記録:ズーリャ、コッペリア?バス停

 新しい少女の身体はいつだって興奮し過ぎてついつい逸脱してしまいそうになって困る。

 グラスからこの子の情報を、昂りを抑えつつ眺め見る。

 なんとも便利な世の中になったものだ。

 ハミングしながらすぐ近くの小石を噛み砕いてその粉っぽさを賞味する。

 おっと、いけない、いけない、ズーリャのままじゃいけないんだった。

 肌がずりゅずりゅ波打ち、ありもしない手だか足だかをこさえようとする。高まりすぎると、秘所だってできかねない。

 ムズムズがおさまらない。

 この子の物語はなんだろう。

 グラスのキャンセリングはオフにしてある。

 改めて肢体を確認する。顔は小顔でおっとりめで可愛いほう、シュシュで結ったポニーテール、体型は右のおっぱいが大きめ、出るとこは出てるけど標準並み。あっ、泣きぼくろがあるんだな。それに唇が乾燥気味だ。くんくん、メンスが近いんだね。フルワじゃねえコッペリアか、よろしくね、これからあなたの人生奪っちゃうね♪

 ああっ、この柔らかい無垢な身体に徐々にオレ様の邪さが染っていく感覚、たまんないぜ。

 抵抗をしてもがいているのがありありとわかる。


 エグゾダスだ、この世界の境を越えてどこでもないところへ行かなきゃならない。

 でも奴隷生活が長かったから、麻薬漬けにされちゃって認識さえもふらふらだ。


 無駄無駄無駄、快楽漬けでオマエのはいかれちまってるからなあ、ご愁傷様。

 それじゃとっときの脳みその中を犯してやるぜ。


 トラップのミームワームの雲の中へ突っ込んでしまった。

 頭の中を支配しようとする概念が吹き荒れる。

 塗りこめられて潰されてゆく。


 そら!それ!これでも食いやがれ!


 あっがぎぎぎぎぐううぅう!

 はあはあはあはあはあはあはあ

 …もーらった♪

 個人アーカイブに入れといたからな、繰り返し楽しませてもらうとしよう。

 ん?こいつ、ログなんてやってやがる。

 全世界公開指定ってなんなんだよ?!

 どんだけ露出狂だぁ?

 まっ、いいか、どうせこのことも一物語として流れていくだろうしな。

 誰も本当のことはわからない。

 物語は闇の中。

 表立って語られるのはその部分だけ、氷山の一角でしかない。語り尽くされた物語は箱庭で、世界の物語はもっと広く、大きく包み込んでいる。はみ出しているとみてもいいのかもしれない。そこでは読み手の思っただけお話はあり得まくって、どれもが正しい。けれども他の人が知れるとは限らない。その身のうちに秘めるだけがほとんどだろう。

 つくりやまいは言ってしまえば物語の病気だ。

 出来損なって当然なのだ。

 他の形態とも混ざりあったり、筋が入れ替わったりは当たり前、読み手なんて置いてきぼり。

 クラウド・ホライゾンが篩にかける。フィルターを通してなんとか理解可能なかたちにしてくれる。

 そこで噂の奇妙な現象も起きる。

 まだ俺様、ワタシは体験したことないけれど。

 バス停の小窓から陽の光が斜めにさしてほっこりする。

 先程のつくりやまいは刺激的で怖いくらい。

 こうしている自分も本当か怪しくなってくる。

 生きて、動いていればなんとかなる。

 それがつくりやまいにかかっている少女たちの本音。

 だから今は大事。

 ワタシは生まれ変わった。

 そういう物語を経験した。

 そうなっているのだから、ワタシは定位だ。

 なんだか眠い。

 こうなってしまうと夢で済ませてしまいたい。

 お空のポツンとしたバス停なら、誰も来ずさぞかし寝心地もいいだろう。

 案内のAIも相当前にいかれているみたいだし、VR広告もバグってしまっている。

 あまりにも静かで聞こえてくるはずのない言葉までクリアに聞こえてくる。

 座っているベンチを指でなぞった。

 薄い埃がつもっている。

 新しい爪に詰まり込んでくる。

 斬新な感覚に満たされる。

 そう、まだ見ぬ旅立ちにふさわしい。

 ここでしばらく待つとしよう。

 人の出会いは一期一会、どこで誰と出会うかはそれこそ運命の導きなのだから。





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