記録:私、居宅あるいは
薬はいかほどか効いている。
のめり込み過ぎていたようだ。
身体はガチガチ、ほぐしながらぼきぼきと鳴らす。
グラスをテーブルにほっぽって、ベッドにばふん、と飛び込んだ。
ゆるみながら考えを巡らす。
諦めるのはまだ早い。
みんな遺書のように記録を残してゆくけれど、どこかに突破口はあるはずなのだ。
一説によると薬が効いている間も頭の中ではつくりやまいが駆けているという。
そうぞうせいと結託して、悪さなのか手助けなのか、蠢いて妄想として、想像として、心に影響を及ぼしてくる、らしい。
そう考え過ぎた少女は頭を手術した。中身をそっくり機械に置き換えた。
その後のそうぞうがつくりやまいじゃないかは証明のしようがないけれど、少なくとも自分を騙すことには成功した。
その後その少女がどうなったのかは知らない。
まやかしの夢で満足しているかもしれない。
風がいくたりか強いみたいだ。
つくりやまいも主張が強すぎるのだ。
つくった当人がいないなっても残るのはなんともいただけないものだ。
いかなる物理法則が働いているのかはもう全くお手上げ状態だが、平行世界と次元の重ね合わせ、もつれ、引き渡り、括り込み、という一見突拍子もないアイデアがある。
この世界は法則がどこかで変わってしまったというのだ。
既存の法則と組み合わせたのだが、実験方法がわからないので理論の段階で止まっている。
本人に聞いてみないとわからないが、AIによっての結果なので、私たちには理解できない領域があるのは確かだが、なんとなくフィーリングは伝わってくる。
みんなつくりやまいに悪感情を抱きすぎだ。
それで必死になってどうにかしようとする。
私はたまに愚痴は吐くし絶望もするけど、そんなに邪険には思っていない。
つくりやまいはイタズラ小僧だ。
普段はそのスタンスだけど、調子の悪いときは拷問者や死刑執行者のように思えてくるから人の感情というのは簡単にはいかないものだ。
薬を飲み続けているからか、つくりやまいによってひどい目にあったこともないためか、薬が効いている間は可愛いものだ。ただそのときその時の仕打ちによってストレートに感情を吐露してなくもないけど、ああんもう、もどかしいな、つまり、言いたのは、つくりやまいを好きになりたいのだ。仲良しになりたい。あわよくば友達になりたい。会話できるわけじゃないけど、なんらかの共感が欲しい。分かり合えるとは思わないけど、なんらかの肯定できる要素が見つかるはずなのだ。
いいこと探し。
共生する道もある。
でもつくりやまいとの関係はそうではないような気がしてならない。
別の、まだ繰り込まれていない、名づけざらざる構えになっているはずなのだ。
それなら謎を解くよりもできそうな気がする。
手帳に、私とつくりやまいと書いて、線を引く。そこに名付けはまだない。不自由の自由。どうにもならないこととなんでもできることのあいだにはなんらかのかたちで結びつけられるのだ。
希望が見える。
生きてゆける。
ここからなのだ、高く、見えないくらいに飛び立とうとするのは。
挫けそうでも、失敗してもいい。
もうたっぷり苦しみは味わってるもの。
それに、こんな少女がひとりくらいいてもいいじゃない。
いまなら雲の彼方を見通せそうな気がしてきた。
それはきっと、誰もみたことがないけれど、親しみやすいものに違いないのだ。
もしかして物語は成りたがっている?
言葉は交わされないかも知れない。別のかたちでそれはなされるだろう。それでいい。取り交わされること、なんらかのよきものに向かって。
それを想うと、知らず安らぎが訪れていた。
型は星のようなものだ。
それ自体、輝くもの。
憧れ。
望み。
希望。
湧き上がる力。
目指す、目印。
星座のつながり、組み合わせのメタファー。
つくりやまいは個々を見ても分かりようがない。丸ごと受け取って、心のおもうままによい方へと駆動するための、突き動かされる力なのだ。分かるが次のわからないを生み出すように、それは世界の複雑さの一端を担っていたのだ。情報の本質をむき出しにしているのは、私たちへの開示だろう。
次への段階の端境の揺らぎ。
ひとは、そもそもやまいとともに生きてきたのだから。
ひとまず、私に大切なのは今と、この生活だと、私は私にかえっていった。
雲の向こうが、透かし見えていた。
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