記録:私、飛行船3
病気が長期化するとお付き合いになる。
どうしても生活と切り離せなくなる。
病気に一喜一憂し、自分の一部として振る舞いつつも、進む道の邪魔な石とするか、気の抜けない相棒とすべきかでその致し方が変わってくる。
症状によって内に入るか外に出るか。
病気はもうひとりの自分なのだ。
いやでも自覚しなければならない。
自分は自分によってでしか最終的には助けられないことを。
たくさんの自分がいようとも、ひとり。
たったひとりでしかないのだ。
夢の中で考えをうろうろさせてた。
自分はお人好しだ。
こんなところと切り捨てればいいのに、見限れない。
軟着陸できる着地点を探っている。
どんな根拠があるというのだろう。
そもそもそんなところなんてあったろうか。
それでもそこへ向くというのは、性分だとしたら、どうしようもない。
それでも、逃げても、怒ってもいいんだよ?
そうしないのは、病気にそれでは克てないと身をもって体験しているからもあるに違いない。
病気に対することによってのみ開けるのだ。
雲、コーヒーでどうしろというべきなのかもしれないが。
芳しい香りが鼻をつく。
多少は落ち着いた。
コーヒーブレイクといったところ。
ん?ブレイク?
ブレイクには壊すのが一般的だが、切断するのもブレイクだ。
切断、切り分ける。
より分ける。
グラスに手を伸ばした。
つくりやまい:飛空船がある。
タップすると、快楽と病気、とあり、行き着いた先がつながっている。
快楽、とさらに打ち込む。
闇が深くなる。
快楽。
悦楽。
快楽。
随喜。
そこには行き着いた快楽があった。
見つめていたが、意を決して、一息に、はなす。
それでも快楽が残り、それは希望として残しておく。
周りが見えない力と格闘している。
立ち上る歓喜が、圧倒しようと波状をつくるが、病気の波状で打ち消しあった。
並び立たなかったのだ。
そもそも快楽だけでは乗り越えられない。
そうでないをたくさん詰め込んでこそ、病気は存在意義をみつけていく。
セーヤさんが私を楽な姿勢で優雅なマッサージをしてくれていた。
たぶん、そういうこと。
私は慎重により分けて、豪奢なカーテンの細い光を受けながら、闇をより一層潜めて、病気を際立たせた。
病気はひとりぼっちでも除け者でもなかった。
病気には病気であるところのトポスがあった。
病気も出自がどうあれ、情報なのだから。
情報の海の中にかえっていく。
潜まっている怪物たちにも、記憶を与えし。
我、記録せり。
病気はありようを灯したまま、彼方へ去ろうとしていた。
病気を認める。
わかたれた病気は何になるのだろうか。
しつらえられた、寂れたプレイルーム。
物語はまだそこにいる。
わかだまった南の孤島。
行為は、まだ続いているのだ。
どうこうしようとはしなかった。
もはやそこでそれぞれで孤立しているからだ。
随分と淑女趣味と少女を同居させたかったのだろう、デザイン的にはほどほどに達成させられている。子猫的かな、そう感想を漏らした。
せんもいた。
大変だったろう?
せんのおかげでそんなにキツくはなかったよ。
ボクは何もしてないよ。
せんはアンカーなんだよ、スピリチュアル・アンカー。
抱き合うようにもたれかかる二体のビスクドール。
熱がこもっていたかのように、煤けて、色褪せている。
物語はもはや色褪せていて、喋りも訥々としていて所在なげだ。
それ以上は何もしない。
物語は物語だからだ。
生きていようとも、人ではない。
超え出ているかもしれないが、人にはなれない。
生きているのはなりふりで、本当の意味では生きていない。
知るものがいないと生きていけない。
ここまでは現時点での私の物語への接近。
変わりゆくだろう。他になっているかもしれない。
どこかで快楽が産声をあげていた。
このことを知れただけでも私は進めるのだろう。
昨日の自分よりかはいくらかマシなのだ。
自信がついてきた。
次にはひょろっと折れてしまいそうな心ともなさだったけど、ないよりはいい。
ラウンジに出た。
そこには本来の景色が広がっていた。
雲海の洪水。突き抜ける青空。
ここのように、なりたかったんだね。
やまいが、変えてしまったのだろうか。
すべてが絶妙な布置にあって、知りもしないカラクリに引っかかって動きが決まっている。
運命に還元したくないが、何にも縛られたくもない。
少女たちの願いが、少しはわかった気がした。
特に現場にぶち当たった、そういうのではない。
それでもここから見える雲の稜線に散らされて、少女たちは遂げているように思われた。
そのように思いたい。
物語はさまざまな読みができる。
語り手の都合に譲歩してあげたい。
そばの物語が囀った。
そろそろ、いい?
雲を、残して。
私が、いた。
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