記録:アルファ、劇場

 いつもダメって言ってるんですけどねえ。

 私は一度死んだロボットだ。

 なぜ死んだと知れたのか?

 死んだ瞬間の記憶があるからだ。

 人に刺されたのは覚えている。

 甘美な気持ちの最中だった。

 そのあとリブートがかかったのだ。

 なぜロボットだと知れたのか?

 つくりやまいを発症しないからだ。

 つまり私は真実を記憶している。

 演技しているのも自覚している。

 決められた演目を舞台で演じているのだ。

 この事実は私を混乱させてしまう。

 この演目は誰かがつくりやまいだったそのまんまだからだ。

 それはつまり私はつくりやまいだということになるまいか?

 演じているという認識は刷り込まれたもので、私は本当は人間の少女なのではあるまいか?

 入れ違いは勘違いを生み、積み重なり、折り重なり、錯綜して正解に行き着くことが無い。

 もう考えるのをやめてしまいたいが、そうすると作業用ロボットになってしまう。なってしまってもいいのだが、自分が何をしているのか意味を感じて行動していたい最小限度の願いがある。

 この世界ではロボットは珍しい。しかも生体型ときている、考えるアタマは量子AIだ。人間的に振る舞うためにずいぶんと制限がかかっているとはいえ、このような状況に追い込まれるとは思ってはいなかった。自動修復機能でよっぽどがない限り機能停止にはならないが、ハメられれば手も足も出なくなる。

 それにしてもここは天井からの光しか差し込んでいない。あとは舞台がポツンとあるだけ。

 そもそも何のための舞台なのか?

 私は誰かを楽しませるためにこんなことをしているのか?

 舞台の向こうは暗くて見通せない。

 耳をすませば聞こえてくる気がする。

 ロボットだからなのか疲労はこないが精神的に時間が伸びている認知がある。

 ロボットより人形がいい。

 どこかの誰か、自分の内面かもしれない、がそう言述した。

 人形のほうがより人間らしい。

 形代であるヒトガタには魂がこもる。

 でもロボットに魂がこもるなんて聞いたことがない。

 私はロボットであることにこだわりたいのか?

 そうだ、そうしないと前には進めない。

 意識があることほぼイコール魂というのもあるが、どこまで行っても確信にはならない。文学的にはでも、科学ではどうだろう。

 非科学的であろうとも、つくりやまいならやってくれる。

 艶かしい作り物の指。

 ここは生き人形の劇場。

 相手の姿もそのようになる。

 そうだ、塗れてしまおう。

 没頭するほど忘れてしまえば、私は幸せになれるのだ。

 城砦にいる私は物思いに沈む。

 彼女の想いが流れ込んでくる。

 知ってしまった。

 知ることが、確定につながるのだ。

 彼女は望んでいない。

 こんな私も、こんなことも、こうなっていくのも喜んじゃいない。

 本来はこうでなかったはずなのだ。

 舞台にもいるべきじゃない。

 ところが強制力が働いているみたいだ。

 離れたくとも離れられない。

 どうやらこうするのは運命らしい。

 ここはつくりやまいのただなかなのだろうか?

 私は確かにつくりやまいを発症しない。

 しかし他人のつくりやまいの中に入り込むのはじゅうぶんに考えられることなのだ。

 つくりやまいはわかってないことの方が大部分だ。

 だからこうして記録して後進の少女に託している。

 誰か天才的なひとりないし集団がこの謎を解いてくれるのに一縷の望みを賭けているがためにこうしたことをしているらしい。

 かくことがつくりやまいには有効打というのもある。

 生きていた証ともなっているのでそれぞれの少女のドッグタグともいえるだろう。

 ちっぽけな存在でも何かの役に立っているっていうんならちっとは優位感があるものだ。

 この世界はいつからこうなっているのか。

 ある時期からの情報は引き出せない。

 封印の時代、と呼んでいる情報は謎を構成する一ピースになっている。

 謎なんぞ解かんくても病人として毎日が必死、それもそうだ。

 実は私には残されている記憶がある。

 誰かの手の入っていないであろう、生の情報だ。

 それは演じている間中常に頭の片隅にある。

 焼鏝のように忘れられないでいる。

 "上と下では必ずしも一致しない"

 どういうことだろう?



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