第十一話 キルティキアン・フウ
シヴァのパイロットの一人が、
「つ、包めば……包めば勝てるのにい……」
と力なく呟く。十機で勝てない相手に、五機で挑めるわけがない。もう、包囲戦術は到底不可能だった。
この十機は、機を逃さず奇襲するために近隣から急遽かき集めた戦力だった。普通、機体の性能差がどれだけあろうと、三倍以上の兵力があれば圧倒できる。それなのに。
残された五人のパイロットは、まるでこの二機の敵エース機が、この東部戦域のシヴァ軍全軍を屠ってしまうような、絶望的なプレッシャーにさらされていた。
それを見て取りながら、ザクセンは通信を入れる。
「……アーリー」
「ザックス、やれる! 二人で勝てる、全部やれるよ」
「いいや。下がるんだ」
「了解っ、下がる……下がる?」
アーリアルは、ザクセン機を振り返った。
人型をした黒いレグルスの顔――その目の位置に付いたカメラが、敵の奥側へ鋭い視線を投げかけるようにして動きを止めている。
アーリアルも同じ方向を見た。
それは、アーリアルが初めて見る機体だった。空の奥から、黄昏にぽつんと灯った白銀色が近づいてくる。
戦闘的な、いかめしいフォルム――だが、カラーリングのせいか、蛮族めいてはいない。人型をしており、サイズは、レグルスよりもやや大きいように見えた。
両手に一丁ずつのビームシューターを持っており、両肩には長射程ガトリングが物々しく搭載されている。
「アーリアル。残りの五機、任せてもいいかい? 僕は、あれの相手をする」
「ザックス……あれ、もしかしてシヴァの……」
「うん。
その時、範囲通信が、
「この空域の全機に告ぐ。まず、我が軍の残機五機は撤退せよ。また、敵軍に置かれては、白いレグルス。貴機は帰投したまえ。黒いレグルス、貴機は我が軍が接収する」
アーリアルは、
敵の五機も戸惑っているように見えた。当然だろう。助太刀に来た味方に、これでせっかく盛り返せるという時に、戻れと言われたのだから。
「ザックス、なんだあれ。あれから墜とそう。……ザックス?」
「アーリー。帰投して」
アーリアルは、ザックスが狂ったのかと思った。
「何言ってる、ザックス。敵と同じことを言う味方なんて」
「そうしないと君が死ぬ。いいね」
ザクセンの黒いレグルスが、白銀の敵に向かって前進を始めた。
「ねえって、ザックス! 不可解だな、なんで!?」
「アーリー、君がここまで敵を圧倒して来られたのは、もちろん君自身の腕前もあるけど、レグルスの性能も大きかったはずだ。それに加えてパイロットが君だから、これまでの僕たちは優位でいられた」
「ザックス、話すなら止まれッ!」
しかし、ザクセンは止まらない。
「この相手は違う。機体の性能も、パイロットの質も、僕たちより上なんだ」
アーリアルは息を飲み、のけぞって鼻白んだ。
「二対一でもか!」
「さっきアーリーがやった、地力に劣る敵からの各個撃破。それをやられるだけだよ。さあ、戻るんだ。僕は……」
ザクセン機が、イスピーサの目前まで来た。
だが。
「接収など誰がされるか! 僕は、一人でこの人を屠る!」
レグルス
「ザックス!」と叫ぶアーリアルの声にも構わず、
「覚悟するんだ、白銀のイスピーサ!」
気合を吐くザクセンに、イスピーサから、先ほどの通信と同じ声が、ぞっとするほど低く告げられた。
「薬をやろう。辛かろうな。戻れ、ザックス」
そして、ザクセン機のビームエッジが空を切った。
「くっ!」
鋭く回避したイスピーサに、ザクセンが追いすがる。
アーリアルが加勢しようと前のめりになった時、すぐ脇を、頭上から降ってきたビームがかすめた。
「なにを!? ……あの敵たち、まだいたのか!」
上方には、イスピーサからの指示を無視して留まった五機がいた。
「そうだよね、あんたたちも手ぶらじゃな帰れないよね……でも、邪魔をするなら、全員死ぬんだから! 生きて帰るのは、私とザックスだけだ!」
レグルス
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