記録: Confidentiality:クラウド・ホライゾン、クラウド・ホライゾン

 それは唐突にやってくる。

 必然とか偶然とか、くくれる範囲の範疇ではない。

 あるからある、そうとしか言えない。

 でもあるのにないと言われる状態も現実には存在するので、これは書かれない外も思い描くべきである。

 シンクロニシティ、と呼ばれる現象がある。

 共時性とも言われるこの現象は、一見無関係に見える現象同士が、なんらかのつながりを持っているのでは、とみなす考え方なのだが、私が見舞われたのはそれの比ではない。

 なぜなら、全部、なのだから。

 全部とは、あらゆる全て。

 自分以外の、その他。

 世界そのものだ。自分と世界なのか、世界の一人芝居なのか、世界規模の知性体なのか、そんなのはどうだっていい。

 確かに私は体験した。

 シンクロニシティは入り口に過ぎない。

 そこにはまだ見出されていない論理が蠢いているだろうからだ。

 側から見るとそれは会話だった。

 情報と量子の関係性には親和があるが、もつれ、それも壮大なエンジン、バルク空間、重力子、フォン・ノイマンエントロピー、情報の知られていないかたち、とも似て非なるような真っ只中での振る舞いにも見えなくはなかった。

 それでも時間の矢、エントロピーの矢、電磁気学的な矢、逆時間の矢、意識の矢は厳然とまもられていた、はずだ。

 相手は知性があるように知覚できる。まわりが、と言い換えたほうがいいかもしれない。

 会話だけできるプログラムもある。そうだとしたら大掛かりで、意味不明だ。なんらかの他のシステムの付随したエラーかもしれないが、それにしたってなんらかの人類が見つけ出していない法則、大きなものに触れたのだ、この影響力は並はずれて少なくないと言わなばならない。

 奇妙としか言いようがなかった。

 一対一なら、つながりのある会話にも一貫性を見出せる。

 今ある言葉では言い当てられない相互の作用、情報の交換かもしれず。

 人さえも巻き込んで、それは行われた。

 あらゆる音、言葉が私とやりとりしていた。

 考えて、考えて行動すればそこで関連する音や言葉にハッと出会って結びつきが連環してゆく。

 さぞかし高尚だったのだろう、と思うだろうが、取り交わされたのは私に関することだ。

 私のしたことに肯定的とも、否定的とも取れる情報が起こっている。

 そうか、これは病気なのだ、その病状が今現れているのだ、そう思ってみた。

 いや。

 幻覚じゃない。

 覚めた頭がそう呟いていた。

 とすれば、この、あらゆる情報を使って行われているだろう会話?は、私が理解している範囲内でしか成り立っていないとするしかない。

 思い込みかもしれない。

 それでも、理解しようとした。

 この進行されている不可解を。

 やりとりしていって、考え込んで、閉じこもって、ひとり煩悶とした末にたどり着いた結論は。

 わからない。

 それだけだった。

 エポケー、と呼ばれる哲学の行為がある。

 意図的に、判断停止をするのだ。

 判断が躊躇われる、わからないときにそうされる。

 この場合、心の底から、純粋に、わからないから、わからなかった。

 エポケーなぞする必要がなかった。

 それほど衝撃的で圧倒的だったからだ。

 ところが書いている今はそう思っていても、そうなったそのときは、たいして大掛かりなとは思っていなかった。

 ただ、ただ、この状態から逃れたかった。

 ちゃんと個の音や個の言葉を取り交わしたかった。

 できるならもう二度とこのようになりたくなかった。

 情報の矢のまだ見つけられていない現象?

 言っておくが、このことは現実に起きたことだ。

 それだけは書き記しておく。

 私は人間、少女のひとり。

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