第二十四話 アーリアル対カルコーク
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カルコークは、混乱する部隊の立て直しに追われていた。
「くそ、なんだこの妨害電波は! 中和できんのか! 三隊に分かれろというのに!」
「恐らく、今回のために特別にしつらえた電波だと思われます! 今の我々の装備では、通信を回復できません!」
部下が入れてくる通信が、雑音と共にかろうじて聞こえる。しかし少し離れたところにいる機体は、まるで指示が通っていないらしく、どれもこれもうろたえていた。
「くそ、引き包んでしまえば、どんな機体もそれまでだというのに」
レグルス二機の動きは、カルコークから見ても凄まじかった。空中に足場があるかのごとくに機敏に飛び回り、こちらが放つビームは
瞬く間に、また一機落とされた。
むろん、カルコーク隊のパイロットも
カルコークの背中に悪寒が走った。引き包んでしまえばそれまで。それは間違いない。だが、あいつらはそれをさせない。いつまで? ……こちらが、全滅するまで?
「ばかな……勝てる戦いなんだぞ、これは。数で圧し、司令塔は私だ……負けるはずが」
思考停止しかけたカルコークの背後で、爆発音が響いた。味方機が直撃を受けている。
一度はシヴァ有利に傾いた戦況が、押し戻されている。カフィニッシュ基地の方のサントクレセイダ
――窮地にある。圧倒的優位のはずが、敗北の足音がすぐ近くまで近づいている。
その事実は、パニックを誘発しても無理からぬものだったが、カルコークは一転、冷静になった。彼もまた、東部戦線のエースである。
どうやら、西路での計画は失敗したらしい。
そもそも敵を侮っていたのが過ちなのだ。
ならばそれをただせばいい。
手広く全てはやれない。やるべきことを絞れ。
「おい、近くの
三機の
「お前たちはこれから、伝令役として全機へ指示を伝えろ。後ろから現れた敵は、我が
■
最初に、アーリアルが異変に気づいた。
「なんだか、急に敵の統率が取れてきた……?」
シヴァ機のほぼ全機が、次第にカフィニッシュ基地へ向かって行く。
代わりに、五機の
「我が名はカルコーク・ダイアゴナル。この距離なら通信ができるかな? 我が信じる者たちと共に、君たちに挑みたい」
先頭の
「君たちって? 私とザックス――黒いレグルスを、同時に相手にするの? たった五機で?」
「ただの五機と思わない方がいい。私は、遠からず
イスピーサ、という言葉に、アーリアルの首筋の毛が逆立った。
ザックスのレグルス
「アーリー、やるか」
「いや、こいつは私一人でやる。それくらいでないと、いけない」
「アーリー?」
「勝算はあるんだ。私は、その正しさを私が証明しないと、ザックスの傍にはいられない」
「……分かった。気をつけて」
「私を信じてほしい」
「信じているから、心配するのさ」
「貴様ら、何のつもりだ! 白いの一機で我々とやるつもりか!」
アーリーが吠えた。
「負ける奴の勝手が通ると思うな! お前らこそ、私に勝てるつもりなのか!」
「声からして、どうも小娘だな。いいだろう、機体の素晴らしさは認めてやろう。だが、乗り手の経験というものがあるぞ、貴様にはいまだ見えていないものがあろう!」
カルコークら五機は、
「よし、お前たち、包んで挟め!」
「よしよしよし! これで一斉射撃すれば、いかなレグルスの
アーリアルは、彼女らしからぬ静かな口調で、それに答えた。
「……私とお前たちで、法則が違う」
「……何?」
「お前たちは減る」
「はは、やってみろ。お前たち、構えっ! 接近するなよ、向こうの得意分野だ! それでは――」
――撃て。
その言葉と同時に、カルコーク機と
着弾の一瞬前に、
それをめがけて、残った二機の
「追っ手、撃て!」
の合図で撃つ。
だが、その二発は、アーリアルが弾道を見切って
代わりに、たった今射撃したばかりの
カルコークは一瞬放心して、
「なに……?」
とこぼすのがやっとだった。
アーリアルは残った三機を見下ろして、
「
「ばかな……今のは、ただの
「ヒートカウンターを、私は高速で連射しても外さない。死にたくないなら、私を撃たないんだよ」
「せ……接近戦だ! お前たちアックスを抜け、奴を」
「――三連!」
アーリアルが吠えると、紫色の三つの閃光のうち二発が、右手にいた
それを見たカルコークから、急激に戦意が喪失されていった。こうなると、脳波によってコントロールされている
その様子を察知したアーリアルは、ビーム二発で、
「ばかな……ばかな。奴は、一機だ。小娘が一人だ。どうして……」
「法則が違うと言っただろう。私は、一人だからいなくならない。二人も三人もいると、いなくなるから……」
残った
カルコークははっとして、「や、やめろ! そいつに手を出すな!」と叫んだ。
しかし、レグルス
爆砕する
「残り、一人か。カルコークとか言ったな。お前、偉いんだな?」
「何を……」
「多分、ザクセンはお前を必要とする。まだ何も聞いていないけれど、多分だ――」
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