第二話 赤いスカートの死神 中編
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三人は、空港内の格納庫へ向かった
巨大な引き戸を左右へ開けると、三機の戦闘機が収められている。
キーフォルスが、順に指を差していった。
「アーリアル、ここにあるいずれかの
「はい。
「よし。右手にある白いのが最新鋭、エース機のレグルスで、うちには二機しかなく、これがそのうちの一つだ。中央のがルックバルッツ、人型と飛行機型に変形可能な準エース機で、サントクレセイダでは主力兵器の一つとなっている。左手のはパイスクス、変形はできず戦闘機形態のみの機体だ」
「ちなみに僕はレグルスに乗ってるよ。さっき表で整備していた、黒いのがそう」
「え、あの黒い、なんだか凄そうなやつ!? なら、私もレグルスがいい」
キーフォルスは腰に手を当てた、
「いいの悪いのは、君が決めることではない。ザックス、今日はアーリアルをその辺案内してやれ」
「了解しました。色々見せてあげるよ、アーリー」
「馴れ馴れしいよ。あんた、私の夢を聞いて笑ったくせに。しかも適当なこと言って」
それを聞くと、ザクセンが浮かべ続けていた微笑が消えた。
「そうか、言葉が足りなかったね。さっき僕は、適当に調子を合せたわけではないよ。僕がずっと言い続けて、その度に笑われてきた夢を、君が口にしてくれたのが嬉しかったんだ。信じて欲しい」
え、とアーリアルが瞼をしばたたかせる。
「……あんたも?」
「誓ってね」
アーリアルが、きまり悪げに目を逸らした。
「……それなら、悪かった。恥ずかしい、人の笑い顔の区別がつかなくなってるなんて」
「君も、笑われてきたんだね」
「でも、諦めたくなかった。いつかは分かってくれる人がいるはずだと思ったから」
「ここにいるよ。この基地にきて、僕はよかった。君がいてくれたから」
ザクセンが、右手を差し出した。アーリアルが、おずおずとそれに応えようとした時。
ヴー! ヴー!
キーフォルスが血相を変える。
「警報!? 敵襲だと!? ちっ、ザックス!」
「すぐに出られます。アーリアル、また後で!」
そう言って身を翻すザクセンに、アーリアルが叫んだ。
「アーリーでいい!」
「いいのかい?」
「自分の名前、あまり好きじゃないんだ。だからそっちの方がいい」
「よし、行ってくるよ、アーリー!」
ザクセンは一度駆け戻り、アーリアルと握手すると、整備場へと走り去った。
それを見届けて、アーリアルがすぐ横にいるキーフォルスを見上げる。
「いや。君は出さんぞ。何を考えている」
「訓練で、シミュレータだけでなく実機でも飛んでいます」
「訓練は訓練、実戦は実戦だ。飛ぶのは、最低でも二週間は練習してからだ。ここはザックスに任せろ」
「彼も私と同期でしょう。敵がどんなので何機かも分からないのに」
「彼は二週間前からここにいる」
「じゃあ、練習が開けたばかりじゃないですか」
「いいや。あの少年は一週間もせずに実戦に出た。今日までに、もう三機も落としている」
「一週間……三機……」
格納庫の外からエンジン音が響いた。ザクセンの乗るレグルスが、整備場を出て飛び立ったらしい。
すると、格納庫の扉に、アーリアルが先程見知ったばかりの少女が現れた。
「キーフォルス中尉、レーダーによると敵は五機です」
「マリィ!? あなたがどうしてレーダーなんて」とアーリアルが叫ぶ。
「アーリアル、こういう小さな基地にいると、皆何でも屋さんになるのよ」
マリィが困り顔で微笑んだ。
「そういうものなのだ、アーリアル。さて、事務所に戻るぞ。ザックスを援護せねばならん。さすがに、一度に五機相手は厳しかろう」
マリィは一足先に軍事務所へと走る。
アーリアルは、キーフォルスに続いてとぼとぼと格納庫から出た。そして、上司が巨大な扉を締め切る瞬間に、再び格納庫の中に飛び込む。
「何だ!?」
アーリアルは、全身の力を込めて引き戸を閉め、内鍵をかけた。
外からキーフォルスが拳で扉を叩くのを聞きながら、ある機体へと駆け込む。
「おいっ!? アーリアル、お前なんてことを! 今すぐ開けろ、どの道、始動キーがなければどの機体も動かんぞ!」
しかしキーフォルスの叫びとは裏腹に、格納庫の中からはエンジンの始動音が聞こえてくる。
「ばかな、なぜ動く!? ……くそ、どの機体だ!? まさか……」
格納庫の中から、アーリアルの声が響く。
「キーフォルス中尉! 扉から離れてください!」
「何を言うか、今すぐやめるんだ! 今なら……」
バキン!
激しい音を立てて、巨大な引き戸は、内側から押されて外された。
「うわああああっ!!」
ドミノのようにこちら側に倒れてくる戸をすんでのところでかわして、そしてキーフォルスは、歩み出てくる巨人を見上げた。
さっきまでは戦闘機形態だったのが、人型に変形して二足歩行している。レグルスだ。
「アーリアル、よりによってなぜ
レグルスは人型になると、コックピットが胸部にくる。その外部スピーカーから、アーリアルの声が響いた。
「本当ですね! 分かりますよ、違うってことが!」
「そうだ、だから降りるんだ!」
「シミュレータと違うので、降りるための操作方法が分かりません! やむを得ず、本機はひとまず、敵の脅威を除いて参ります!」
レグルスは全身を格納庫の外へ出すと、
機体の右手には|BB⦅ビーム・バレット⦆シューターと呼ばれるライフル型の銃を持っている。
「アーリー!」と、思わずキーフォルスは愛称を叫んだ。
「そうです、私のことはそう呼んでください! キングス、発進します!」
レグルスの足裏とバックパックのバーニアが火を吹いた。
瞬く間に二十メートルほど上昇した巨人は、続いて前方へと空を駆ける。
軍事務所から、マリィが駆けつけてきた。呆然としているキーフォルスの横で、呟く。
「凄い。全部置き去りにして、もう飛んじゃった……」
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