第九話 死なない者だけの出撃
■
二人は教室を飛び出て、一階の作戦室に舞い戻った。
しかしそこにいた大人たちは、一様に顔が赤い。
「全員飲んでるんですか!」とアーリアルがぞっとして悲鳴をあげる。ザクセンと大人たちとの気構えの差に、眩暈がした。
ザクセンがアーリアルを制して、
「少量でもアルコールが入っていれば飛べませんよね。ここは僕とアーリアルが出ます。他に飛べる人は!?」
「自分が出られます」とトーキンが歩み出た。「自分を含め、
ザクセンが身を翻しながら言う。
「では、僕とアーリアルのレグルスに着いてきてください。行くよ、アーリー」
「待ってザックス。キーフォルス中尉、敵の数や距離は、もう分かってるんですか?」
問われたキーフォルスが歩み出た。どうやら飲んでいないらしく、アーリアルはこの上官に失望せずにいられたことに安堵する。
「東より十機、全て
「うそ!? なんでこんなにすぐ、そんな数が!?」
「恐らくは、近隣の機体の精鋭を揃えたのだろうな」
「なら、それを全部落とせばいいんだ」
アーリーの発想に、キーフォルスはたじろぎそうになった。強いて落ち着かせた声で答える。
「確かにそれが実現できれば、この辺りはしばらくは安泰になりそうだ。だがアーリー、いいか、毎回敵を全滅させる必要は……」
「あります!」
そう言って、アーリアルはザクセンと共に
小太りのカフィニッシュ基地長ゴルデンが、キーフォルスの肩を叩いた。
「頼もしいお二人ですな。うちのトーキンなどとはものが違う。あの若さ、いや幼さで、
「いえ、まだまだ危ういところもありまして。……血気に早らなければいいのですが。先を急ぐ戦士は、命も早く失うものですから」
■
二人のエースは、すぐに格納庫のシャッターを開け、戦闘機形態で収められている白と黒のレグルスに乗り込んだ。
「それにしても、私たちの味方はどうなってるの! ほとんどが酔っ払ってるなんて」
指向性通信で回線を繋いでいるザクセンが、苦笑して答えた。
「まあ、仕方ないよ。この基地、ずっと苦杯を舐めてたみたいだし」
「それにしたって、最前線なのは変わらないでしょう。酔うかしら、普通。自分を万全ではなくすのが、そんなに気持ちいいの?」
「さてね。もしかしたら、酔わされたのかもしれないし」
「……え?」
二人は互いに、お互いだけにしか通信を開いていないことを確認した。
「ザックス、どういうこと?」
「君の言う通りだよ。普通酒盛りなんてする状況じゃない」
「……誰かが誘導したってこと? 今、夜襲だって受けているのに」
「夜襲される時に、基地を無力化できるように、かな。
「そんな……それって……つまり」
「今は詮索している暇はないからね。ま、トーキンさんたちも入れて
ザクセンは、ついてきた三人に通信回線を開き、「トーキン少佐たちはどう?」
「こちらトーキン。済まない、ザクセン・フウ殿。我ら三機、システムのリロードが必要のようだ。数分かかる」
そこに、幼い少年の声が混じった。
「すみません、アーリアルさん、ザクセンさん! すぐに飛びますから!」
アーリアルが、自分よりも若々しい声を聞いて、「誰誰さん? いくつ?」と訊く。
「マコ・ワンスーンと言います。トーキンの弟で、十四歳です」
トーキンの慌てた声が割り込んだ。
「失礼しました、お二方。構わんでください、諸事申し訳ない」
「大丈夫。先に僕とアーリアルが出ますから、火が入り次第出てください。ザクセン、レグルス
「アーリアル、レグルス
そうして、二機のレグルスだけが飛び立った。浮遊エンジンがあるので、助走はほぼ必要ない。
夕暮れ時の空を、二羽の
「ザックス、図らずも私の言う通りになった」
「あのね、結構しんどい戦いだよ、これは」
「あの三人、来なくていいよ。死なれたくない」
「僕は、君にこそ死んで欲しくない」
アーリアルが何と言っていいか分からず言葉に詰まった時、前方の夜空に敵影が見えた。視界が不明瞭でも、AIが敵機を、前面の視界スクリーン上で可視化してくれる。
アーリアルが、
「来たっ!
と通信を入れ、レグルスを人型に変形させた。ザクセンも同様にする。
そして、二機対十機の戦闘が始まった。
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