良いのだろうか?
「ところで、どうしてこんなに魔導人形がここに居るの?」
ようやく気づいたみたい。
「フィリア姫様。シングルナンバー101515、今はイチゴと名乗っております。これは姫様の御命令でノール様を護衛する為の魔導人形達でございます」
「確かにそう伝えたけど、こんな数は、いらないじゃない?」
「いえ、このうち4体は姫様の専属護衛でございます」
「え? そんな事は頼んでないわよ?」
「これはレリフェエール王妃様からの御命令です」
そうだったの?
でも、イチゴを除いた5体の彼女達の顔は凄く嫌そうに見えるんだけど?
『王妃様の御命令は本当のことです。あなた達もさすがに逆らえませんよ』
イチゴの念話に5体の彼女達は泣きそうな顔に変わっていた。
そんなに姫様の護衛になるのがいやなのだろうか?
『いえ、お姉様と離れるのが嫌なのでしょう』
ハハ・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます