第三話 赤いスカートの死神 後編
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先発したザクセンは、戦場で初めての膠着状態を強いられていた。
彼は初陣で、敵国シヴァの
二戦目では敵の量産機二機が相手だったが、ここからはレグルスで出撃し、これも容易に圧倒できた。
ただ、これらの時はいずれも、直接的な援護ではなかったにせよ、味方機が周りにいた。この基地に配属された初日、本気で「戦争を終わらせたい」と唱えたザクセンを笑ったとはいえ、経験豊かな先輩たちがいた。
しかし今は一人だ。
しかも、相手の五機はウルシェダイという
その五機が絶妙な連携をとって、ビームによるロングレンジ戦術で攻めてきていた。これでは、いくらエース機のレグルスでも分が悪い。
幾筋もの火線が空に閃いた。
ビームも弾丸も目で見てからでは避けられないため、機体に積んだAIによるオートディフェンスで避けるしかない。これはパイロットの手動操縦とは無関係に、敵武器のビーム射出を察知した瞬間に自動的にマシンが
具体的な挙動は、半身になって敵のビームをかわす程度の最小限のものだが、次から次へと弾が撃ち込まれてくれば、全てかわし切れるというものでもない。
この五機は、ザクセンが見た限り、チームでの訓練を相当に積んでいる。
このままでは、やがて回避に限界が来た時、撃墜されてしまうだろう。
「迎撃戦は難しいものだな……勉強になるよ。でもね……僕は、一度たりとも負けるわけにはいかなくてね!」
ザクセンが機体を高速で後退させた。五機のウルシェダイがそれを追う。だが、追撃に夢中で陣形を崩すようなことはしない。
ザクセンは、いっそレグルスを人型から戦闘機形態に変形して一度離脱しようかとも考えたが、そんな隙もなさそうだった。
「一糸乱れないとは、凄いね。それでも、いつかは決めに来るだろう……その
ザクセンはタイミングを計っていた。いつか、ほんの一瞬、敵機のいずれかが、手柄首を己が取らんがために生まれる隙が必ずある。
ザクセンが、回避挙動の合間に撃つビームもまた、敵の
こちらに有利な点が一つでもあれば、勝算は無限にある。神妙に、ザクセンが目を細めた。その時。
真後ろから走った火線が、ザクセンの視界をかすめた。
「新手!?」
だがそのビームの色には、ザクセンには見覚えがある。
「紫の光、……あれはムスペルヘイム――レグルス専用の
ザクセンの叫びには、喜びの色があった。それに、指向性通信を入れたアーリアルが応える。
「あんたが、握手の時に渡してくれたでしょう、これのキーを! 他のじゃなくてレグルスのってのが、分かってるよね!」
「アーリー、操縦はどう!?」
「問題ない、学校で鬼教師に仕込まれた通り! あと五秒であなたの隣に行けるよ、ザックス!」
「よし、その瞬間に上下に分かれる。敵の照準を散らすよ!」
その言葉の通り、白と黒の二機のレグルスは一瞬だけ横に並び、すぐにアーリアルは上、ザクセンは下に分かれた。
ウルシェダイの攻撃は、敵の急な増援に戸惑ったせいで、統率を欠いて散らばる。そして彼らも二手に別れ、二機が上方のアーリアルへ、三機は下方のザクセンを追った。
「アーリー、同時に! 三発だ!」
「うん、当てる! 三連、撃つッ!」
レグルス両機は、同時にムスペルヘイムの引き金を引いた。
しかしその火線は、上へ上がったアーリアルが放った方は、ザクセンを追っていた下方の三機へ向かった。逆に、下へ下がったザクセンのビームは、アーリアルを追った上方の二機へと、それぞれに伸びて行く。
上下のウルシェダイが一機ずつ、後背からのビームを受けて大破した。
「よし、アーリー、近接! でも君は腕のビームエッジを使うより、銃の方がいい!」
「分かった、銃でやる!」
「君って、思ったより素直なんだね!?」
「分かり合えそうな人にはね!」
そこで通信が切られ、ザクセンの黒いレグルスは、左手の甲に横長に開いた射出口から、赤いビーム刃を現出させた。手の甲から指先の方へ伸びた刃のサイズは、人間で言えば少し長めの短剣程度のもので、格闘戦専用武器と言えた。
ウルシェダイは、遠距離戦用の
慌てて
ギシュン、と独特の蒸発音が響くと、パイロットが絶命したウルシェダイは、浮遊エンジンも止まり、力なく落下を始めた。
もう一機は、既に撤退を試みている。そちらにも、あっさりとザクセン機は追いすがり、密着した。
「君たち、ワーズワースという地方基地への五機での急襲は、さぞかし成功裏に見えていたことだろうね。ついこの間までなら、決して悪い作戦ではなかった。でももうだめだよ、ここには二週間前から僕がいるし――」
ザクセンは上方を見上げた。
「――ザックス、こっちは落としたッ!」
その通信音声を耳にしながら、ザクセンはビーム刃を奔らせた。それを受けて、最後の敵機があっさりと大破する。
「今日からは、彼女もいる!」
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