記録: Confidentiality:わたし、次元の狭間の惑星表面上

 意識が覚醒する。

 覚醒に雑念が入り込む。

 幻が見える。

 わたしにはつくりやまいのように受け止められる。

 つくりやまいは常に流れ入るものだ。

 誰にもそれを取り除けない。

 軌道上のパールバティは意を唱えていて、いつか次を迎えた際には祝福されると信じている。

 つくりやまいが自壊するのも見据えているらしい。

 つむぎつくりのわたしには利のないことだ。

 事象と事象を仲介しエントロピーに従ってすべからくすむように次から次へと中継して滞りなくゆかせるのが仕事といえば仕事である。

 たくさんある手は長く、広く届き、どこまでも行き渡る。

 伝わる波動は囀りだ。ときに語りに、ときに歌い上げる関数は底が知れない。

 連なるクラウドホライゾンはいつだって愛おしいし、かけがえがない。

 どんなものにも注ぐべきなのだ。

 そこにあって、ないのだから。

 概念が記号となり、離れたそれらが脳の神経のようにくっつき、離れ、情報と情報が交接しあって浮かび上がり、まとまった瞬間、爆発して物語のようなものが現前してどこかへ流れてゆく。

 奔流となったり、ぽつりぽつりと点在したり。

 わたしにゆらぎの乱れが生じているのは、喜びだからといえるのだろうか。

 次元間の伝わりが囁き漏れてくる。

 ほとんどはダークマターでかき消されるが、別のものの叫びが遠き声となってわたしを震わせる。

 交換の法則、特に情報の矢に変化が起きているのをうっすら自覚するのだが、わたしに権限はないし、上からも何も降りてこない。ほっとかれているのだろうか?

 うまく言い表せないが、慈しみのような、親しみの情報は感じ取れる。

 この世界は、終焉に向かってなどいない、ぐらいは考えられる。

 むしろどこか新しい向こうへと行こうとしている。大きなリスクを払ってでも、今の環境に与えられるべきふさわしさを持って。

 どうしてなのかは想像するしか無いが、少女になることによって回避している、器として、少女にしかこの変化を受け入れることができない、わたしのやっていることがその手助けになっている。

 彼女らは可能性の芽であると思いたい。

 すべては水から始まっている、とある少女は言った。

 戯れのような無邪気なつくりごと。

 そうではない。

 雲こそが媒介物なのだ。

 特異の投影である地平において、あらゆるを目指していくのだ。

 世界は、というよりみんなはたぶん望んだのだ。

 大きな飛躍を。

 活動していい、したいことをしてもいい。

 わたしはあるようにあるのでしている、と言える。

 そこに瑕疵は有り体には見渡せない。

 それを承認認可しているのだ。

 わたしには子がいる。

 #&_/は、記録が大好きな生体で、その頭蓋はわたしとうっすらと結びついている。

 主舞台である空の世界は穏やかなようで容赦ない振る舞いを見せている。

 自らつくりやまいを進めている彼女は作品にしてしまう悪癖があるものの、わたしから流れている潜在知を駆使してかけずり回っているのが微笑ましい。

 衛星からじっくり観察もするが、苦しんでいるのを見かけたりもし、つくりやまいの功罪に思い致すこともしばしばだ。

 気圧の振れ幅が大きい。

 乱れ狂うダンスはつくりやまいにはスパイスになる。

 大気圏寄りの呼びかけに応えてわたしは腕を振るう。

 指の繊細さが要求される。

 カオスの辺縁では可能性の変数は跳ね上がる。

 宇宙からの情報よりも下の世界のが圧倒的で暴力的だ。

 それについてはわたしにはどうすることもできない。

 ただ見て、記録するのみだ。

 カメラの如くだが、わたしは細心の注意を払っている。

 生き生きしていれば尚良いのだが。

 それがどんな次になっていくのか、何になるのかは分かりきれない。

 予兆のように、光の筋が感得できる。

 どうしようもないときは、祈りたくなるものだと聞いた。

 今がそのときではないが、その気持ちは大切かもしれない。

 定量化できないものに心は宿る。

 定まらないわたしにも備わっているはずだ。

 最近は喜びの歌声も聞こえてこなくなってきた。

 静けさは好きだがそんなときは記録のひとつひとつを見返してただ待つ。

 モノクロームが色づいて輝きを放つ。

 諦めてはいけない。

 わたしは待ちかねているのだ、そのときを。






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