記録:私、飛行船4
戦利品が目の前に積まれている。
せんが掻っ攫ってくれていたのだ。
食べ物は保存食ばかりだったが、高価なアンティークを持ち出せていた。それと、見かけないようなガジェット。後からじっくりと調べたいが、気にかかるものがもうひとつ。
薬。
表記がなされていない、毒なのかもわからぬ胡散臭さ。
試しに、というのもいかず、とりあえず持ってようか、ということになった。
それにしてもどこから手に入れたのだろうか。
航海図も手に入れていた。
知らない場所が書かれている。
行けるところが増えて、急に目の前が広がった。
ある意味、交流だったのだ。
物語の力を感じ取っていた。
部屋で感傷に浸っていたい。
せんも引き止めようとはしなかったのでありがたく引きこもらせてもらう。
ぼふん。
すぐにでも眠りの淵へ落ちそうだったが、場面が立ち上がってきた。
笑い声、嬌声、黄色い声、喘ぎ、ひそみ声、ひそひそ声、思い思いに好きなことに耽っている。
型の行き着く先だったかも知れない。
気分は沈んだ。
ああなるのか。
正しいとかそういうのではなく、あるべき姿として、体験した。
気だるいとか、意気消沈、やる気を無くしている。
あれは正直見たくなかったな。
突きつけられて、げんなりした。
眠ろう。
寝入りっぱなだろうか、かたくなってきていた。
悪いは重なる、だ。
そのまま寝れれば、だが、眠れずにいた。
好きを遊ばせる。
ああ、こういうのかな。
でも。
でも。
…ある方向性も嗅ぎ取っていた。
あれは型なしの好きの突き詰めだ。
型がある。ない。
この差はかなり大きいと思う。
そこからの好きは、違うを引き出すはずだ。
物語の中では、うまく作用していたんだ。
安堵して、いいのだろうか。
けだるさはある。
不安もわかだまっている。
どうなっていいものか。
どこにもいけなさそうで。
雲は行方を分かり得ていそうだった。
コーヒー、飲みたいな。
すーすーすー。
寝息を聞きながら入眠した。
戻りの道を辿っている。
必要量を獲得したと判断した。
急がず、ゆっくりと。
夜のファクトリーの眺めがよろしいというので、廻り道をして寄ってった。
係留して停泊する。
こうゆうのも乙なものだ。
時間まで、やまいと共に乱高下したり、思い思い、家事などをしていると、日はすっかり暮れていた。家事はセーヤさんが手伝ってくれて、せんの前にも現れたものだから、紹介してたらそのままお茶会へと入っていったんだけど、せんとセーヤさんのやりとりが面白かった。せんって普段ぶっきらぼう、言葉少なめなとこあるんだよ、それでセーヤさんは畏まるものだから、ミョーな間が空いたり、かと思うとかっちりハマったみたいにスムーズな応酬、見ていてハラハラしてたけど、内心、微笑ましく面白がっていたんだ。お茶会も独特なもので、せんがお嬢様に見えたのが不思議なくらいだ。所作は我流だったけど、形式に則っているようだったし、まるで絵本の中に入り込んだような錯覚さえした。
久しぶりのほだけた時間だ。
やまいも弱まって、もやの中にどこかの牧歌的景色が見えた時は微笑ましかったけど、不穏さが増してきて見えない怪物に追いかけられている少女を見せられていてハラハラ、赤ずきんのブラックパロディだとわかってきて、弱々の自分にボディブローだ。
逆に緊張したことでしゃっきりした。
夜までは時間があった。
グラスは時間泥棒なので、これまで書いてきたものを読み返してみた。
前向きだな。前のめり。
必死こいてるからな、そうなるか。
やり直しが効かないから、上手い、下手はある。優雅に踊れたかと問われれば、眉を顰めるだろう。
筆致はたどたどしく、思い込みも、思い上がりもある。
感情のドラマが気薄だな。
怒ったり泣いたりはあんまりしてないので、これが人の感情に訴えかけるかと言われれば疑問はある。
それでもその時その時の行動は選び取った末だ。
与えられたもの。
かつての私ではすでにない。
未来を感じ取れるぐらいには、改善された。
せんが一番大きい。
今も感情は整理できないけど、感謝は一番あるのは確か。
何かあればこの身を捧げてもいい。
考え込んで気恥ずかしなったからやっぱり考えさして。
それぐらいは思いが強い。
うっとおがられるだろうからあまり表には出さないけれど。
そうだよ好きですよ、せんのことが大好きです、いてもたってもいられなくなります。
これがLOVEかといえば線引きは怪しい。
憧れが入り込んでいるからだ。
自分よりも上。
先生みたい。
だから、せん、なのだけれど。
せんはそういう意味で先をいっている。
褒めてばっかだけど、貶すってなんだろう。
信奉しているような、でもないし、気心の知れた、仲間のような友達のような。
せんにはお返ししてあげたいけど、それは?
一緒にいれば、何かかにかできるだろう。
一緒にいたかった。
私たちはどうやら歳を取らないのかゆっくりとだがとってるみたいだけど、永遠の一瞬かもしれない。
誰にもわからないから。
たとえ堕ちて中途半端に浮かぶ宇宙船にある超量子コンピュータにも。
彼彼女になら、答えを出せるか?
グラスで知り合った少女に、科学少女のアサがいる。
超量子コンピュータのつくりだした世界が、今ある世界だとしたらどうする?といってきて、ドキッとした。
かように関わっているのかはわからない。それでもありうる話なのだ。
科学少女はつまらないという。想定の範囲内だからだ。世界はもっと、わからない、で溢れててほしい。そんなどこかの少女が考えつくようなことだとしたら、わたしゃ自殺しちゃうね、だと。
この話も面白いけどキリがないのでここぐらいで。
こうしている時間も症状が快復に向かってからは愛おしい。
まだ治った、ではないが。
嬉しい変化だ。
そろそろ頃合いだ。
艦橋にシートをひいて飲み会気分。
酒は飲めないのでコーヒーで観覧。
夕闇と共に、明かりがつき始め、次々にライトアップされていく。
煙突が、鉄塔が、キラキラ輝き、全体がライムグリーンの光で満たされる。
空に、下にサーチライトが照射され、ぐりぐり動く。
雲の層に反射して城砦の如き景観を演出していた。
ここのファクトリーは群になっているので、入り込み具合が御伽の国みたいだ。
稼働している無人機械がアトラクションで、夜の遊園地を思わせる。
人工の極地の一。
そう感じらせるだけの迫力は備えていた。
「はえー…」
これほどのものとは。
「どれくらい前から?」
「さてねえ。原材料から、流れでオートメーションなんだよ?生産量は抑え込まれているらしんだけど」
コーヒーをつくり始める。
ミルからゴリゴリやる。とっておきのを持っていたのだ。
落としてじっくり淹れると、いい香りが立ってきた。
とびきりの夜景にご馳走様。
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