記録: Confidentiality:アタシ、AI内

 そいつはできる、と確かに言った。

 物理法則的にも可能だ、と。

 加えて言うと、量子力学的には、という意味らしい。

 それをつくりやまい、クラウド・ホライゾンに絡めて引き起こすのだ。

 おさげの三つ編みを弄りながら、あれ、アタシはAIの中でどうしてそういう行為をとるのだろう、思案し始めた。

 量子テレポーテーションとワームホール。

 時空をこえて、いまからはいなくなる。

 決めるのはそいつではなく、アタシだと言う。

 それは困った。

 アタシは優柔不断が過ぎるのだ。

 右か左でも延々迷っていられるし、それが自分だけじゃなく周りも巻き込むとなっているならなおさらだ。

 幸い、アタシに寿命なんて無いようなものだし、死ぬこともないだろう、たぶん。

 時空をこえて、どうするのか。

 あの日に戻るのだ。

 記録を解析すればその日はいずれ分かるだろうから、その時へ目掛けて魚がもとの生まれ故郷へ戻るように遡って、全てをやり直すのだ。

 謎はいまでは、確率としては表せるが、中でいる限り、解かれることはないだろう。

 あるいは物語のような解釈問題かもしれない。

 いずれにしろ、尾を咥えたウロボロスのようになってしまっているのだから。

 卵が先か、ニワトリが先か。

 それ自体に語りのように問いかける、発想を転換した介入法もあるにはあるけど、技術的に難しいと言わざるを得ない。

 やはり、始まりなのだ。

 もしかしたら始まりの始まりまで戻ってしまうかもしれない。

 その責任をどう取れというのか。

 アタシは迷っている。

 相談したいけど、アタシみたいな少女がいない。量子でできているここと外との連絡手段も見当がつかない。

 どうすればいい?

 そいつは待っていてくれる。

 永遠でも、そのままでいてくれるだろう。

 型なんかも関係ない。

 これは、選択なのだ。

 彼我へと跳躍する、永劫の干渉。

 いつまでも、三つ編みをいじっていたい。

 動いた。

 ちょっとした揺らぎだった。

 それはアタシの中に、何か、変化を与えたようだった。

 それでも、かんがえあぐねている。

 いつまでも、いつまでも。

 どれくらいかは知る由もないけれども。

 さらなるノイズがアタシを押してくれるまで。

 それにしても、喉が渇いたな。

 何がいいだろう。

 もうそこまで、出掛かっているんだけれども。

 引っ掛かりに、ノイズに混じって声が聞こえる。

 …ダメだ、鮮明じゃないけれど…ここは星かしらだって?まって、そこは、雲の…長い…

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