記録:アメリア、エッシャー
階段を登っている途中だが、降りている途中でもある。
滝が落ちているようにもループしているようにも見える。
私は旅の途中であったはずだ。始まって間もなくであったのか終わりが近いのかはわからない。
水袋に手を伸ばす。
これから飲むところだったっけ、飲み終わったんだっけ?
混乱している。整理しよう。
つくりやまいの嵐に見舞われたのだった。
あんなのはこれまで見たことがない、災害級の規模だった。
いつだってつくりやまいは災いみたいなものなのだが、なんらかのつながりはできるはずなのだ。
物語病と呼ばれる所以だ。
その繋がりかたが齟齬をきたしている実感がある。
つくりやまいは何も悪夢をつくっているわけじゃない。
つくり主たる少女の心の状態によって千変していく。
私は空想癖が強いから、多少強烈ではあるけれど冒険心をくすぐるやまいがもられていく。
今はどうだろう。
繋がりかたが捻じ曲がっている、正常じゃない。異常が先行している。
階段の裏側にいる気分だ。
たぶんそうなのだろう。
ここでは何もかもが起こりうる可能性を持っている。
私はグラスを録画のみに限ってオンにしているけど、それはやまいをより受け止めたいがため。
記録はそのままを写しとっているのだろうか。
私の眼とグラスの眼は違う。
この記録はひょっとするとひっくり返った像かもしれないのだ。
たまに後で見返すのでほぼ現実通りだと確認できるのだが、奇妙なのだ。
つくりやまいと現実が入れ替わっている。上書きされている?
言い方が変だが、現実そっくりのつくりやまいが差し代わっている。
見分けかたは最初の子はフルワだといっていたが、他の子には見受けられないので、変質したのだろう、現実らしくないところがあるかないかだ。
それだけではわからないというと、その者だけがわかる特徴、符号があるそうだ。
それだけじゃ、ねえ。
その中でのほうが生き生きできる、普段できないことができる、そういう少女もいる、らしい。
一息ついて、その場に座り込み、ふうと水をゴクゴクする。
出れないんならそれでもいいんだ、この不可思議世界で朽ち果ててもいい。
どうせ治らないんだから。巻き込まれたままなのだから。
もがいても、足掻いてもどうにもならない。
滝で魚が跳ねた。
降ったように、おかしみが込み上げてきた。
笑みが堪えきれない。
いかなるを捨て去っていても、残るものは残るし、残らないものは残らない。
そのまぼろしに未練たらたら、道化の私に憐憫もする。
グラスをオンにした。
同じ風景が映っている。
これは確定した事象だというのか。
つくりやまいによって変質した現実はもはや本物と変わらない。
それでも見分けかたなんて噂が流行るのは希望の押し売りなんだ、例えば浮かぶ雲のゆらゆらな型みたいなものがあれば。
そんなものは都市伝説に過ぎないと口々に少女たちは疑う。
階段の床がグラデーションをなしている。白と黒のモノトーン。黒は玄武岩、白は大理石。かたちも変化し、菱形からぐにゃげてしなやかに鳥へと羽ばたきを始める。カラスのようでもあり、カケスのようでもある。
感慨は無いが、毎回毎回初めてのように驚ける。
そもそも型ってなんなんだ?
その言葉が曖昧すぎだ。
さっと頭によぎったのは童子が踏ん張っている身体のフォルム、型だ。
あれ、イチゴパフェだと思ったんだけどな。
いろいろ言われている。つくりやまいを無くしてくれるとか、つくりやまいを支配下に置くとか、現実を楽しく生きるためのメソッドだとか。
どれでもいいが、なんだか支えになってくれているようで助かっている。
そうだ、こんなのもあったんだ。
つくりやまいは誰かが仕組んだ企みだ、って。だとするとバラまいた誰かさんがいるわけで、そいつはこの状況を嘲笑っているのか、愉快に思っているのか。
思い巡らせ過ぎた、疲れてきた。
私は寝る。
起きて世界が変わっていようとも、ちっとも驚かないつもり、平気です、平気なのだ、そうするのだ。
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