記録:クラウド・ホライゾン、アーカイブ1
夜はちっともあけようとはしない。
エージェントたる少女たちは物陰にじっと身を潜めていた。
ダーリアが腹痛を起こしてさえいなければ。
ここ選定帝国領の寒地でももっとも厳しい土地柄もあるとはいえ、ジェラートを食べすぎたのはいただけなかったのかもしれない。
それほど美味で魅惑的な見目だったからだ。
『魔法』はまだ働いているはずだった。
見えているのに見えていない物語。
コンパクトから窺い知るは主人と奴隷侍女の激しい性交。
主人の『神学大全』がどこまで及ぶのかは未知数だ。
ほんのり上気する精神を訓練の賜物によって押さえ込み、ウルゥフアは物語で翔んだ。
焦点の合わない目と交差し、隠し部屋へと入る。
そこは花の丘、花びら舞い落ちる清涼の園。
焦りもありながら、目的のものを急いで探す。
蜂蜜の蕩かせが、ウルゥフアを侵食しようとする。
雨をおもった。
土砂降りで、天を仰いで立ち尽くす自分。
洗い流すのが身を委ねられる。
弾けて、目の前が晴れた。
格式ばったメイド服を身に纏っている。
儀礼に則った礼をした。
健気に咲く場違いな花に額をチョンと合わせる。
隣の蕾が震えて、地面に落ちた。
紫光の蝶が羽を羽ばたかせる。
羽ばたきが文字を描いた。
感謝して腕に書き写す。
祝福のワインの乾杯。
「ダーリア…」
『百鬼夜行図』が腕を伸ばし、ウルゥフアを仲間の元へと連れ戻す。
娘ごの際限ない欲望に掠った、気分が燃え上がった。
『魔法』が覚めないそのうちに。
風の向くまま、吹くまま、壁の隙間から『折り紙』で外へと抜ける。
花を摘んでいたタウイスが花冠を抱えて迎える。
「すべては『聖書』のとおり、ってことかしら」
「どっちかっていうと『シャリーア』じゃないかしら」
「『バベルの図書館』には無いかもね」
みんなでわいわいして無邪気にはしゃぎあった。
空にはまんまるなお月さまが静かにいてくれる。
アムリタの匂いがした。
モスリンの風ざわりが、認識を新たにした。
わたしたちはどこまでいっても底を歩くしかないのだけれども、心持ちを変えることはできる。つくりやまいはどこまでも付きまとう、それをどうするかは型かもしれない。
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